<特派員の目>シリアとアフガン 「テロ組織」権力掌握の行く末=松井聡(ワシントン)
「政府軍はほぼ戦わずに逃げ出した」「国際社会は権力を掌握したテロ組織とどう向き合うべきなのか」――。 シリアのアサド政権崩壊に関する言及だと思う人も多いかもしれないが、2021年に南アジアを担当するニューデリー特派員として、アフガニスタンのイスラム組織タリバンの復権を取材した際に、タリバン幹部や国連関係者から聞いた言葉だ。 現在は北米総局員としてワシントンから米政府の動きを中心にシリア情勢を追う中で、アフガンを巡る情勢との類似性を感じている。国際社会が、権力を掌握した「テロ組織」とどう向き合うのかという課題は最も大きな共通点だ。 米政府はタリバンを「特別指定グローバルテロ組織(SDGT)」、シリアで反体制派を主導してきた「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を「外国テロ組織(FTO)」に指定している。 HTSは国際テロ組織アルカイダ系が源流だが、現在はキリスト教徒や少数派の保護など穏健な政策を強調している。実は、タリバンも復権に前後して、「恐怖政治」だとして批判された旧政権時代(1996~2001年)からの穏健化を強調していた。ただ復権後も中学以上の女子教育を禁止するなど強硬路線は続いており、いまだにどの国からも国家承認されていない。これを引き合いに、「HTSは信用できない」と指摘する専門家もいる。 ただHTSとタリバンには違いもある。当時タリバンで積極的に「穏健化」を発信していたのは、各国との交渉窓口になっていた「政治事務所」のメンバーだった。国際社会と協調する重要性も理解しており、私も何度も取材したが、「タリバンは変わるだろう」と思う場面が少なからずあった。 だが復権後、実際に意思決定しているとみられるのは強硬派で最高指導者のアクンザダ師だ。タリバン内には同師に対して不満の声があるとも伝えられるが、国際社会は手詰まりのように見える。 一方、HTSで穏健路線を明言しているのは指導者のジャウラニ氏自身だ。内部の力学は不透明だが、タリバンに比べれば、その発言が実現される可能性は高いかもしれない。国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある。