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日本の医療は「世界最下位」?最新調査が示すものとは

市川衛医療の「翻訳家」
2016年6月9日 ロイヤル フィリップス社 プレスリリースより

今月、世界13か国において行われた医療システムなどに関する意識調査で日本が最下位だったとの結果が発表されました。

患者により良い医療と価値をもたらす(1)「医療アクセス」(2)「医療の統合」に向けた現状(3)「コネクテッド ケア技術」の導入―の3つのテーマへの意識を検証、数値化し、100点満点で評価しました。

その結果、13か国の評価指数の平均が56.5ポイントだったのに対し、日本の評価指数は49.0ポイントでこれを下回るとともに、13か国中、最も低い数値でした。

出典:6月9日 ロイヤルフィリップス社 プレスリリースより

医療へのアクセスのしやすさなどについて、医療従事者と患者(一般の人)に「どう感じるか」を聞いたところ、G7(先進7か国)の国々はおろか中国やブラジルより下だったという衝撃的な結果です。

ただこの調査は、ロイヤル フィリップス社という一つの企業が行ったものであり、質問の内容や翻訳の適切さなどに疑問を感じる部分もあります。ですので「最下位」という結果自体は、それほど気にする必要はないと思います。

ただ調査結果を良く読んでいくと、ひとつ非常に気になる情報がありました。

浮き彫りになる「医療従事者」と「患者」の意識ギャップ

ロイヤル フィリップス社 プレスリリースより
ロイヤル フィリップス社 プレスリリースより

上のスライドは、調査の回答を医療従事者と患者(一般市民)で比較したものです。

「病気の予防に役立つ薬や治療」「診断に必要な医療検査」などへのアクセスが提供されているか?という質問に対し、医療従事者は「そう思う」という回答が半分以上を占めていますが、一方で患者側は3割前後にとどまっています。

つまり医療の仕事をしている人とそうでない人で、日本の医療システムの評価には大きなギャップがあるということです。

日本人は、自国の医療システムへの評価が低い

国際的には、日本の医療システムは高く評価されています。

例えば医療へのアクセスという点では、ISSP(国際比較調査グループ)が2011年に「この1年間に医療機関を受診したか?」を聞いたところ、日本は64%と参加31か国のなかで最高でした。(下図)

村田ひろ子ら 放送調査と研究 Nov.2014より
村田ひろ子ら 放送調査と研究 Nov.2014より

これは日本では「思い立ったら気軽に医療機関を受診できる」ことを示していますが、実は国際的には、この当たり前の環境が整っていないところが少なくありません。WHO(世界保健機関)も2000年に、日本の医療システムを「総合的な健康達成度」で世界191か国のトップに評価しています。

また効率性の面でも、日本の医療システムは世界でも有数の高さと評価されていますが、前述のISSPの調査では「医療の効率性が低い」と考えている人が、平均よりも多いことがわかっています。

以上を考え合わせると、「日本は医療へのアクセスが良いにもかかわらず、満足していない人が多い」と言えるかもしれません。

なぜ「ギャップ」が生まれるのか

いったいなぜ、こうした状況が起きているのでしょうか?

ひとつの要因として考えられているのが、「世代間における不公平感」です。

村田ひろ子ら 放送調査と研究 Nov.2014より
村田ひろ子ら 放送調査と研究 Nov.2014より

日本では55歳以上と比べ、若年層ほど、医療制度への満足度が低下する傾向があります。国民医療費の多くが70歳以上に使われ、その財源を負担する現役世代の負担感が高まっていることが、医療制度への不満として現れているのかもしれません。

そしてもう一つの要因として考えられるのが、「医師への信頼度」の相対的な低さです。

先述のISSPの調査では、「医師への信頼」という項目で日本は参加31か国中、23位でした。筆者はこれまでの取材経験の中で、日本の医療関係者の真摯に仕事に取り組む姿を目にしていますので、この結果は少し残念な気もします。

求められる「関心」と「対話」

これから2025年にかけて、日本は「団塊の世代」の超高齢化に伴う医療システムの変革期を迎えます。これまで受けられた「当たり前の医療」の形が、様々な理由で変わっていくことが予測されます。

そのときに重要なのは、医療従事者と一般の私たちの間で、意識の「ズレ」をできるだけ少なくしておくことなのではないでしょうか。日本のシステムが過小評価されている現状では、「変化」について適切に議論することが難しくなるかもしれません。

報道では、どうしても現状の医療の問題点が多く指摘されます。しかし建設的な議論のためには国際的に見て、いまの日本の医療システムの状況はどうなのか?について、良い点も悪い点も含めて、冷静な判断の助けになる情報が広まることが大事なのだと思います。わたし自身、その助けになるように、自分にできることを少しでも進めていこうと思います。

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こんなマニアックな記事を、最後まで読んでいただいてありがとうございます。賛否両論あると思いますが、何かご意見などございましたらコメント欄で頂戴できれば幸いです。

(参考文献)********

ロイヤルフィリップス社 プレスリリース 2016年6月9日「超高齢社会での、日本が抱える医療課題が浮き彫りに~フィリップスの13か国意識調査で最下位~」

村田ひろ子/荒牧 央 日本人はなぜ医療に満足できないのか~ISSP国際比較調査「健康」から~ 「放送研究と調査」Nov.2014 56-67

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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