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「偏差値」を不適切に操作した「高校ランキング」。ダイヤモンド社に疑問を直接ぶつけてみた

おおたとしまさ育児・教育ジャーナリスト
最新のランキング特集は2017年7月7日発売号に掲載されている

偏差値という数値の性質を無視した計算式

今年もダイヤモンドセレクトの「中高一貫校&高校大学合格力ランキング」別冊が発売された。私も一部登場しているが、それはさておき、かねてから指摘しているように、このランキングには論理的欠陥がある。

(合格した国公立大学の偏差値×合格者数)の合計÷卒業生数=大学合格力

※合格力に計上されるのは国公立大の中でも偏差値上位100の大学のみ

というのがダイヤモンドのランキングの元となる計算式。偏差値の高い大学への進学実績が高い高校が上位に来るように意図されているはずのランキングだ。

国公立大の合格実績に限定したのは、私大においては1人の受験生が複数の合格を手に入れてしまい、データにダブりが発生するからだ。国公立大なら1人1つまでしか合格を手にできない。

さて、論理的欠陥を説明するためには「偏差値」そのものについて説明しておく必要がある。もともと理解している人や結論だけが知りたい人は以下の囲みの中を読み飛ばしてもらってかまわない。

「偏差値」とは、平均値を基準にして、プラスマイナスいずれかの方向にどれだけ離れた位置に自分がいるかを表す概念上の数値だ。

私たちが見慣れた偏差値は、標準偏差を10になるように換算したうえで、100点満点のテストの得点に似た数字に見せるためすべてのサンプルに50の下駄を履かせ、平均点が偏差値50になるように調整した数字である。あくまでも日本の受験業界式の表し方。

平均点を「偏差値50」とするのか「偏差値0」とするのか「偏差値100」とするのかは、便宜上勝手に決めること。IQテストでは平均点=100・標準偏差=15にしているし、国際的な学力調査であるいわゆるPISA(国際学力到達度調査)では平均点=500・標準偏差=100にしているし、偏差値の「表示方法」はさまざまある。

日本式の偏差値も、下駄を外せば、「偏差値60」は「偏差値+10」、「偏差値50」は「偏差値0」、「偏差値40」は「偏差値-10」になる。

仮に、下駄を履かせる前の偏差値で計算をし直したら、まったく同じロジックを用いても、ダイヤモンドのランキングはがらりと順位を変える。試算してみよう。

■条件設定

学校A:卒業生数100人中20人が偏差値75の大学に合格した

学校B:卒業生数100人中30人が偏差値51の大学に合格した

<日本式(平均50・標準偏差10)の偏差値を使用して算出した場合>

学校Aの合格力:75×20÷100=15

学校Bの合格力:51×30÷100=15.3

よって、学校Aの合格力は15、学校Bは15.3でBのランクが上にくる

<「下駄を履かせる前の偏差値」を使用して算出した場合>

日本式で偏差値75だった大学の偏差値は25になる。

日本式で偏差値51だった大学の偏差値は1になる。

これをもとに計算をし直すと、

学校Aの合格力:25×20÷100=5

学校Bの合格力:1×30÷100=0.3

よって、学校Aの合格力は+5、学校Bは+0.3で学校Aのランクが上にくる

この計算式では、同じ意味をもつはずの偏差値の「表示方法」を変えるだけで、ランキングが入れ替わってしまうのだ。論理的に矛盾をはらんだ計算式であることがわかる。実際のランキングを同様に計算し直したら順位は大きく変動するはずだ。

細かいことを言えば突っ込みどころはほかにもあるが、雑誌の企画なのだからある程度の割り切りはしょうがないと私も思う。しかしさすがにこの計算式はランキング用のデータとしては不適当ではないか。

ダイヤモンドの計算式を文章で説明すると次のように表現できる。

「大学合格力」とは、卒業生たちが合格した国公立大学の偏差値の総和を卒業生数で割ったもの。

一見すると「卒業生の平均偏差値」をはじき出しているようだ。しかし、合格者総数ではなく卒業生数を分母にしているため、国公立大学に合格しなかったあるいは受けもしなかった卒業生が「偏差値0」で計上されることになり、その学校の「大学合格力」を著しく下げてしまうことを見落としてはいけない。

18歳人口はだいたい120万人くらい。大学に進学するのはその約半分。しかし「偏差値0」は理論上数百万人に1人しか出現しない。そんなツチノコみたいなサンプルがたくさんいるという統計的にあり得ない状況を前提とした計算なのだ。

よって、このランキングロジックでは、どこの大学に合格するかよりも、国公立大に合格しなかった卒業生を減らすことが重要となる。高望みをして不合格になるよりは偏差値の低い国公立大に確実に合格する作戦をとるほうがランキングを上げられる。

大学進学率が100%で、全く同じ偏差値の国立大学と私立大学に半数ずつ進学する高校Aと、全員がその国立大学に進むすすむ高校Bがあったとしたら、ダイヤモンドの計算式に従えば、Aの「合格力」はBの「合格力」の50%の数値になる。国公立大進学率が50%だからだ。「合格力」というよりも「国公立志向がどれだけ強いか」によってランキングが大きく変わるのである。

「腐っても国公立。私大進学はあり得ない」という価値観の高校が圧倒的に有利で、「そこそこの難関国公立大には確実に入れる学力があっても、東大がダメなら早慶」というような価値観の生徒が多ければ多いほどランキングは劇的に下がる。「周辺に良い私大がないこと」も環境的に優位性をもたらす。

