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「しまった!預かるのを忘れてた」~「いざ」というとき役立つ 亡親の遺言書を見つけ出すマル秘テクニック

竹内豊行政書士
遺言書を残しても、死後に見つからなくては意味がありません。(写真:イメージマート)

松山浩一さん(仮名・48歳)は、2か月前に父・太郎さん(仮名)を癌で亡くしました。享年78歳でした。

死の直前「遺言書を残しておく」と父は言った

浩一さんは太郎さんが亡くなる1週間前に入院先の病院に呼ばれました。そして、太郎さんから「私が死んだ後でも家に住み続けることができるように明日、病室に公証人に来てもらって遺言書を残すことにしたからな」と告げられました。そのときは「そんな弱気なことを言わないでくれよ」と励ましましたが、内心ホッとしたのも事実でした。

なぜなら、浩一さん夫婦と中学1年生の一人息子は、太郎さんが所有している二世帯住宅に同居していたからです。

太郎さんの相続人は妻の花子さん(仮名・72歳)と長男の浩一さん、そして、次男の健二さん(44歳)の3名ですが、太郎さんは健二さんと昔から折り合いが悪く、ここ数年連絡を一切取り合っていませんでした。

法律のとおり「もらうものはもらう」と主張する次男

太郎さんが危篤状態になったときに、浩一さんが健二さんに「親父が危ないんだ。至急来てくれ」と連絡をすると、健二さんは「俺は親父から勘当された身だから行かないし葬式にも出ないよ。兄貴が仕切ってやってくれよ。あっ、そうだ、親父の遺産は法律のとおり請求するからね。確か、俺は4分の1の権利があるはずだ。四十九日の法要には呼んでくれよ。そこで具多的に遺産分けの話し合いをしようぜ」と言って一方的に電話を切ってしまいました。そして、その翌日、太郎さんは息を引き取りました。

遺言書を預かるのを忘れていた・・・

浩一さんは健二さんに電話をしてもいつも留守電でした。仕方なく葬儀についてメッセージを残しましたが、結局健二さんは現れませんでした。葬儀が済んでヤレヤレと思ったその瞬間、浩一さん重大なことに気付きました。太郎さんから遺言書を預かっていなかったのです。「病室を引き払うときにも遺言書はなかったし。本当に親父は遺言書を残してくれたのかな。健二は法律で決められたとおり遺産を請求すると言っているし、ひょっとしたらこの家を売らないといけなくなるかもしれないな・・・」。浩一さんは一気に気が重くなってしまいました。

遺言書を見つけ出すことはできるのか

さて、太郎さんが残してくれたであろう遺言書を探す手立てはあるでしょうか。太郎さんは亡くなる1週間前に長男・浩一さんに「病室に公証人に来てもらって遺言書を残すことにしたからな」と告げていました。つまり、太郎さんは公証人が関与して作成する公正証書遺言を作成したと推測できます。もし、そうであれば遺言検索システムで遺言を見つけ出すことができます。

知っておきたい「遺言検索システム」とは

遺言検索システムとは、公正証書遺言を作成した全国の公証人からの報告に基づき、日本公証人連合会がこれをコンピューターに入力して記録するというものです。したがって、このシステムを利用すれば、亡父が公正証書遺言を残したか、それとも残さなかったのかが分かるのです。検索の結果、残したことが判明すれば、関与した公証人の名前と事務所の連絡先等の情報が入手できます。そして、その公証役場に問い合わせをすれば公正証書遺言を発行してくれるのです。なお、遺言検索システムは、全国どこの公証役場でも利用できます(注)

(注)ただし、この記録は、1989(平成元)年(ただし、都内の公証役場で作成した場合は、1981(昭和56)年)以降にされた遺言のみに行われており、それ以前の分は記録されていません。したがって記録されていない期間については、個々の公証役場に当たってみるしかありません。

このように、公正証書遺言は遺言検索システムを利用すれば、亡くなった身内が遺言を残したか否かが判明し、残していれば、その遺言書を入手することができます。

お身内が亡くなられたときに遺言書の有無を確認したいときも利用できますので、万一の際は覚えておくと役に立つかもしれません。

なお、お身内が生存中の間は、このシステムを利用することはできません。念のため。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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