オバマ元大統領のお気に入り映画に是枝監督の「怪物」
オバマ元大統領が、毎年恒例の「今年のお気に入り映画」をX(旧ツイッター)で発表した。全部で13本のリストの中には、是枝裕和監督の「怪物」も入っていた。
オバマはまず、最も良かった3本として、「ラスティン:ワシントンの『あの日』を作った男」、「終わらない週末」、「ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー」を挙げている。これらはオバマ夫妻のプロダクション会社、ハイヤー・グラウンドが製作した作品とあり、「贔屓目が入っているが」と認めながらも、「事実、今年見た中で、これらは最高の映画だった」と述べた。3本とも、ハイヤー・グラウンドが契約を結んでいるNetflixの配信。
残りの10本に挙げられたのは、「怪物」のほかに、アレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマティ主演の「The Holdovers(原題)」、iPhoneの前に大活躍した元祖スマホの舞台裏を描く「Blackberry(原題)」、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」、今年のトロント映画祭で観客賞を受賞した「American Fiction(原題)」、カンヌ映画祭でパルムドールに輝く「落下の解剖学」、映画の大部分が韓国語の「パスト ライヴス/再会」、ベン・アフレック監督の「AIR/エアー」、イギリスのインディーズ映画「Polite Society(原題)」、サンダンス映画祭で審査員賞を受賞した「A Thousand and One(原題)」。
毎年のことだが、アワードレースの真っ最中に発表されながら、よく見るタイトルばかりが並ぶのではなく、評価は高いがレースの中心からは漏れてしまった、見過ごされがちな名作もしっかり入っていることに感心させられる。オバマ元大統領は本当に良く映画を見ているし、センスが良い。
また、これまたいつものことながら、作り手や登場人物に多様性がある。「ラスティン〜」、「ジョン・バティステ〜」、「American Fiction」、「A Thousand and One」は、黒人が主人公の話(『ジョン・バティステ〜』はドキュメンタリー)。「AIR/エアー」も、マイケル・ジョーダンを演じる俳優の顔は一切出ないものの、ジョーダンが初めてナイキでスニーカーを作った時の舞台裏を語るものだ。女性監督の作品は「落下の解剖学」、「パスト ライヴス〜」、「Polite Society」、「A Thousand and One」の4本で、彼女らはフランス人、韓国系カナダ人、パキスタン系イギリス人、アフリカ系アメリカ人。
アメリカの歴史でも最も愛される大統領のひとりであるオバマから自分の作品を褒められるのは、これ以上にない光栄だろう。まさにアカデミー賞並みの意味があると言ってもいいのではないか。さらに、アカデミー賞で候補入りが有力視されている「The Holdovers」、「オッペンハイマー」、「パスト ライヴス〜」、「落下の解剖学」、有力とまではいかないが候補入りを実現すべく猛プッシュを続けている「AIR/エアー」にとっては、投票者を説得する上でありがたい新たな材料となる。
このリストを見て「この映画、知らなかったけれど良いなら見てみようか」と思う一般人も多いだろうし、現在上映中の作品においてはチケットの売り上げにもつながるかもしれない(『怪物』も現在アメリカで上映中)。もう配信になっているとしても、見てくれる人が増えるのは、作り手にとって嬉しいことだ。日本ではこれから公開の作品も多いが、それらの映画を楽しみにしつつ、この年末年始は、この中で今見られるものをチェックしてみてはいかがだろうか。