大変注目に値する訴訟だと思います。憲法学説のなかにも、刑法175条の猥褻(わいせつ)規制は、一体何が猥褻にあたるかがわからないこともあり、憲法違反だとする有力説があります。 「わいせつの基準が明確にされてない中で、警察のさじ加減一つで逮捕されてしまうのは、以前から疑問に思っていました。」 「これだけインターネットが普及している中で、海外と比較して、日本だけそういう規制をすることが、はたして最適なのかどうか。」 いずれも、まったくもって仰る通りだと思います。見たくない人の自由を守る必要や、子どものアクセスを防ぐ必要は当然あるので、猥褻物が野放図になって良いとは思いません。とはいえ、見たい大人の自由を国家権力が制限する必要性は、なかなか論証しづらいと思います。猥褻物については、いわゆる「時・場所規制」(猥褻物の販売の方法を規制するやり方)が必要にして十分だと思います。
コメンテータープロフィール
京都市生まれ。洛星中・高等学校、東京大学法学部を卒業後、同大学大学院、パリ第十大学大学院で憲法学を専攻。2002年より九州大学法学部准教授、2014年より教授。主な著作に、『憲法学の現代的論点』(共著、有斐閣、初版2006年・第2版2009年)、『ブリッジブック法学入門』(編著、信山社、初版2009年・第3版2022年)、『法学の世界』(編著、日本評論社、初版2013年・新版2019年)、『憲法学の世界』(編著、日本評論社、2013年)、『リアリズムの法解釈理論――ミシェル・トロペール論文撰』(編訳、勁草書房、2013年)、『憲法主義』(共著、PHP研究所、初版2014年・文庫版2015年)。