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大谷翔平の契約にも影響?!エプラーGMがメッツでは出来てエンジェルスでは出来なかったこと

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
メッツGMとして辣腕を振るい続けるビリー・エプラー氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【選手たちも不安視する労使交渉の行方】

 先週は2日連続でMLBと選手会が協議のテーブルに着き、ようやく本格的に動き出した感がある労使交渉だが、米メディアの間では「まだまだ小さな一歩」として、依然として新労使協約締結まで遠い道のりだと指摘する声もある。

 現在は年俸調停前の選手たちの収入を増やしていくシステムが大きなトピックになっているようだが、プール金の設定金額で大きな差があると報じられるなど、まだまだ油断を許さない状況に変わりがない。

 現状を受け、ESPNの『Baseball Tonight』ポッドキャストにゲスト出演したリッチ・ヒル投手は「(交渉の)進行状況に多少失望している。(MLB側が)スプリングトレーニングを交渉の道具に利用するようなら、多くの選手たちが不利益を被ることになる。自分はスプリングトレーニングが遅れるのを望んでいない」と不安を明らかにしている。

【ロックアウト前の駆け込み契約に成功したメッツ】

 これだけロックアウトが長期化し、鈴木誠也選手や菊池雄星投手を始めとする多くのFA選手たちの契約交渉が止まったままの状況を考えると、やはりロックアウト実施前にチームの柱になりそうな主力選手の獲得を進めた各チームの動きは、今更ながら当然だったと言わざるを得ない。

 そんなロックアウト前の駆け込み獲得競争で、最大の成果をあげたチームの1つがメッツだった。

 11月26日にスターリング・マルテ選手とエデュアルド・エスコバー選手との契約合意を発表すると、3日後の29日に、今オフのFA市場で注目選手の1人だったマックス・シャーザー投手の獲得に成功。大幅な戦力補強を実現している。

 さらには懸案になっていた次期監督としてバック・ショーウォルター氏も招聘でき、ロックアウト前に2022年シーズンの青写真をある程度形づくることができたように思う。

 それらをすべて主導した人物が、11月18日にGMに就任したばかりのビリー・エプラー氏だった。

【エンジェルス時代は大型補強できなかったエプラーGM】

 エプラー氏と言えば、2019年までエンジェルスでGMを務めた人物だ。2017年オフに大谷翔平選手の獲得に成功したGMとして、日本でもその名を認識している人も多いはずだ。

 だがエンジェルス時代のエプラー氏は、決して成功したGMとは言えなかった。2015年から2020年の6年間GMを務め、ポストシーズン進出は一度もなく、勝率5割を超えたのも2015年のみと、成果を上げることなく退任した。

 その大きな要因になっていたのが、投手陣の整備がチームの課題だと指摘されながら打開できなかったことだ。オフにはメディアやファンが期待するような大物FA投手の獲得もできなかった。

 そんなエプラー氏がメッツのGMに就任した途端、次々に大型契約をまとめたのだから、その豹変ぶりに驚く人もいるかもしれない。だが実際は、ようやくエプラー氏本来の手腕を発揮できるようになったと考えるべきなのだ。

【エンジェルスの呪縛から解放される】

 エプラー氏は元々、ヤンキースでGM補佐としての実績が評価されエンジェルスGMに招かれた。ヤンキースは誰もが知るように、毎年オフ大型補強を断行するようなチームであり、そこで実績を積み上げてきた人物なのだから、契約交渉や大型補強はむしろ得意分野と言っていいだろう。

 それがエンジェルスでまったく彼の能力を生かせなかったのは、エプラー氏が自由に使える予算が制限され、ずっと呪縛がかかったような状態に置かれたからだ。

 オーナー陣から年俸総額が一定額に抑えられる中、すでにマイク・トラウト選手やアルバート・プホルス選手ら高額選手が揃っているとあって、エプラー氏が補強に使える予算はごくわずかだった。

 しかもある程度の予算があった2019年オフには、アンソニー・レンドン選手と大型契約に合意したこともあり、自らさらに予算を削る事態に陥ってしまい、投手補強など完全に不可能になってしまった。

 今回エプラー氏が次々に大型契約をまとめることができたのも、3つの契約で総額2億3450万ドル(約267億円)を投じられた潤沢な予算があったからだ。

【ミナシアンGMも呪縛を引き継いでいる?】

 エプラー氏の後を継いだペリー・ミナシアンGMも、やはりエンジェルスの呪縛の中にいる。プホルス選手がチームを去ったものの、今もトラウト選手、レンドン選手らが残り、年俸総額を圧迫している。

 しかも今オフに年俸2100万ドル(約24億円)で1年契約を結んだノア・シンダーガード投手が期待通りの活躍をし、再契約となった場合、更なる高額年俸を用意しなければならなくなる。そうなれば必然的に、年俸総額はますます逼迫することになる。

 そんな事態になれば、2023年オフにFA権を取得する前に大谷選手と契約延長に合意したいチームとして、十分な予算を捻出するのが難しくなってしまう。すでに大谷選手の契約内容はトラウト選手クラスになるだろうと予測するメディアも多く、エンジェルスとしても相当な予算を用意しなければならないはずだ。

 ロックアウト解除後のミナシアンGMは、果たしてどんな補強策を打ち出していくのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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