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今後の二刀流継続が問われる大谷翔平を前に改めて凄かったイチローの慧眼

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB挑戦前から大谷翔平選手の打者としての才能を高く評価していたイチロー選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 現地5日にエンゼルスから発表された、大谷翔平選手の右ひじ内側側副靱帯に新たな損傷が見つかったというニュースは全米中を駆け巡った。すでにチームからも最善の治療法はトミージョン手術になることも併せて発表されており、米メディアの中でも今後の二刀流継続を含め様々な意見が飛び交い侃侃諤諤の状態だ

 最終的には10日に予定されているビリー・エプラーGMとの話し合いで、大谷選手自らが手術、もしくは回避を決めることになる。だが本人の決断がどうなろうとも、今後MLBで二刀流を継続していくという難しさは誰もが感じているところだ。

 本欄でも昨日、『大谷翔平は二刀流に別れを告げる時が来たのか?』という記事を公開し、大谷選手がスポーツ紙に語っているようにケガで戦線離脱することを「無駄な時間」と捉えているのなら、手術を回避した上で打者に専念し、MLB屈指の外野手の道を目指していくのが理想的だと論じた。実は米メディアの中にも、同様の意見が出てきている。

 ESPNのバスター・オルニー記者は平日に毎日更新されているポッドキャストの『ESPN BASEBALL TONIGHT』を担当しているのだが、6日付けの配信で大谷選手の今後について論じている中で、オルニー記者を含めポッドキャストに登場した4人すべてが打者専念に理解を示しているのだ。

 改めて説明しておくが、今シーズン開幕前の段階で大谷選手は二刀流として認められていたものの、評価されていたのは打者ではなく投手としての才能だった。オープン戦で打者として成績が残せない状態が続いた際に、米メディアの中には「打者としてマイナーレベル」と断じられたこともあったほどだ。その時点でも二刀流に懐疑的な意見はあったが、投手に専念した方がいいという声はあっても、打者に専念しろという声は皆無だった。

 それが現在のような状況を迎え、米メディアからも打者に専念すべきという意見が出てきたのは、すでに彼らも大谷選手の打者としての才能を高く評価しているからに他ならない。実際シーズンに入ってからの大谷選手の打撃はあらゆる面においてMLBでもトップクラスというデータが示されている。

 例えば現在のMLBでは強打者を示す指標として頻繁に使用されるOPS(長打率+出塁率)では、規定打席に達していないのでランクインしていないものの、.946はMLB7位に入るものであり、さらに長打率単体でも.579は同5位に入っている。また本塁打率(1本塁打当たりの平均打席数)においても、13.7はMLB全体で8位にあたるものだ。これらのデータが示す通り、すでに現時点でもMLB屈指の長距離打者の仲間入りをしていると断言できる。

 そこで改めて注目したいのがイチロー選手の慧眼だ。これまで大谷選手が日本ハムに入団し二刀流挑戦をスタートさせ、その後MLBに挑戦するまでの間、日米の野球関係者で大谷選手を語る上で出てくる意見は「二刀流を継続させるべき」「投手に専念すべき」のいずれかに絞られていた。そんな中ただ1人「打者に専念すべき」と主張し続けたのがイチロー選手だった。

 彼はメディアの取材を受け大谷選手について聞かれる度に真っ先に打者としての才能を高く評価し、「あんな打者はそうそう出てこない」とし投手として以上に打者として彼に注目してきた。中でもイチロー選手は大谷選手の非凡な長打力を評価しており、まさに現在の大谷選手はイチロー選手が見抜いた通りの打撃を披露しているといえる。

 これまで松井秀喜選手をはじめ数々の日本人強打者たちがMLBに挑戦してきたが、誰1人として本塁打のタイトルを争えるような存在にはなれなかった。イチロー選手の慧眼を信じるならば、大谷選手こそMLBでタイトルを狙える日本人最初の打者になれる逸材ではないだろうか。

 日本人選手がMLBの舞台を二刀流で席巻するというのは夢のような出来事ではある。だが日本人として初めて本塁打王のタイトルを奪取するのもこの上なく痛快なことではないか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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