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拉致問題で譲歩、後退する安倍政権 過去の発言から180度転換

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
拉致被害者家族会代表らと面談する安倍総理(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 安倍晋三総理は昨日、金正恩委員長との首脳会談実現に向け無条件対話を呼び掛けた。

 圧力一辺倒から対話に路線をシフトしたばかりか、「日朝首脳会談を行う以上は、拉致問題の解決に資する会談としなければならない」とのこれまでの前提条件をも外してしまった。

 受け止め方によっては、「先国交交渉、後拉致交渉」と、国交交渉を最優先させ、その過程、即ち出口の段階で拉致問題を解決するとのメッセージにも聞こえなくもないが、この方針転換について拉致被害者家族の会や「救う会」からは批判の声は上がってないようだ。

 安倍総理からすれば、拉致問題解決のための現実的な戦術転換もしれないが、過去の発言からすれば、これは明らかな譲歩、後退である。

 「拉致問題で総理大臣になった」と言われても過言ではないほど、安倍総理は拉致問題に力を入れ、また積極的に発言をしてきた。その中から象徴的発言を8つ挙げ、今回の無条件対話提唱がいかに致し方のない「苦肉の策」だったかを浮き彫りにしてみる。

 ▲「北朝鮮は重油も止められ、食糧も不足し、核問題で外交的にも孤立しているので必ず折れてくる、時は日本に味方している」

 これは17年前の2002年10月、官房副長官時代の発言だ。結局のところ、北朝鮮は折れず、日本が先に折れることになった。17年経っても時は決して日本に味方してくれなかった。

 ▲「北朝鮮の善意を期待しても動かない。彼らを動かすのは圧力のみで、経済制裁法案を通したら拉致被害者5人の家族が帰ってきた」

 これは15年前、幹事長代理(2004年)の座にあった時の発言(12月2日)だ。善意を期待しても動くような国ではないのに善意を期待して無条件対話を呼び掛けたのだろうか?要は、最大の圧力、制裁を掛けても、5人以外誰一人、帰国させることができなかったことに尽きるようだ。

 ▲「拉致に対して北朝鮮が誠意ある対応を取らなければ日本が何か出すことは基本的にはない」

 第一次安倍政権時代の2007年2月5日、総理官邸での発言だ。北朝鮮が拉致問題で誠意ある態度を取ってないのに今回、結果として日本が先に動くことになった。

 ▲「今、国会を解散して選挙がスタートしようとしている時にこういうこと(日朝交渉)を持ち掛けるのは、明らかに北朝鮮に足元を見られる以外のなにものでもない」

 民主党政権下の2012年11月、野党・自民党の総裁として北朝鮮に交渉を呼び掛けた野田政権を痛烈に批判していた。今回も2か月後には参議院選挙が控えている。同じように北朝鮮に足元を見られることになるのではないだろうか。

 ▲「北朝鮮がこれまで約束を守ったことがなかったことに注目しなければならない。だから、強い圧力が交渉のために必要だ」

  第二次安倍政権下の2012年12月28日、拉致被害者家族会との面談の席で、圧力の姿勢でもって、解決にあたりたいと強調していたが、今回、金委員長との首脳会談実現に向けて「圧力」という言葉を引っ込めてしまった。

 ▲「対話のための対話は意味がない。金正恩と握手するショーを見せるための会談であってはならない。結果を伴わない会談は相手を利するだけだ」

 これは2年前の2017年3月夕刊紙「フジ」(13日付)とのインタビューでの発言だ。対話のための対話はやらないと繰り返し言っていたが、今回は向かい合ってみなければ、先に進めないとばかり、無条件対話を呼び掛けている。

▲「対話による問題解決の試みは,一再ならず,無に帰した。なんの成算あって,我々は三度,同じ過ちを繰り返そうというのでしょう。北朝鮮にすべての核・弾道ミサイル計画を完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で,放棄させなくてはなりません。そのため必要なのは対話ではない。圧力なのです」

 一昨年(2017年)の国連総会での演説(9月21日)で世界各国に対して対話による問題解決ではなく、圧力による解決を呼び掛けていた。

 ▲「日朝首脳会談は拉致問題の解決につながらなければならない。ただ会って1回話をすればいいということではない」

 昨年5月のフジテレビの番組での発言だ。日朝首脳会談は拉致問題の解決を前提にしていたが、今回は、そうした前提を付けずに無条件対話を呼び掛けた。

 持久戦と長期戦という名の「日朝の綱引き」で結局のところ、毅然たる外交を標榜していた安倍政権が先に手を緩めざるを得なくなったのは米朝首脳会談や南北首脳会談など日本を取り巻く國際情勢の変化にもよるが、拉致被疑者の高齢化を前に待ったなしの状況に追い込まれてしまったことに尽きるようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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