Yahoo!ニュース

ヘンリー王子の婚約者メーガン・マークルさんは「黒人」それとも「白人」?

木村正人在英国際ジャーナリスト
ヘンリー英王子、米女優との婚約発表(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]ニューズウィーク誌電子版に「英王室はそれでも『黒人プリンセス』を認めない(Meghan Markle 'Won't Be Allowed to Be Black Princess')」という記事が掲載されているのでビックリしました。元記事を調べると、アメリカ電子版の記事です。若手の女性記者が「専門家によると、ロイヤル・ファミリーはメーガン・マークルが『黒人プリンセス』になるのを許さないだろう」と書いていました。

白人至上主義に通じるような発言を繰り返すドナルド・トランプ大統領の誕生で、アメリカでは「黒人」か「白人」か、という肌の色の違いが改めて対立軸になっています。バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者と反対派の衝突について、トランプ大統領は「双方に責任がある」という見解を強調し、非難を浴びました。そんなアメリカから見ると、ヘンリー王子との婚約を発表した米女優メーガン・マークルさん(36)の母親がアフリカ系黒人であることが大きな問題になるようです。

パキスタン系移民2世のサディク・カーン氏がロンドン市長になった時、「欧州連合(EU)加盟国の首都でイスラム教徒が市長に選出されるのは初めて」と世界中でビッグ・ニュースになりました。公選ではないもののオランダ・ロッテルダムのアハメド・アブタレブ市長はモロッコ系移民1世。多民族と多文化を売りにするロンドンで暮らす筆者は、イスラム教徒か否かが大きなニュースになるとは思ってもみませんでした。

王位継承順位2位のウィリアム王子と、キャサリン妃の間に第3子が誕生すると、ヘンリー王子の王位継承順位は現在の5位から6位に下がります。そもそもマークルさんが「プリンセス」と呼ばれる可能性はかなり低いような気がします。このご時世、「王子」や「王女」を名乗らないロイヤル・ファミリーもいるぐらいです。

27日のフォトコールや約20分のインタビューを見ていて、マークルさんが「伯爵夫人」という爵位に必要以上にこだわるだろうかと筆者は感じました。マークルさんは白人の父親、アフリカ系黒人の母親を持つミックスド・レース(混血)、日本風に言うと「ハーフ」です。ヘンリー王子が指名した英BBC放送のインタビュア(聞き手)はパキスタン系移民2世の女性プレゼンター、ミシャル・ハセインさん(43)でした。

マークルさんが黒のノースリーブで登場し、肌の色を強調して見せたことにも2人の強いメッセージを感じました。インタビュアは次のように尋ねます。

――マークルさんの民族的背景がメディアの取材にさらされたことがありましたね

マークルさん「もちろん、がっかりさせられます。御存知の通り、世界中で民族的背景にこれだけ注目が集まることは残念です。差別につながりかねないでしょう。しかし私は自分であること、自分の出自に誇りを持っています。すべての雑音を取り除いた時、2人で一緒にいることをエンジョイするのは簡単だと悟りました」

――ヘンリー王子に聞きます。バックグラウンドの異なる2人が一緒になることは新しい何かをロイヤル・ファミリーもたらすという意識は持っていますか

ヘンリー王子「何が新しいのか、私には分かりません。私にとっては新しいメンバーが家族に加わったということです。歪んだ見方より、正しい感覚で若い世代や他の人たちが世界を見ることができるよう勇気づけていくことこそ、ロイヤル・ファミリー全員が望んでいることです」

2015年、マークルさんは女性ファッション雑誌エルに自分の民族的背景についてこう書いています。

「私は黒人半分、白人半分です。二分法でははっきりしなくなります。グレーゾーンです。子供の頃、学校の先生が私に白人のチェックボックスに印をつけるよう言ったことがあります。非常に困りました。家に帰ると父が『同じことが起きたら、次は自分自身でチェックボックスを書き加えなさい』と教えてくれました。私は強く、自信に満ちた混血の女性であることを誇りにしています」

ヘンリー王子とマークルさんの婚約には肌の色の違いによる差別と偏見を乗り越えるという強い意思が込められているのです。

アメリカの国外向け国営放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」によると、アメリカの混血人口は1970年代には1%、現在は10%。2060年には現在の3倍になると予測されています。2011年のイギリス国勢調査によると、全人口が6318万人。うち白人は5501万人(87%)。白人・カリブ系黒人や白人・アフリカ系黒人、白人・アジア系などの混血人口はわずか125万人(2%)です。

トランプ大統領がどんなにあがいても時代は逆行することなく、さらに加速して進んでいきます。

イギリス国教会は2002年まで、前の配偶者が生きている離婚者との再婚を禁じていました。13年に王位継承法が改正されるまでは、ローマ・カトリック教徒と結婚した者は王位継承権を失うという非情な定めが残っていました。王位継承法を改正したのはロイヤル・ファミリーではなく、議会です。

イギリスの伝統と文化の象徴であるロイヤル・ファミリーも、エドワード8世が二度の離婚歴を持つアメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人と結婚するため退位した「王冠を賭けた恋」、チャールズ皇太子とダイアナ元皇太子のダブル不倫スキャンダルを経て大きく変わりました。

「ブラック(黒人)プリンセス」の誕生があるのか、ないのかと言えば、これからは十分あり得るというのが筆者の見解です。

可能性は限りなくゼロに近いとは言え国王になる可能性がゼロではないヘンリー王子とマークルさんが来春に結婚します。

「黒人」か「白人」かを問う規定は王位継承法にはありません。がしかし王位継承順位6位までの王族はエリザベス女王(君主)の承認がなければ結婚は許されません。君主は常にプライベートセクレタリーや週に1度は報告を受ける首相と相談した上で最終判断を下します。

2人がめでたく婚約を発表できたのはエリザベス女王が承認したからで、それはヘンリー王子が国王になる可能性も十分に考慮した上での判断だったはずです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事