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気になる北朝鮮のミサイル発射に関する日韓の食い違い 一体どっちが正しい?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射場面(労働新聞から)

 北朝鮮が3月25日に2発発射した新型短距離誘導ミサイルを巡る日韓防衛当局の発表には気になることがある。発射時間、高度、発射地点などが微妙に食い違っているのである。

 ミサイル発射の一報は日本が韓国よりも早かった。韓国の発表の遅れについては北朝鮮を刺激しまいとして韓国当局が意図的に発表を遅らせたとの見方もある一方で、日本が先駆けて発表したのは韓国よりも情報能力が上であることを誇示するためとの見方も韓国内にはある。日韓の政治対立が災いしたのか、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)は機能せず、日本も韓国も今回の件で相手に情報提供を求めなかったようだ。

(参考資料:「ノドン」発射を探知、迎撃できなかった不思議)

 北朝鮮の2発のミサイルは防衛省の発表では1発目は「7時4分頃」、2発目は「7時23分頃」に発射されている。しかし、韓国合同参謀本部の発表では1発目は「7時6分」、2発目は「7時25分」に発射されている。1発から2発までの間隔は19分と同じだが、1発目も2発目もいずれも2分のズレがある。

 飛行高度も食い違ってる。日本の発表は「低い高度の100km未満」。これに対して韓国は「60km」と推定。日本が「100km未満」と抽象的に言っているところをみると、軍事機密上詳細を避けた可能性も考えられなくもない。

 では、飛距離はどうか?

 韓国は2発とも「450km」なのに対して日本は当初、NHKなどのメディアがそれぞれ「420km、430km」と報道していた。その後、岸信夫防衛相が午前9時45分の記者会見で「約450km飛翔したものと推定される」と述べたことから、最終的に飛距離は一致したようだ。ちなみに北朝鮮は「ミサイルは東海(日本海)上の600km水域に設定された目標を正確に打撃した」と飛距離が「600km」あったと発表している。

 問題なのは、発射地点が一致していないことである。

 岸防衛相は「北朝鮮の東岸から」と述べ、場所については特定しなかった。しかし、日本で速報が流れた時は「咸鏡南道・宣徳付近」と「宣徳」の地名が挙げられていた。一方、韓国は「咸鏡南道一帯から東海(日本海)に向け発射された」から後に「咸鏡南道・咸州一帯から」に修正していたが、これまた発射地点については特定していなかった。

 岸防衛相は記者会見で記者から「韓国軍は北朝鮮の発射場所について咸鏡南道と発表しているが」と聞かれても「他国からの分析の状況について、我々からコメントすることは差し控える」と回答を控えていた。また「海から発射されたのか、それとも陸からなのか」と聞かれても「東岸から」の一点張りだった。発射場所について知っていながら情報を明かさなかったのか、それとも特定できなかったのかは定かではない。

 「咸州」も「宣徳」も咸鏡南道・咸州郡にあるが、直線で12kmも離れている。「咸州」は西北に位置しているが、「宣徳」は東側の日本海に面しており、近くには咸興港がある。また、目前の海上には孤島の「花島」が浮かんでいる。日韓どちらが正しいのかは定かではないが、どちらか一方は困ったことに見当違いしていることになる

 ミサイルの発射地点を間違えたのはこれが初めてではない。過去にもある。

 例えば、2017年5月21日に北朝鮮はSLBM(潜水艦弾道ミサイル)「北極星1」を地上発射型に改良した「北極星2」を発射したが、当初、日韓は「平安南道の北倉付近から発射された」と発表していた。しかし、実際には16km離れた平安南道・安州からの発射であった。北朝鮮が公開した写真、動画に湖の傍から発射される模様が映し出されていたことから判明した。北倉には湖がないのである。

 また、約2か月後の7月28日には準ICBM「火星14」(高度3700km、水平距離約1000km、飛行時間は47分)がロフテッド(高角度)方式で発射されたが、日米韓軍事当局は発射場所として「平安北道・亀城」をマークしていた。

 その理由は、約3週間前の7月4日、米国独立記念日に北朝鮮が初めて「火星14」(高度2802km、水平距離933km、飛行時間は約39分)を試射した時の発射地点が「平安北道・亀城」にあったことにある。

 従って、2度目の試射も「亀城」が有力視され、実際に直前まで米韓のメディアは「偵察衛星などで亀城へのミサイル運搬や金正恩委員長(当時の肩書)をはじめ幹部らの車列が確認された」と報道していた。だが、予想に反し、発射された場所は中国国境に近い「慈江道・舞坪里」からであった。

 咸鏡南道にある北朝鮮のミサイル基地は筆者が確認しただけでも1998年8月に人工衛星と称された長距離弾道ミサイル「テポドン1号」が発射された無水端に近い宣徳を含め、咸州、咸興、端川、新浦、連浦の6か所もある。

(参考資料:北朝鮮が公表したミサイル発射場(全23か所)のリスト

 ミサイル場所が特定できなければ、仮に敵基地攻撃能力を有したとしても無意味である。

(参考資料:「敵基地攻撃」はあり得るのか? 想定される「日朝交戦」4つのケース)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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