男子サッカーインターハイ準優勝校 米子北高校のチーム作り(その2)
福井県でのインターハイ開幕を目前に控えた7月下旬、私は再び米子北高校を訪れた。言うまでもなく、中村先生と約束した「インターハイで全国制覇」を成し遂げるためだ。全国から強豪が集う全国大会、全国制覇までの道のりは9日間で6試合という超過密スケジュール。運も味方につけなければ勝ち上がるのは容易ではない。高校サッカーに限らず、トーナメント戦を勝ち上がるチームには「一体感」が欠かせない。今回は、インターハイ直前にどのようなアプローチでチームに一体感を生み出したかを解説していこうと思う。
背後のチーム
サッカーの試合は、選ばれた11人に加え、控え選手として登録されたメンバーがベンチ入りを許される。見方によっては、ピッチに立つ11人を ”チーム” と捉える方もいるだろうし、ベンチ入りメンバーまでを ”チーム” と捉える方もいるだろう。しかし、日々のトレーニングで切磋琢磨しつつも残念ながら登録から漏れたメンバーが100人近くいる。城市総監督、中村監督をはじめとしたコーチングスタッフもいる。トレーナーやメディカルスタッフもいる。用具やスケジュールを管理してくれるマネジメントスタッフもいる。実際、どこまでをチームと捉えるかが重要だと思っている。私は、主役である11人のチームを下支えしているチームのことを「背後のチーム」と呼んでいる。主役のチームだけを見ていては、背後のチームの価値に気づくことができない。
一体感
誰でも1度は「一体感」という言葉を使ったことがあるのではないだろうか。でも、その一体感という言葉をきちんと説明できる人は極めて少ない。あくまで私個人の考えではあるが、一体感とは「脇役が本気になっている状態」「脇役が主役級の活躍をしている状態」を指すと思っている。私の言う脇役は、注目を浴びない人、表舞台に立たない人のことであり、まさに背後のチームを意味する。背後のチームが本気になっている状態を作り出せれば、おのずとチームに一体感が生まれるのだ。
そこで、インターハイ全国制覇に向けて私が行ったチーム改革は、背後のチームを認め合えるチームにすることだった。無観客で行われた今夏のインターハイは、スタンドからの応援がない。つまり、目に見える直接的な応援がない分、見えない応援やパワーを感じ取れるチームこそが、粘り強さを発揮するだろう、という直感に基づき、私は主力選手に問いかけた。
「日々、紅白戦ができるのは誰のおかげだ?」
選手たちは、控えメンバーがいてくれなければ、紅白戦すら成り立たないことに気付いた。
「紅白戦はチーム強化の原点だ。日々、競い合う仲間の存在こそが、君たちを強くしてくれる。まずは、控えメンバーに感謝しなければならない。絶対に横柄な態度をとってはいけない。控えメンバーは、死ぬ気で紅白戦を闘ってくれ。毎回、主力が手を焼くような難しい紅白戦を演出できれば、おのずとチームはタフになる。そんな風に頑張れば、結果的に控えメンバーではなく、主力メンバーにも近づくことにもなる。紅白戦を死ぬ気でやれば、結果的に全員が成長でき、全員がハッピーになる」
こうして、背後のチームに価値が吹き込まれた。そして、私はさらに次のように続けた。
「紅白戦では、相手チームにアドバイスをしよう。紅白戦は所詮、身内同士の闘いだから、勝ったところで大した意味はない。だったら、相手にアドバイスをして、より質の高い紅白戦にしよう。主力もサブも関係なく、アドバイスをし合うことが大切。仲間からもらったアドバイスを実践して本番で得点が取れたら、アドバイスをくれた仲間に心から感謝するだろう。アドバイスをした側は、試合で本当に実践してくれているか、気になってその選手のプレーに注目するだろう。そうやって、お互いに関心を寄せ合い、感謝できる関係ができれば、おのずと強くなるのではないか」
どれだけ多くの仲間を巻き込めるか、どれだけ多くの仲間の気持ちを背負えるか、チームにまるで引力が働いたかのように、どれだけ多くの仲間の想いを引き寄せることができるか、それこそが、得体の知れない ”一体感” の正体だ。サッカーはもちろんのこと、陸上やスキーなど、背後のチームの活躍によって大成功を収めたスポーツ事例を選手たちには山ほど紹介した。その実例の数々が、彼らへの説得力になったに違いないと思う。ここでは、紙面の都合で詳細は省略するが、興味のある方は、拙著「脱トップダウン思考」(東京法令出版)を読んでみていただきたい。驚くほど、背後のチームが影響力を持っていることがわかる。
45分間のミーティングは、背後のチームの重要性に終始した。その後、選手たちから質問が相次いだ。遠慮がちにみえた選手たちが、この日は前のめりだった。選手たちの心を揺さぶったのかもしれない。特に印象的だったのが、とある主力選手からのこんな質問だった。
「自分たちが頑張ろうと思っても、それ以外のメンバーの熱量が上がってこなくて歯がゆい」
それに対して、私はこのように答えた。
「君の目標(全国制覇)は、君の頑張りだけでは達成できないよね。日々、質の高い紅白戦を闘ってくれる仲間の存在が不可欠だってことはさっき話したとおりだ。だからこそ、苛立ってはダメだと思う。彼らのやる気を削ぐようなことをしたら、結果的に自分の目標も遠ざかるだけだと思わないか。いかに彼らを巻き込めるか、共感してもらえるかが重要。彼らに課題があるのではなく、こちら側に課題があるんじゃないか」
いくつもの質問に答えながら、選手たちの日々のモヤモヤを解消していくお手伝いをした。
何事にも意味を見出す
私が7月下旬に米子北高校を訪ねる直前、コロナ感染状況の悪化によって、予定されていた遠征がすべて中止になったと聞いた。インターハイ前の貴重な対外試合がすべてなくなったことは大きな痛手だ。しかし、そこでがっかりするのではなく、プラスの発想でチームを勇気づけることが何より大切だと考え、選手に次のように伝えて、私のミーティングを締めくくった。
「遠征に行けないからこそ、なおさら紅白戦の重要性が増す。味方の強みも弱みもすべて知り尽くしている身内だからこそ、全力で主力メンバーが嫌がる闘い方をしてみよう。タフなチームに仕上がるだけでなく、控えメンバーのレベルも向上して、誰が出ても変わらない戦力になる。遠征に行くよりも価値のある日々を過ごそう」
メンバー同士が上下優劣をつくらず、「心の安全」を担保し、自分と異なる意見も歓迎し、身内で高め合える環境づくりをすること。そして、背後のチームが主役級の活躍をして紅白戦の質を向上させること。これらを最重要テーマとして、3週間後に迫ったインターハイに備えた。こうして、部員120人全員が大切にされ、脇役まで本気になれるチームの土台を構築した。
次回は、いよいよインターハイ本番について触れようと思う。無観客試合によって遠く米子の地に残された100名近いメンバーの様子、試合には出場できないけれど運営のお手伝いのために福井まで帯同したサポートメンバーの様子などをご紹介し、粘り強く勝ち上がった米子北高校の舞台裏に迫る。