2ちゃんねる名称変更事件に関する知財関係状況整理
匿名掲示板2ちゃんねるが突然5ちゃんねるに名称変更されたというニュースがありました。例によって新旧管理人(つまり、西村博之氏とジム・ワトキンス氏)の対立によるものとされています。
掲示板名称が変わっても、ドメイン名は変わりませんし(2ch.netと5ch.netのどちらからでもアクセス可能)、2ちゃんねるユーザーの多くは専用ブラウザ経由で使用していると思うのであまり影響はないのではないかと思いますが、現時点での知財権利関係の状況を整理しておきます。
ところで、なぜ、いきなり"5"ちゃんねるになったかというと、3と4は既に使用されているからということです(3ch.jpは閉鎖、4chanは現在は西村博之氏が運営する英語圏向けの掲示板)。
さて、ここで関係する知財としては大きくドメイン名と商標があります。
ドメイン名については2ch.netは現在もジム・ワトキンス氏の(会社 Race Queen, Incの)所有(西村氏より譲渡)です。これを奪回すべく西村氏側がWIPOにドメイン名取消の仲裁を求めましたが棄却されています(関連過去記事)。2ch.netのドメインがワトキンス氏に不当に乗っ取られたという西村氏の主張は証拠がないとされました。さらには、そもそも、WIPOのドメイン仲裁は主に著名ブランドへのただ乗り行為(いわゆるサイバースクワッティング)の解決のためなので、この種のビジネス上の争いは裁判で解決しろという話になっています。
一方、商標ですが、これについては西村氏側が「2ch」と「2ちゃんねる」の登録を死守しています(関連過去記事1、関連過去記事2)。
というわけで、現時点ではドメイン名はワトキンス氏側に商標権は西村氏側にという状況になっています。
商標とドメイン名は別種の権利なので商標権に基づいてドメイン名の使用を直接的に差止めることはできません。不正競争防止法に基づいてドメイン名の取消を求めることは可能(その主張の根拠のひとつとして商標権を使用できる)ですが、提訴があったという話はありませんし(追記:2ch.scにおいて西村氏が東京地裁で裁判中と述べたという情報がありましたが詳細不明です)、WIPOの仲裁の結果を見る限り、新たな証拠がない限りドメイン名登録の取消は難しいのではないかと思います。
さらに、このかつて2ちゃんねると呼ばれていた掲示板の運営はジム・ワトキンス氏の会社であるRace Queen Inc.からLoki Technology Inc.という会社に10月1日付けで譲渡されています(参考記事)。そして、ドメイン5ch.netの登録者はLoki Technology Inc.です。(追記:米国の会社と書きましたがフィリピンの会社でした、どうもすみません。)
なお、「5ch」と「5ちゃんねる」の商標登録は昨年の12月に完了しています。権利者のロナルド・アーサー・ワトキンス氏は、Wikipediaの情報によればジム・ワトキンス氏の息子のようです。名称変更はだいぶ前から準備していたことが推定されます。これらの商標権はこの後Loki Technologyに譲渡されると思われます(仮に既に譲渡されていたとしてもウェブに反映されるまでには時間がかかるのでしばらくはわかりません)。ひょっとするとLoki Technologyはトンネル会社にすぎないのかもしれませんが現時点の情報では何とも言えません。
いずれにせよ、「2ちゃんねる」という商標はもう掲示板には使用されていませんので、西村氏側が使用差止めを求めて訴訟することはできなくなりました。過去の使用について損害賠償を請求することは理論的に可能ですが、どっちにしろ西村氏からワトキンス氏への掲示板の事業譲渡が両者の合意の元に行なわれたのか乗っ取りなのかという話に戻ってしまいますのであまり意味がないように思えます。
ところで、5ちゃんねるに名称が変更されてからも、掲示板内では普通に「2ちゃんねる」という言葉が使用されていると思いますが、これに関して投稿主が商標権上の問題を抱えることは通常はありません。商標権は「業として」の使用のみに関する権利だからです。つまり、「2ちゃんねる」という名称の掲示板を運営する人には商標権が及びますが、単に掲示板内で各ユーザーが「2ちゃんねる」という言葉を使うだけであれば商標権は関係ありません。