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渡辺明三冠(36)黄金カードを制し王座戦挑戦者決定戦進出! 棋聖防衛、名人獲得、王座獲得で五冠達成?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月13日。大阪・関西将棋会館において第68期王座戦挑戦者決定トーナメント(本戦)準決勝▲渡辺明三冠(36歳)-△豊島将之竜王・名人(30歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時5分に終了。結果は133手で渡辺三冠の勝ちとなりました。

 渡辺三冠はこれで挑戦者決定戦に進出。久保利明九段(44歳)-大橋貴洸六段(27歳)戦の勝者と対戦します。

渡辺三冠、角換わり腰掛銀で快勝

 現在の将棋界の序列上位を改めて見てみましょう。

 1位 豊島竜王・名人

 2位 渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)

 3位 永瀬二冠(叡王・王座)

 最近はほとんどの棋戦で、この3者は勝ち上がっている感があります。

 昨年の王座戦本戦、豊島-渡辺戦は2回戦(準々決勝)でおこなわれ、豊島勝ちとなりました。

 挑戦者決定戦は豊島-永瀬戦で永瀬勝ち。

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 永瀬挑戦者は五番勝負で斎藤慎太郎王座を3連勝で降し、王座に就いています。

 現在おこなわれている叡王戦は、挑戦者決定戦が豊島-渡辺戦でした。豊島竜王・名人は三番勝負を2勝1敗で制して、現在は永瀬叡王に挑戦中。直近の七番勝負第2局は持将棋になりました。

 名人戦七番勝負は豊島名人に渡辺三冠が挑んでいるところ。第3局が終わった時点では豊島名人2勝、渡辺挑戦者1勝となっています。

 過去の対戦成績は豊島13勝、渡辺17勝。拮抗した数字が残されています。

 渡辺三冠は先日の棋聖戦第3局の勝利が大きく報道されました。

 本局は振り駒の結果、渡辺三冠先手。戦型は角換わりとなりました。途中までは先後逆の名人戦第1局▲豊島-△渡辺戦と同じ。本局では後手番となった豊島竜王・名人が手を変えて、以下は違う進行となりました。

 持ち時間は5時間で、午前中のうちに53手まで進みます。両者の研究があればこそのペースでしょう。

 形勢ほぼ互角で推移しての58手目。豊島竜王・名人は43分考え、相手の歩頭に桂を打ちつける、アグレッシブな攻めを見せました。

 対して渡辺三冠は桂を取って、冷静に受けに回ります。豊島竜王・名人は、結果的には桂を捨てた以上の効果があったかどうか。ここから形勢は次第に渡辺三冠に傾いていきます。

 攻め続ける豊島竜王・名人に対して、渡辺三冠は得した桂を自陣の受けに使います。この桂は後には反撃にもはたらくようになりました。

 渡辺三冠は着実に差を広げ、最後は自陣の飛車を捨てる華麗なフィニッシュ。守りの要の馬の位置をずらし、香を打って王手すると、豊島玉には長手数の即詰みとなっています。

 渡辺三冠はこれで挑戦者決定戦に進出しました。

四冠、五冠の可能性

 反対側の山の準決勝、もう一局は久保利明九段と大橋貴洸六段が対戦します。

 渡辺三冠から見て、久保九段は過去に何度も戦ってきた強敵です。過去の対戦成績は渡辺21勝、久保16勝という成績が残されています。

 2011年の王座戦挑決は渡辺-久保戦で、渡辺勝ち。渡辺挑戦者は五番勝負を3連勝のストレートで制して、羽生王座(当時)の連覇記録を19でストップするとともに、王座に1期就いています。

 また渡辺三冠から見て、大橋六段は所司和晴七段門下の弟弟子にあたります。もし当たれば初手合となります。

 大橋六段は一次予選4勝、二次予選2勝で本戦まで駆け上がってきました。二次予選決勝では藤井聡太七段に勝っています。

 大橋六段は2016年10月、藤井現七段とともに棋士に昇格。ここまでの通算勝率は0.7348(133勝48敗)で、これは藤井七段の0.8418(181勝34敗)に次いで、全棋士中2位です。

 渡辺-久保戦か、それとも渡辺-大橋戦か。どちらが実現しても、挑決にふさわしい好カードなのは間違いありません。

 可能性だけを言えば、渡辺三冠は棋聖を防衛すれば三冠堅持。名人を獲得で四冠。その上で王座獲得まで果たせば五冠です。

 将棋界で過去に五冠同時保持を達成したのは、大山康晴15世名人、中原誠16世名人、羽生善治九段の3人しかいません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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