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今こそ山本由伸が発揮すべき「中6日、100球未満、6イニング以上」を毎試合クリアするエース力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
メッツ戦で初めて6回を投げ切り、いよいよエースとしての期待がかかる山本由伸投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【やや苦しんでいるように見える山本由伸投手】

 昨オフに投手として史上最高額の12年総額3億2500万ドルでドジャース入りを果たし、シーズン開幕前から注目を浴び続けている山本由伸投手の投球をどのように評価されているだろうか。

 ここまで5試合に登板し、1勝1敗、防御率4.50という成績を見ると、同じくMLB移籍1年目のカブス・今永昇太投手が4試合に登板し、3勝0敗、防御率0.83という素晴らしいスタートを切っているだけに、物足りなさを感じている人も少なくないだろう。

 データ的に見ても、ここまでの山本投手の被長打率.435はMLB平均(.383)を上回っており、オリックス時代のように打者を圧倒するような投球ができているとは思えない(4月21日時点のデータ)。

 だがあくまで個人的な視点であるが、登板5試合のうちで山本投手の乱調で試合を壊してしまった試合は、デビュー戦となった韓国で行われたパドレス戦のみで、一応先発投手として最低限度の仕事は果たしていると考えている。

【メッツ戦で初めて6回を投げ切った意味】

 ただ山本投手は最低限度の仕事をするだけで許される立場ではないし、ドジャースもそれ以上の活躍を期待しているからこそ、大型契約を用意して彼を迎え入れたのだ。

 それでは現在の山本投手に求められていることは何かといえば、もちろん登板した試合で好投を演じることに他ならない。

 だがそれ以上に重要になってくるのは、現在のドジャース投手事情を考慮すると、好不調にかかわらず常に「中6日、100球未満、6イニング以上」を続けられるかという山本投手の“エース力”ではないだろうか。

 4月19日のメッツ戦で、7安打4失点(自責は3)されながらも99球で今シーズン初めて6回を投げ切った後、X上で「個人的には今回の山本由伸投手の登板が、今シーズン一番の内容だったと思っています」とポストしているのだが、ようやくローテーションの主力組として回る準備が整ったという思いがあったためだ。

【リリーフ投手陣の低迷は山本投手の起用法が一因?】

 唐突ではあるが、今シーズンのドジャース投手陣がシーズン開幕から低迷しているのは認識されていることだろう。実際チーム防御率は4月21日時点で、MLB17位の4.54に沈んでいる。

 中でもリリーフ陣がかなり不安定で、リリーフ陣の防御率4.35はMLB20位にランクしている状況だ。山本投手が勝利投手の権利を得て降板した2試合で彼に勝利がつかなかったのも、リリーフ陣が攻略されてしまったためだ。

 だからと言ってリリーフ陣を責めるのは、いささか早計だ。リリーフ陣が低迷している要因の1つに、山本投手の起用法が関連しているからだ。

 ここまで24試合を消化したドジャースだが、リリーフ陣の投球イニング数は103.1イニングと、MLB3チームで唯一100イニングを超えているのをご存じだろうか。

 ちなみに同じく24試合を消化しているマーリンズとレイズでも94.0イニングで、25試合を消化しているパドレスは91.0イニングに止まっている、それだけドジャースのリリーフ陣はフル回転を強いられていることを意味している。

 単純にドジャースの先発陣が長いイニングを投げられていないという面もあるのだが、それと同時に山本投手に十分な登板間隔を与えるために、何度かブルペンデー(先発からリリー投手だけで継投していく)で試合に臨んでいるためだ。

【グラスナウ投手以外の「イニング・イーター」が必要不可欠】

 これまでドジャースはMLB移籍1年目の日本人先発投手に対し、ローテーション通り中4、5日で起用するのが一般的だった。例えば2016年の前田健太投手も基本的に中4、5日の登板を続け、同シーズンは32試合の登板を果たしている(これが前田投手の自己最多先発登板数でもある)。

 ところが山本投手に対しては長期的な起用プランがあるためか、オリックス時代の調整法を維持させようと、中6日登板(1度だけ中5日)をメインにしていく方針を示している。

 その分先発ローテーションは変則にならざるを得ず、スポット枠の先発投手を用意したり、前述のようにブルペンデーで乗り切ってたりするしかない。それだけ他投手への負担が増すことになるわけだ。

 しかも開幕から先発ローテーションに抜擢されていたボビー・ミラー投手、カイル・ハート投手が次々に負傷離脱し、かなり先発陣が手薄になっている中、今はタイラー・グラスナウ投手に続き、登板ごとにしっかりイニングを投げてくれる「イニング・イーター」の台頭を、ドジャースは待ち侘びている状況にある。

【今こそ発揮すべき山本投手のエース力】

 だからこそ前述のメッツ戦では3回終了時点で4失点されながらも、その後は立ち直り6回まで投げ切った山本投手の投球に価値を見出したのだ。

 早ければ4月下旬からエース格のウォーカー・ビューラー投手が復帰する予定ではあるが、トミージョン手術からの復帰を目指す同投手に即フル回転を求めるのは難しい。やはりドジャースとしては、今後もグラスナウ投手と山本投手を中心にローテーションを回していくしかない。

 元々山本投手はオリックスでは絶対的なエースとして、他投手の負担を軽減し続けてきた存在だった。ドジャースでも中6日メインで投げさせてもらえるという特権を与えられているからには、同じ役目を果たしていかねばならない。

 オリックス時代のように相手打者を圧倒する必要はない。ポストシーズン進出を目指すチームのエースとして、他投手の負担を軽減するエース力を発揮するしかない。それができなければ、今シーズンのドジャースは今後も厳しい戦いを強いられることになるかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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