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新時代のF1開幕戦は果たして何台完走できるのか? 久々のサバイバルレースに?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
メルボルンを走るウィリアムズのF1 【写真:Williams F1】

「F1世界選手権」の2014年シーズンがオーストラリアのアルバートパークサーキット(メルボルン)で始まった。「1.6Lターボエンジン」と「ERS(エネルギー回生システム)」を搭載したF1新時代の幕開けである。

開幕戦というとワクワクするのがファン心理というものだが、今年はドキドキというかハラハラというか、その結末を誰も確信できない面白さがある。多くのファンの関心は、果たして何台のマシンが完走を果たすのか?ということ。開幕前のウインターテストでは各チームともトラブルが相次いで発生したし、オーストラリアGP初日のフリー走行でも「ロータス」「ケータハム」がトラブルでまともに走る事ができなかった。

ケータハムの小林可夢偉 【写真:Caterham F1】
ケータハムの小林可夢偉 【写真:Caterham F1】

また新システムならではのトラブル(本来はウインターテストで解決しておくべきものだが)に加え、昨年まで150kg程度搭載できた決勝レースの燃料搭載量が一気に100kgにまで制限されていることも大きなポイント。これまでの2/3の燃料で約300kmのレースを走り切らなければならず、単純計算でこれまでの約1.5km/Lだった平均燃費を約2.2km/Lまで向上させないといけない。これはレーシングカーにとって大きな変化であり、非常に高いハードルといえる。

開幕戦はサバイバルレースが当たり前だった

こういった厳しいレギュレーション(規定)の変化もあり、今年は決勝レースの完走率の低下が懸念されている。今回は開幕戦の完走率に注目してみたい。

開幕戦の完走率
開幕戦の完走率

セナvsプロストの戦いに日本中が沸いた80年代後半から90年代前半のF1ブーム期は開幕戦が荒れる=サバイバルレースになるのは当たり前だった。

80年代のターボ時代が終焉し、1989年からのF1は3.5L自然吸気エンジンの時代になった。この時代の開幕戦は約半分のマシンしか完走できないのが当たり前。F1の場合、レース全体の90%を走り切ることで完走扱いとなるため、残り数周でマシンがストップしても完走と見なされるが、89年の場合、完走扱いになった14台のうち僅か6台だけが優勝者と同一周回での完走。残り8台は周回遅れでの完走だった。

また、セナとアレジの大バトルが有名な90年の開幕戦アメリカGPでは完走14台の内、同一周回は5台。6位に中嶋悟が入り、1ポイントを獲得しているが1周の周回遅れ。この時代はとにかくトラブル無く最後まで走り切ればポイント獲得も夢ではなかった(当時のポイントは6位まで与えられた)。

1989-95年の開幕戦 完走率
1989-95年の開幕戦 完走率

今のF1は3回のウインターテストが設けられ、全チーム横並びでテスト走行するチャンスが与えられるが、当時は各チームがそれぞれでテスト走行を実施していた。さらに言うと、新車をブッツケ本番で開幕戦に投入するチームと熟成された前年型のマシンで開幕戦を戦うチームが混在しており、幸先の良いスタートを切るためにサバイバルレースを走り切ることに重点が置かれていた。

そして、90年代半ばになると、F1のハイテク化が進み、トップチームと中堅チーム、下位チームの差が拡大。それとスピードの上昇を食い止めるため、さらにはセナの死亡事故を受けて安全面を考えての規定変更などが毎年行われ、開幕戦の完走率は低下した。

90年代後半も低い完走率

90年代中盤から後半はF1が自動車メーカー対決になる前夜。各チームがそれぞれの体制、技術力を強化し、トライ&エラーを繰り返していた時代とも言える。この当時の開幕戦の完走率は低く、リタイア原因のほとんどがマシントラブルによるものだった。

1998年〜2003年の開幕戦 完走率
1998年〜2003年の開幕戦 完走率

98年の開幕戦はメルセデスのワークスチーム的な存在だった「マクラーレン・メルセデス」の2台が他を圧倒。ハッキネン、クルサードが1-2フィニッシュし、残り7台の完走車を全て周回遅れにした。2000年代になると豊富なウインターテスト、タイヤテストを重ねた自動車メーカー系のチームが台頭。マシントラブルによるリタイアは著しく減少し、トップと同一周回でフィニッシュするマシンも増加。この中で、2002年の完走率が45%と低いが、これはスタートで多重クラッシュが発生したためだ。この頃から開幕戦はトラブルよりも接触等に起因する波乱が見所になっていく。

ここ10年は非常に高い完走率になったが

自動車メーカー系チームの参戦と90年代のF1チームの体制強化で、完走率がグンと上昇した2000年代以降のF1。特に2005年の開幕戦オーストラリアGPは完走17台(85%)という高い完走率になっていて、マシントラブルによるリタイアは僅か1台。マシンの信頼性の著しい向上が見てとれる。

ここ10年の開幕戦の完走率
ここ10年の開幕戦の完走率

ここ10年の開幕戦で最も完走率が低かったのが2008年の9台(失格のバリチェロを含む)の41%。このレースではスタート時に接触で5台が消えた他、レース中の接触事故も多かった。さらに実際には7位のブルデーと8位のライコネンは完走扱いにはなっているが、共にエンジントラブルで終盤にリタイアしていたので、実際にフィニッシュしたのは失格を含む7台。近年では珍しいサバイバルレースになった。

このデータを見ても分かる通り、「開幕戦は荒れる」「サバイバルレース」というのは随分と昔の話だった。しかし、今年は初日のフリー走行すらまともに走れないチームが出てきた。こんな事態はそれこそ20数年前の超弱小チームが存在した時代以来のことではないか?

2014年開幕戦、オーストラリアGP。意外と多くのマシンが完走して「興奮」と「喜び」のレース内容になるのか、それともトラブル&リタイア続出で「落胆」と「怒り」が渦巻くものになるのか?その結末は誰にも分からない。結果がどうあれ、これぞF1新時代の到来!見る価値の高い歴史的な1戦と言えるだろう。

オーストラリアGP 【写真:Caterham F1】
オーストラリアGP 【写真:Caterham F1】

ちなみにF1史上最も完走台数が少なかったレースは今から50年近く前の1966年のモナコGPの4台=完走率25%

※完走率はレース後に失格裁定になったマシンを含む台数で計算

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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