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あの夏の悔しさを胸に。NPBを目指す秋田の強豪校出身のイケメン独立リーガー

阿佐智ベースボールジャーナリスト
長尾光投手(埼玉武蔵ヒートベアーズ)

「メジャーっていうのはあんまり書かないでくださいね。『お前ごときが』ってネットで叩かれるんで」とはにかむ表情は、マウンドでのそれと違ってまだまだあどけない。

 高校から独立リーグへと進んで2年目の埼玉武蔵ヒートベアーズの本格派右腕、長尾光は、リリーフ登板後のベンチで取材に応じてくれた。この夏二十歳を迎える若者の少年時代のあこがれは地元、宮城の高校からプロ入りし、現在メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有投手だった。その憧れを何気なく口にすると、「目標はメジャー」と記事にされ、その言葉が度々独り歩きし、困っていると笑う。彼がそれだけドラフト指名に近づいている証なのではあるが、「まずはNPB」と気を引き締める。

「ダルビッシュ投手の姿は、子供の頃、テレビで見ていました。とくに印象に残っているのは、WBCですね」

 2009年春に行われたWBCの第2回大会決勝。連覇を達成した瞬間、宿敵・韓国の前に仁王立ちしていたのは、メジャー入り前のダルビッシュだった。当時7歳だった長尾少年は、いつの日かあの舞台に立ちたいと心に決めた。

試合後、インタビューに答えてくれた長尾
試合後、インタビューに答えてくれた長尾

 高校は、甲子園出場春夏計15回の秋田の強豪・明桜高校(現ノースアジア大学明桜高校)に進んだ。しかし、甲子園出場はならず、しかも最後の夏はコロナ禍にあって大会そのものが中止となってしまった。

進路を決めるに当たって、プロ志向の長尾はプロ志望届を提出した。しかし、NPB球団から調査書は届いたものの、ドラフトでは名前が読み上げられることはなかった。大学からも誘いはあったが、少しでも早くNPBへ、と独立リーグに進むことを決めた。

 国内独立リーグの最高峰のひとつ、ルートインBCリーグへ身を投じた長尾だったが、「プロ予備軍」の集まるリーグの水は甘くはなかった。

「高校野球よりかなり上でした。高校時代は、調子が良ければどこに投げても抑える自信があったんですが、こっちでは少し甘いといかれますね。高校野球は、ストライクゾーンがかなり広く、審判によってばらつきもあったんですけど、ここではごまかしもききません。狭くなったなったストライクゾーンには最初はとまどいました。自分のレベルがまだまだだと痛感させられました」

 結局、1年目はたった7試合の登板に終わり、1勝は挙げたものの、防御率5.74の成績では、NPBは遠い夢に過ぎなかった。

「1シーズンずっと試合というのも始めてでしたし。調子が悪い時はきつかったですね」

150キロに到達したストレートにスカウトも注目している
150キロに到達したストレートにスカウトも注目している

 2年目を迎えるに当たって長尾は、自身のレベルを上げることに専心した。独立リーグに入った当初から指摘されていた上半身優位の投球フォームを下半身主導に改造。変化球が多めだったピッチングスタイルもストレート中心へと変えた。まずは、強い球を放れることに主眼を置いて、レベルアップを目指した。

「とくに何かを大きく変えたというつもりはないんですけど」

と長尾は言うが、ストレートのスピードはグングンと上がっていた。目標とするダルビッシュを見倣って、スライダー、そして得意のスプリットと球種は多彩だが、今はまず、ストレートの球速を増すことに主眼を置いている。変幻自在の変化球は、まだまだ先の話だ。

長尾の成長にNPBも注目、すでに数球団がスカウトを派遣している。角監督もNPBに非常に近いとその成長に太鼓判を押す。

 取材した5月末のデーゲーム。1対1の同点の場面の9回にマウンドに登った長尾は、相手の主軸を見事3者凡退に打ち取った。得意のスプリットも冴えわたり、2三振を奪ったストレートの最速は150キロを記録した。

「記録更新ですね」

 試合後、長尾は相好を崩した。

 現在、長尾は20試合にリリーフ登板。勝ち負けやセーブはついていないものの、20イニングで24奪三振とチームのセットアッパーとして欠かせない存在になっている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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