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男子バレー世界選手権、28日はブラジル戦。「ボールを扱わせたら世界一。球際の天才」関田誠大に注目!

田中夕子スポーツライター、フリーライター
日本の正セッターとして東京五輪に続き、世界選手権へ挑む関田誠大(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 いつ話を聞いても、試合を見てもその都度「面白いなぁ」と思わされる。関田誠大はまさにそんな選手だ。

 たとえば今季の男子バレー日本代表が始動した際の記者会見でも、昨季プレーしたポーランドでの話や、合流して間もない日本代表選手の特徴。関田の焦点は常に明確だった。

「(ポーランドでは)サーブとディフェンス、トスではあまり負けているという感じはしませんでした。高さは負けです。基本、僕の上から打たれるので。でもそんなの当たり前なので気にならなかった。ただ、相手ブロックがいい時はどこに上げても決まらない。そういう時は悩みましたね」

 攻守に長けたバランスのいい選手が揃い、上位チームと下位チームの力の差もそれほど大きくない。ポーランドリーグで1シーズンプレーして、特に感じたのはトータルディフェンスの高さだった、と振り返った。

「ブロックも1枚になることはめったになくて、必ず2枚目がいる。加えてリベロもうまいし、サイドの選手もすごくレシーブがいい。1つ1つのプレーの質、全体のレベルが高いと改めて認識しましたが、でも日本の選手ももっと海外でプレーできると思うし、やるべきだな、と」

 なぜそう感じるか。自らが海外でも戦えたという自信もあるが、背景には昨夏の東京五輪で突き付けられた課題もある。

「ベスト8以上を狙うためには、常に完璧とまでは言わないですが、僕たちはメンタル面も動き1つ1つとってもすべて自分たちのベストを出し続けないといけない。僕だけじゃなく、日本チームとして見てもやはり背が低いので、そのチームが戦うためにはやはりディフェンスで勝負するしかない。もちろんレシーブだけじゃなく、ブロックありきのディフェンスだと僕は思っているので、まずサーブでディフェンスしやすい状況をつくるのか。レシーブした後に点を取る人はここ、と明確にするのか。数えればキリがないぐらい細かいことですけど、その1つ1つをやっていかないと、と思い知らされたし、だからこそ僕はミドルを頑張らせたい、頑張りたい、という気持ちは強くあります」

ミドルブロッカーとバックアタックを効果的に使うのが関田の武器でもあり「もっと使いたい」と意気込む
ミドルブロッカーとバックアタックを効果的に使うのが関田の武器でもあり「もっと使いたい」と意気込む写真:長田洋平/アフロスポーツ

リベロ小川の証言「球際の天才」

 言葉通り、6月から7月にかけて開催されたネーションズリーグでも、サイドアウト、ブレイクを問わず、関田は積極的にミドルブロッカーの攻撃を使い、そこに後衛中央からのパイプも絡めた。高さで勝る相手に対しても、数で勝れとばかりに複数から同時に仕掛ける攻撃は効果的で、イタリア、スロベニアといった強豪にも勝利した日本代表は東京五輪に続いてネーションズリーグでもベスト8進出を果たした。

 攻撃面のみならず、「世界で戦うためのポイント」と掲げたディフェンスもブロック、レシーブが連携したトータルディフェンスが機能した。跳ぶべきコースでスパイクコースを限定させるミドルブロッカーの貢献度もさることながら、抜けたボールを着実に身体に当て、落ちた、というボールも拾う。リベロの山本智大と関田のレシーブ力もチームにとって大きな力になったのは間違いない。

 さらに光ったのがサーブだ。

 石川祐希や西田有志といった、ジャンプサーブで直接ポイントを得るビッグサーバーに注目が集まるが、関田のハイブリッドサーブも効果を発した。相手のウィークポイントを狙うだけでなく、いかに攻撃をしづらくさせるか。前後にも揺さぶりをかけたサーブで連続得点を重ねる場面も多く、相手を崩せばチャンスボールからのブレイクポイントは状況に応じてどこに上げるかを選択。正確なトスでスパイカーの打点を活かした関田のトスを、石川や西田が決める。それこそがまさに日本の勝ちパターンにもつながった。

 チームが勝利すれば「活躍した選手」や「MVP」が挙げられ、その大半がアウトサイドヒッターやオポジットなど得点を得るポジションの選手になりがちだが、まぎれもなく日本が勝利した試合で、立役者となっていたのが関田だ。そう言うのは、リベロの小川智大だ。

「祐希さんや西田のサーブが続くとレシーブ側としてプレッシャーはあります。でも、それ以上に嫌なのが関田さん。あれだけミスせず、嫌な場所にいいサーブを打ち続けられる選手はいません。何よりレシーブの反応や、トスのボールさばき。大げさじゃなく、関田さんってボールを扱わせたら世界一だと思うし、球際の天才。ほんと、すごいですよ」

ボールコントロールや抜群のセンス、根本はいかなるボールもつなぐことを「諦めない」姿勢にある
ボールコントロールや抜群のセンス、根本はいかなるボールもつなぐことを「諦めない」姿勢にある写真:ロイター/アフロ

「何をするかわからない状況をつくりたい」

 26日の初戦はカタールにストレート勝ちを収め、28日はブラジルと対戦する。

 東京五輪の準々決勝で敗れただけでなく、どれほど力と自信をつけてもそのたび立ちはだかる壁となり、幾度となく強さを見せつけられてきた、まさに世界トップクラスの強豪だ。

 サーブ、スパイク、レシーブ、ブロックといった技術に加え、対応力や判断力。個の能力はすさまじく高く、しかもその高い「個」が組織となって結集する。紛れもなく世界王者と言うべきチームであり、簡単に勝てる相手ではないが、かつてのようにただ見上げるだけの相手ではない、と大阪でのネーションズリーグで対戦した日本選手たちは口を揃えた。

 決勝トーナメント進出をより近づけるために、迎えるグループリーグ第2戦。世界屈指のブラジル、そのブロックに対して関田はどんなプランでどう挑むのか。

「何をするかわからない、という状況を自分でもつくりたいんです。そうするためには余裕がなければいけないし、型にはめないことも必要。試合中も(監督のフィリップ)ブランから『このシチュエーションでここは使うなと言っただろ』とか、普通に怒られるしバチバチしたりするんですけど(笑)、セオリーがありつつも、遊びを入れたい。そういう試合を1つでも多くつくれたらいいな、と思いますね」

 間もなく始まるブラジル戦、1本目はどんなシチュエーションで、関田はどこを選択するか。1つ1つの駆け引きを楽しみ、唸らされる。やっぱり面白いな、と。

 世界を驚かせるようなゲームメイクを、自らの手で――。

 セッター、関田誠大に注目だ。

東京五輪に続くベスト8、さらにはそれ以上のベスト4を目指し、最高の瞬間、最高のゲームを自らの手で
東京五輪に続くベスト8、さらにはそれ以上のベスト4を目指し、最高の瞬間、最高のゲームを自らの手で写真:ロイター/アフロ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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