解説非常に興味深い記事です。現在進行中なのは、イスラーム過激派も国際政治や安全保障環境で一定のルールに従えば特定地域での権力奪取を承認されるという、イスラーム過激派馴致(家畜化)という文明論的実験です。その過程で、馴致されたイスラーム過激派が馴致されないイスラーム過激派討伐の最前線の駒として起用されることになります。これは、「テロとの戦い」を破綻に導いた恣意的運用の到達点の一つともいえます。シリアではすでに馴致を受け入れそうもない集団が他の宗教・宗派の施設を襲撃する事件が発生していますし、SNS上では相変わらず「少数宗派」に対して放送禁止用語を連呼して粛清を訴える書き込みが氾濫しています。「穏健化」とは、こういう主体の排除と取り締まりに責任を持つことですから、道のりは険しく、時に血まみれになることでしょう。
コメンテータープロフィール
新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。
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