日本のプロ野球NPBはMLBに匹敵する観客動員―2022年全世界プロ野球観客動員データから―
1月も下旬に入り、野球界でも新たなシーズンに向けて様々なニュースが飛び交うようになってきている。コロナ禍は依然として止む気配はないが、日本のプロ野球、NPBにおいても、「声出し応援」の解禁が噂されるなど、スタジアムへの観客動員に関して、制限をなくしていく方向性が打ち出されようとしている。プロスポーツにとどまらずあらゆるエンタメ産業にとっての「春」がすぐそこにやって来ているようだ。
ところで、大小合わせると世界には約300のプロ野球チームがある。コロナ禍の中でも多くのリーグ、球団では昨年から観客動員に関しては制限が撤廃されており、ファンが球場に戻ってきている。世界各地のプロ野球に足を運んだファンの延べ人数を調べてみたが、その数実に約1億人。サッカーなどに比べ世界的普及が遅れているとされる野球だが、日本の人口に近い数の人びとがダイヤモンドに目を注いでいるのだ。
そこで、昨年実施されたプロ野球リーグの1試合当たりの観客動員数をランキングしてみた。いわゆるウィンターリーグや観客動員数について公開していない小規模リーグを除く約250球団の動員数を見ると各国の野球事情が見えてくる。
MLBに匹敵する動員数を誇るNPB
現在、夏季に行われる「プロ野球リーグ」は、日本、北米(アメリカ、カナダ)、メキシコ、韓国、台湾に存在する。その他、ドミニカとベネズエラにもウィンターリーグとは別の小規模リーグがあるようだが、詳細がわからないのでここでは取り上げない。また、4年前に中国でもプロリーグが発足したが、現在は休止状態にあるようだ。上記5エリアのすべてにトップリーグへの選手育成の役割を担ったファームリーグ、マイナーリーグがあるが、そのうち、日米、それにメキシコにおいては、そのマイナーリーグにおいても観客から木戸銭をとる興行が行われている。
試合興行を行っているプロ球団の1試合あたりの観客動員数を並べてみると、まず当然のごとく各国のトップリーグが上位を占める。
MLB 26843人
NPB 22873人
KBO 8420人
CPBL 4903人
LMB 4489人
(各トップリーグ1試合平均観客動員数)
各国トップリーグの観客動員数を比べてみると、予想通りMLB、NPB、韓国のKBO、台湾のCPBL、メキシカンリーグ・LMBの順となるのだが、上位の2つ、つまり北米メジャーリーグと日本のプロ野球NPB(一軍)の動員数は、約2万7000人と約2万3000人で大きくは変わらない。NPBに次ぐKBOが1万人台を割り8400人ほどであることを考えると両者はほぼ肩を並べていると言ってもいいだろう。KBOの下は大きく数字を落とし、CPBLは約4900人、LMBは約4500人となっている。この平均動員数がそのままそのリーグの財政規模、つまり選手の報酬と連動していることは、選手の国外移籍の状況に現れている。つまり、MLBで活躍の場がなくなった選手がまず目指すのは日本で、それがかなわない場合は韓国、それでもだめなら台湾やメキシコへというわけである。
ただし、メジャーへの昇格が見込める北米の若い選手の場合は、環境の違う台湾やメキシコで薄給に甘んじるくらいなら、マイナーリーグでその時を待つ場合がほとんとで、MLB球団もそういう選手は手放さない。
逆に韓国や台湾、メキシコでプレーする選手は、報酬の高いMLBやNPBを目指すのだが、メキシカンリーグの場合、その地理的位置などからMLBとの関係性が強いため、とくにドミニカやベネズエラなどのラテンアメリカ出身の選手は、アジアのKBOやCPBLではなく、LMBをプレー先に選ぶことも多い。
動員数だけを見ると、NPBはMLBに匹敵しているようにも見えるが、選手の移動をみてみると、NPBからMLBへ移籍する選手は、日本では考えられないような契約で海を渡っている。そこからはMLBが木戸銭からだけなく、放送権やマーチャンダイジングなど様々なかたちで収益を上げていることが見えてくる。ちなみにチケットの代金は、30年ほど前まではおおむねNPBの方がMLBより高かったが、現在ではMLBのチケットはどの席もすっかり高額になってしまっている。同じような動員数でもチケット売り上げは、MLBはNPBをはるかに凌駕していることだろう。
