【高野町(高野山エリア)】千年続いた本物のお歯黒を塗って、色素沈着を調べてみた。
皆さま、時代劇・歴史ドラマはお好きですか?
これらは映像作品であり、ストーリーや登場人物の衣装・生活様式は史実とは異なります。当時の風習通りに再現されないことも多いです。
その有名な例が「女性の顔」。
本来当時の女性は「お歯黒」を塗って黒い歯になっているはずですが、白い歯のままになっています。女優さんの顔は美しいままですね。
お歯黒作りには、実は植物が使われています。
植物利用の研究をしている身としては気になるので、自分の歯で試してみました。
お歯黒(おはぐろ)とは
歯を黒く染める化粧法のこと。
日本では古代から存在したとされ、主に民間では明治時代末期まで、東北など一部地域では昭和初期まで、特に既婚女性の風習として見られた。
江戸時代以降は皇族・貴族以外の男性の間ではほとんど廃絶、既婚女性、18〜20歳以上の未婚女性、および、遊女、芸妓の化粧として定着した。
1870年3月5日(明治3年2月5日)、政府から皇族・貴族に対してお歯黒禁止令が出され、それに伴い民間でも徐々に廃れ(明治以降農村では一時的に普及したが)、大正時代にはほぼ完全に消えた。
きれいに施されたお歯黒には、歯を目立たなくし、(かつての人々の一般的な審美観からみて)顔つきを柔和に見せる効果がある。むらなく艶のある漆黒に塗り込めたものが美しいとされ、女性の化粧に欠かせないものであった。
歯科衛生が十分に進歩していなかった時代にあって、お歯黒は、歯並びや変色を隠すことができたほか、その染料が口腔内の悪臭・虫歯・歯周病に予防効果を持ち、口腔の美容と健康の維持のため欠かせないたしなみであった。
⇒予防歯科材料としての有効性
タンニンを主成分とする「ふし粉」と酢酸第一鉄を主成分とする「鉄漿水」(かねみず)と呼ぶ溶液からなり、お歯黒筆あるいは房楊枝を用いて交互に塗布していた。タンニンは、歯のタンパク質に作用してこれを固定し、細菌による溶解を防ぎ、第一鉄はリン酸カルシウム作用してその耐酸性をあげていた。さらに、空気で酸化されて生成された第二鉄はタンニンと結合してタンニン酸第二鉄の緻密な膜となり表面を覆い細菌から歯を保護していた。すなわち、お歯黒は歯の無機質および有機質との両面から歯質を強化し、かつ表面を緻密な膜で覆い歯を保護していた。
更に、お歯黒の材料は歯垢をよく取り除いておかないと歯に染まらなかったので、当時の女性たちは楊子で丹念に取り除いていた。つまり効果的に歯磨きもしていたわけで、これも虫歯予防に重要なことでした。
私たち日本人の先人が古代から予防歯科材料を開発し実践していたことは、歯科医学の歴史の中で特筆されるべきことでした。
お歯黒の主成分は、鉄漿水(かねみず)と呼ばれ酢酸に鉄を溶かした茶褐色の液体。
その鉄漿水と、草木染めでもよく使われる植物染料「ふし粉」の主成分のタンニンと結びついて黒く発色させて歯を黒くします。
ちなみに、アマゾンで買える「お歯黒」は、墨粉末の入ったワックスやイカスミパウダーが材料で本物ではありません。
お歯黒の作り方概略(1例です)
材料:日本酒、米、鉄
容器に日本酒を入れ、米を粥状に炊いたものを木綿の布巾などで濾して、その汁を容器に加える。そこに加熱して赤くなった鉄片を入れる。
よく混ぜて密封し、日の当たらない所で保管し、3~4か月で鉄漿水完成。
これを沸かし、ふし粉(植物の粉)を混ぜて歯に筆や布で塗布する。
1日3回、3日間塗ってみた!
作って試してみたのですが、塗ったときはふし粉成分のタンニンにより歯肉が引き締まる感覚がありました。
昔の人は歯磨きをしてからお歯黒を塗っていたようなので、私も歯磨きをしてから塗っていたのですが、2回目のお歯黒を塗る前に歯磨きをすると前回のお歯黒がほとんど取れてしまいました。
また、お歯黒を塗って時間が経つと、舌先でこすれるのか少しずつ薄くなってきます。
結論、全9回塗りましたが、毎回白い歯に塗る感じでした。なので、9回目を塗った後に歯磨きをすると白い歯に戻りました。
2日後、定期検診でお世話になっているかかりつけの歯医者で、お歯黒を塗った歯を見せて歯科衛生士さんにチェックして頂きましたが、プロから見ても全く色素沈着はありませんでした。
専門家の方に伺うと、1年くらい継続しないと表面は黒くなっても歯自体は黒くならないそうです。ちょっと残念・・・。
千年続いたお化粧文化ですが、今となっては奇習と見なされてしまいました。
3日程度では色素沈着しないので、良ければ当時のお化粧を試してみてください。