日本の医療は「世界最下位」?最新調査が示すものとは
今月、世界13か国において行われた医療システムなどに関する意識調査で日本が最下位だったとの結果が発表されました。
医療へのアクセスのしやすさなどについて、医療従事者と患者(一般の人)に「どう感じるか」を聞いたところ、G7(先進7か国)の国々はおろか中国やブラジルより下だったという衝撃的な結果です。
ただこの調査は、ロイヤル フィリップス社という一つの企業が行ったものであり、質問の内容や翻訳の適切さなどに疑問を感じる部分もあります。ですので「最下位」という結果自体は、それほど気にする必要はないと思います。
ただ調査結果を良く読んでいくと、ひとつ非常に気になる情報がありました。
浮き彫りになる「医療従事者」と「患者」の意識ギャップ
上のスライドは、調査の回答を医療従事者と患者(一般市民)で比較したものです。
「病気の予防に役立つ薬や治療」「診断に必要な医療検査」などへのアクセスが提供されているか?という質問に対し、医療従事者は「そう思う」という回答が半分以上を占めていますが、一方で患者側は3割前後にとどまっています。
つまり医療の仕事をしている人とそうでない人で、日本の医療システムの評価には大きなギャップがあるということです。
日本人は、自国の医療システムへの評価が低い
国際的には、日本の医療システムは高く評価されています。
例えば医療へのアクセスという点では、ISSP(国際比較調査グループ)が2011年に「この1年間に医療機関を受診したか?」を聞いたところ、日本は64%と参加31か国のなかで最高でした。(下図)
これは日本では「思い立ったら気軽に医療機関を受診できる」ことを示していますが、実は国際的には、この当たり前の環境が整っていないところが少なくありません。WHO(世界保健機関)も2000年に、日本の医療システムを「総合的な健康達成度」で世界191か国のトップに評価しています。
また効率性の面でも、日本の医療システムは世界でも有数の高さと評価されていますが、前述のISSPの調査では「医療の効率性が低い」と考えている人が、平均よりも多いことがわかっています。
以上を考え合わせると、「日本は医療へのアクセスが良いにもかかわらず、満足していない人が多い」と言えるかもしれません。
なぜ「ギャップ」が生まれるのか
いったいなぜ、こうした状況が起きているのでしょうか?
ひとつの要因として考えられているのが、「世代間における不公平感」です。
日本では55歳以上と比べ、若年層ほど、医療制度への満足度が低下する傾向があります。国民医療費の多くが70歳以上に使われ、その財源を負担する現役世代の負担感が高まっていることが、医療制度への不満として現れているのかもしれません。
そしてもう一つの要因として考えられるのが、「医師への信頼度」の相対的な低さです。
先述のISSPの調査では、「医師への信頼」という項目で日本は参加31か国中、23位でした。筆者はこれまでの取材経験の中で、日本の医療関係者の真摯に仕事に取り組む姿を目にしていますので、この結果は少し残念な気もします。
求められる「関心」と「対話」
これから2025年にかけて、日本は「団塊の世代」の超高齢化に伴う医療システムの変革期を迎えます。これまで受けられた「当たり前の医療」の形が、様々な理由で変わっていくことが予測されます。
そのときに重要なのは、医療従事者と一般の私たちの間で、意識の「ズレ」をできるだけ少なくしておくことなのではないでしょうか。日本のシステムが過小評価されている現状では、「変化」について適切に議論することが難しくなるかもしれません。
報道では、どうしても現状の医療の問題点が多く指摘されます。しかし建設的な議論のためには国際的に見て、いまの日本の医療システムの状況はどうなのか?について、良い点も悪い点も含めて、冷静な判断の助けになる情報が広まることが大事なのだと思います。わたし自身、その助けになるように、自分にできることを少しでも進めていこうと思います。
「がんで死ぬ人は、減り続けている」 意外と知らないデータの真実
こんなマニアックな記事を、最後まで読んでいただいてありがとうございます。賛否両論あると思いますが、何かご意見などございましたらコメント欄で頂戴できれば幸いです。
(参考文献)********
ロイヤルフィリップス社 プレスリリース 2016年6月9日「超高齢社会での、日本が抱える医療課題が浮き彫りに~フィリップスの13か国意識調査で最下位~」
村田ひろ子/荒牧 央 日本人はなぜ医療に満足できないのか~ISSP国際比較調査「健康」から~ 「放送研究と調査」Nov.2014 56-67