世界屈指の人気球団、阪神タイガース
2022シーズン世界プロ野球観客動員(1-30位)
順位 チーム リーグ 総動員数(人) 試合数 1試合平均
1 ドジャース MLB 3,861,408 81 47,671
2 カージナルス MLB 3,320,551 81 40,994
3 ヤンキース MLB 3,136,207 78 40,207
4 ブレーブス MLB 3,129,931 81 38,641
5 パドレス MLB 2,991,470 81 36,931
6 阪神 NPB 2,618,626 72 36,370
7 メッツ MLB 2,564,737 77 33,308
8 アストロズ MLB 2,688,998 81 33,197
9 ブルージェイズ MLB 2,653,830 81 32,763
10 ロッキーズ MLB 2,597,428 80 32,467
11 レッドソックス MLB 2,625,089 81 32,408
12 カブス MLB 2,616,780 81 32,305
13 巨人 NPB 2,318,302 72 32,199
14 ソフトバンク NPB 2,247,898 72 31,221
15 ジャイアンツ MLB 2,482,686 81 30,650
16 エンゼルス MLB 2,457,461 81 30,339
17 ブリュワーズ MLB 2,412,420 80 30,155
18 マリナーズ MLB 2,287,267 80 28,590
19 フィリーズ MLB 2,276,736 80 28,459
20 広島 NPB 1,968,991 71 27,732
21 中日 NPB 1,807,619 71 25,459
22 ナショナルズ MLB 2,026,401 81 25,017
23 レンジャーズ MLB 2,011,381 81 24,831
24 DeNA NPB 1,778,980 71 24,708
25 ホワイトソックス MLB 1,976,344 80 24,704
26 ヤクルト NPB 1,614,645 71 22,741
27 ツインズ MLB 1,801,128 80 225,14
28 ロッテ NPB 1,468,622 71 206,85
29 オリックス NPB 1,412,638 71 198,96
30 Dバックス MLB 1,605,199 81 198,17
球団別に見てみると、ベストテンには軒並みMLB球団が名を連ねる。その中でもダントツの1位は、ロサンゼルス・ドジャースだ。平均すると実に4万8000人近くのファンがスタジアムに足を運んでいることになる。続くセントルイス・カージナルス、ニューヨーク・ヤンキースまでが4万人超えと、やはり洋の東西を問わず名門球団の人気は根強いことがうかがえる。
その中で健闘しているのが、阪神タイガースだ。かつてはライバルの巨人がMLB球団をも凌ぐ世界一の人気球団とされていたが、現在ではそのライバルにも4000人ほどの差をつけ、1試合平均約3万6000人で「世界第6位」の人気球団となっている。
「3万人超え」は17位のミルウォーキー・ブリュワーズまでで、ここまでにNPBからは、阪神に加え、巨人、ソフトバンクがランクインしている。つまりMLB30球団中、コンスタントに3万人を集める球団は半数以下ということになる、MLBではかつて、収容6万人を超えるようなアメフトとの兼用スタジアムが多くみられたが、現在4万人台のスタジアムが増えているのは、このあたりの現実を踏まえたものなのだろう。
ちなみに日本のジャイアンツ、読売巨人軍の動員数は、「本家」、サンフランシスコ・ジャイアンツをしのいでいる。だだしこれは1試合平均の数字なので、総動員数となると、試合数の多いMLBのジャイアンツが16万人差をもって巨人をしのいでいる。
