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新型コロナ自宅療養中に酸素吸入が必要になったら 呼吸器内科医による解説

倉原優呼吸器内科医
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

酸素濃縮器の増産がすすむ

新型コロナの自宅療養者が増えると、入院できない中等症の患者さんも比例して増えます。基本的に酸素療法が必要な患者さんは優先的にコロナ病棟に入院すべきですが、どうしても入院できない場合、やむなく在宅で酸素療法を導入する必要があります。

そのため、現在自治体からの酸素濃縮器の注文が相次ぎ、酸素業者による増産が追い付かない状態に陥っています。

大阪府の第4波では、入院調整が難航し、自宅療養を余儀なくされた新型コロナの患者さんに酸素濃縮器が必要になった事例が、複数ありました。

現在の災害級の局面においては、このようなことが各地で起こる可能性を念頭に置く必要があります。

酸素は「処方」されるもの

酸素吸入が必要と医師が判断すれば、酸素療法が適用されます。意外に思われる人もいるかもしれませんが、酸素は医師から「処方」されるものなのです(写真)。

写真. 酸素処方箋(筆者撮影)
写真. 酸素処方箋(筆者撮影)

酸素業者はたくさんあります。その地域でトップシェアの業者や、全国的に幅広く支店を持つ業者まで様々です。医療機関から酸素業者に酸素処方箋を送って連絡すれば、業者のスタッフが酸素濃縮器を自宅まで設置しにやって来ます。新型コロナによる在宅酸素療法については、各自治体や医師会が主導しており、酸素業者のスタッフにも感染対策が必要になることから、患者さんが業者を自由に選ぶということはないかもしれません。

本来なら、在宅酸素療法を導入すると3割負担で1か月あたり約2万円の自己負担が発生しますが、新型コロナの自宅療養時の往診に関しては、自己負担は公費でまかなわれることになっています。

以上から、自宅療養中に酸素吸入が必要になったものの入院できない場合、往診医が酸素処方をおこない、自宅に酸素濃縮器が届くという流れになるでしょう。

酸素療法の実際

酸素濃縮器とは、空気を取り込み高濃度の酸素を排出する装置です。自宅のコンセントにつなぐだけで、高濃度の酸素が吸えるようになります()。

図. 酸素濃縮器(看護roo!より使用)
図. 酸素濃縮器(看護roo!より使用)

外出時は酸素ボンベを持って出ていく必要があるのですが、新型コロナ感染者が自宅療養する場合は基本的に外出しませんので、自宅で酸素チューブを延長して生活することになるでしょう(酸素チューブは20メートルくらいは延ばせます)。

そこまで高流量の酸素を投与する前提にないため、おそらく鼻のチューブから酸素を吸入してもらうことになります。

手持ちのパルスオキシメーターを使って、毎日酸素飽和度を測定してもらいます。酸素療法中は、酸素飽和度が90%以上を維持するよう流量を調整します(基本的に医師が流量を指示します)。決して酸素飽和度100%を目指す必要はなく、息がしんどくない程度にコントロールすることが重要です。

酸素療法中は、火気厳禁!

燃焼の3条件」というのをご存じでしょうか。(1)火をつけるもの、(2)燃えるもの、(3)燃えるのを助けるもの、の3つ。これが全てそろわないと燃焼が進みません。

在宅酸素療法では、(2)が酸素チューブや顔、衣服、(3)が酸素になります。そのため(1)である、たばこやガスコンロなどの火気は回避する必要があります。

最近の在宅酸素療法の酸素濃縮器は、火気を検知すれば自動的に酸素供給がストップする安全機構が働くことが多いのですが、それでもやはり(1)の火気は避けるべきです。

というのも、種々の資料によると、在宅酸素療法中の患者居宅で発生した火災において、2005年10月から16年間の間で約80人の患者さんが亡くなっているからです。死者の絶対数はそこまで多くありませんが、熱傷で受診した軽症例はそれなりの数に上るでしょう。私自身も2人ほど、酸素療法中の火気で熱傷を来した症例を経験しています。

在宅酸素療法において重要なポイントは以下の通りです。

酸素吸入中は絶対に喫煙しない、周囲にも喫煙させない

酸素濃縮装置、酸素ボンベからは2m以内に火気を近づけない

消火器を近くに備えておく

在宅酸素事業者の電話番号が必ず分かるようにしておく

新型コロナの自宅療養者に酸素濃縮器を導入するような事態はできれば回避してもらいたいところです。そのため、この記事に書いたようなことが起こらないことを医師として祈るばかりです。

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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