このランキングが初登場した「週刊ダイヤモンド」2010年11月20日号の誌面
このランキングが初登場した「週刊ダイヤモンド」2010年11月20日号の誌面

初回のランキングが掲載された2010年11月20日号の「週刊ダイヤモンド」には、「国公立大学100校の合格力では関西私立や地方公立が優位 『よい大学に行きたいなら首都圏の私立校が有利』というのが通説だが、有力国公立大学100校の分析では意外な結果になった」と書かれているが、意外でもなんでもない。国公立大学が多い西日本や私大の少ない地方の学校が上位に来るのは、「この計算式」では当然なのだ。

仮に偏差値に履かせる「下駄」をさらに大きくして平均点=100・標準偏差=10で計算し直せば、それはすなわち国公立大学に合格しなかった卒業生の「合格力」をさらに低く計上することになり、さらに国公立志向の強い学校が上位に来やすい性質のランキングになるだろう。

「合格力」というのだから、合格した実績のみを評価する方針はわかる。惜しくも不合格になった者の学力まで評価する必要はない。あるいは国公立大を受けなかった生徒たちの実力を加味する必要もない。しかし彼等(国公立大に不合格になった卒業生、国公立大を受けなかった卒業生、偏差値上位100位にもれた国公立大を合格した卒業生)の存在を不当に低く評価すれば、ランキングの妥当性は損なわれる。

合格した大学の偏差値の総和を卒業生数で割る段階で、結局どんな価値基準で学校に順位を付けたランキングなのか合理的な説明ができなくなってしまうのだ。それなのに、このランキングを気にする学校関係者は意外に多い。気にしなくていいと思う。読者も惑わされないでほしい。

では、どんな計算式ならより趣旨に適合するのか?

「平均してどれくらい難しい国公立大に合格しているのか」をランキングしたいのなら、母数を「卒業生数」ではなく「国公立大合格者数」にすればいい。一部の生徒がいい大学に合格しているだけで学年全体からみた国公立大合格率は低いという場合もあろうが、それは別枠で「国公立大学合格率」として示せばすむ話。

より趣旨に沿うランキングを作りたいのなら、国公立大も私立大もいっしょにして、

(進学大学の偏差値×合格者数)の合計÷進学者数=大学進学力

としたほうがいいのではないだろうか。データの収集は大変だろうが、これであれば卒業生が実際に進学した大学の入試難易度の高さがわかる。ランキングは一変するだろう。一部の生徒がいい大学に進学しているだけで全体の大学進学率は低いという場合もあろうが、それは別枠で「大学進学率」として示せばよい。どうせなら「浪人率」を掲載しても面白い。そのランキングなら参考までに見てみたい。

……という意見を、直接ダイヤモンド社にぶつけてみた。編集を統括する中田雅久さんが対応してくれた。

「学校の規模の違いを補正したかったのでしょうが、たしかに卒業生数で割ってしまうとおかしなことになりますね……。ご指摘の通りで、偏差値の扱いとしては数学的には不適切だと思います」

私が最初にこのランキングロジックへの疑義を表明したのは2013年12月15日発刊の拙著『間違いだらけの中学受験』においてだ。2014年からは週刊ダイヤモンドではこのランキングを扱わなくなり、不定期刊行物の企画として発表されている。

「週刊誌がやらないというので、ムック(不定期刊行物)で出そうということになりました。ただ、このランキング自体にそれほどの価値があるとは思わないので、本年度(2017年度)からはランキングのページを後ろのほうに移動しました。表紙のタイトルの<ランキング>の文字も小さくしました」

週刊誌の編集部と不定期刊行物の編集部はまったく別だ。

「週刊誌でやったロジックをそのまま継承して、慣習的にランキングを作成していました。これまで何年もやってきたことですから、データの『継続性』の問題はありますが、今後は計算方法を見直す可能性もあります。どうして最初にこういう計算の仕方にしたのかは、私は把握していません。たしかに私大も含めた進学実績で計算ができればいちばんいいですね」

そこで、このランキングロジックを最初に考案した本人(「週刊ダイヤモンド」の元編集者)に、「平均点を偏差値50とおいた日本式の偏差値をそのまま使って合格偏差値の総和を求めてそれを卒業生数で割ることは、すなわち国公立大に合格していない人たちを偏差値0というあり得ない異常値で計上することになり、データに大量のノイズが含まれることになることを、気付いてやったのか、その時点では気付いていなかったのか?」と直接メールで問い合わせたところ、現在はこのランキングには関わっていないにもかかわらず、すぐに返信をくれた。

部分を切り取らずそのまま掲載してほしいとのことなので、回答全文をそのまま掲載する。

「ノイズはあると思い、都度改善はしても、完全ではありませんが、物事を考えるには多様な見方があったほうが良く、マンモス校が上位になる大学合格者数ランキング以外の見方を提示する本ランキングの意義はあると思います」

その考えは私もまったく否定していない。

たかがランキング、されどランキング。どうせ作るのならば、目的に整合したものにしてほしい。さらなる改善のための建設的な議論がなされることを願う。

育児・教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を歴任。男性の育児、夫婦関係、学校や塾の現状などに関し、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演多数。中高教員免許をもつほか、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験あり。著書は『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』『なぜ中学受験するのか?』『ルポ父親たちの葛藤』『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』など70冊以上。

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