一方、「猛虎」の本家、デトロイト・タイガースは、MLB全体でも22位の1万9600人ほどで阪神には完敗。総動員数でも約100万人の差をつけられている。世界的に見ても、もはや「タイガース」と言えば、阪神なのだ。なお、デトロイト・タイガースの数字は、NPBでも8位に匹敵し、とかく不人気が指摘される昨年のチャンピオンチーム、オリックス・バファローズをも下回っている。
「格差問題」が深刻なMLB
2022シーズン世界プロ野球観客動員(31-50位)
順位 チーム リーグ 総動員数 試合数 1試合平均
31 タイガース MLB 1,551,149 79 19,634
32 楽天 NPB 1,331,131 71 18,748
33 日本ハム NPB 1,291,495 72 17,937
34 オリオールズ MLB 1,368,367 78 17,543
35 レッズ MLB 1,395,770 80 17,447
36 ガーディアンズ MLB 1,295,869 76 17,050
37 西武 NPB 1,212,233 72 16,837
38 ロイヤルズ MLB 1,277,986 80 15,974
39 パイレーツ MLB 1,257,458 81 15,524
40 レイズ MLB 1,128,127 81 13,927
41 SSG KBO 981,546 72 13,663
42 LG KBO 930,163 72 12,919
43 マーリンズ MLB 907,487 81 11,203
44 ティファナ LMB 453,961 45 10,088
45 アスレチックス MLB 787,902 79 9,973
46 ユカタン LMB 440,165 45 9,891
47 サムソン KBO 674,452 72 9,367
48 斗山 KBO 644,614 72 8,953
49 ロッテG KBO 631,656 72 8,773
50 モンテレイ LMB 382,048 45 8,490
MLBではタイガースのひとつ上のアリゾナ・ダイヤモンドバックス以下の10球団が、1試合平均2万人を割っている。NPB12球団中8球団がこの数字を上回っていることを考えると、MLBの下位球団の動員力はNPBでも下の方と考えていいだろう。
NPB最下位は埼玉西武ライオンズの1万6837人だが、この数字に満たないMLB球団は5球団もある。マイアミ・マーリンズに至っては、韓国KBOの上位2球団にも及ばず、最下位のオークランド・アスレチックスは、1万人を割り込み、メキシカンリーグトップのティファナ・トロスの後塵を拝する始末だ。
映画「マネーボール」で一世を風靡したこのチームだが、1990年前後の黄金時代には、対岸にあるサンフランシスコ・ジャイアンツをしのぐ人気を誇っていた。しかし、それも今は昔、現在は、韓国やメキシコの人気チームにも及ばない集客力しかないということだ。アスレチックスは、今シーズン、阪神から藤浪晋太郎投手を獲得したが、これもひょっとすると日本のタイガース人気をおすそ分けしてほしいという願いが込められているのかもしれない。
ちなみにNPBのトップから最下位までの差は、2.16倍。対してMLBは4.78倍だ。日本球界はかつて、セ・パ間の人気格差がすさまじく、パ・リーグの動員力はマイナーリーグと大して変わらなかった。それが、とくに「球団再編騒動」のあった2004年以降、パ・リーグ側の企業努力もあり格差は縮まり、今や動員力においては、MLBの背中が見えるところまで来ている。つまりもう少し商売上手になれば、トップ選手の「メジャー流出」を、指をくわえて眺めるようなことがなくなるかもしれないし、かつては絵空事と思われていた両リーグのチャンピオンによる「日米決戦」も現実のものになるかもしれない。そのことは、この「世界一」を目指すと言ってはばからない、ソフトバンクの動員数にもあらわれている。現在世界第14位の動員数の先にトップを見据えていることは、このオフの積極的な補強からもうかがえる。
対してMLBは、大きな曲がり角に来ているように思われる。「マイナーリーグ」とみなすメキシカンリーグの球団に及ばない(但し総動員数では試合数の関係から圧倒しているが)アスレチックスの存在は、エクスパンション(拡大)策を取ってきたMLBが飽和状態になっていることを示唆しているのではないだろうか。
(写真は筆者撮影)