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75歳・1人入居の一括前払いは2億9826万円。超高額・サービス付き高齢者住宅の存在意義は

櫻井幸雄住宅評論家
施設内には、資生堂美容室の出張サービスを受けるスペースもある。筆者撮影

 最も広い部屋は約101平米というから、サ高住(サービス付き高齢者住宅)としては、けた外れに広い。そして、賃料も高額だ。2LDK+ウォークインクローゼットの間取りとなり、2人入居の場合で月額賃料が181万2000円。1人入居ならば、165万7000円。入居時に将来の賃料を一括して払う方式も選択できるのだが、一括賃料は年齢によって変わり、75歳・1人入居で2億9826万円。75歳・2人入居で3億1686万円!

 2人入居で毎月家賃を払う方式を選んだ場合、年間家賃が2174万4000円となるので、14年以上生き続ければ、一括家賃のほうが安いことになる……だから、どうした、といいたくなってしまうのが、三井不動産レジデンシャルの新商品「パークウェルステイト浜田山」で最も高額家賃の住戸。都内杉並区の高級住宅エリア、浜田山に誕生したサ高住の一部屋である。

 ちなみに、サ高住(サービス付き高齢者住宅)とは、自立した生活が営める高齢者や軽度の要介護高齢者のために、主に民間事業者が運営するバリアフリー対応の賃貸住宅のこと。独立した居住スペースを持ち、その広さは25平米程度のものが中心。月額費用は15万円から25万円程度のところが多い。広さ、費用で、「パークウェルステイト浜田山」の数字が飛び抜けていることが分かるだろう。

家賃とは別に月額利用料、水・光熱費、食費が必要

 「パークウェルステイト浜田山」には、もっと家賃の安い部屋もある。たとえば、約58平米の1LDKであれば、1人入居で月額賃料94万4000円。一括前払いは75歳・1人入居で1億6992万円……やはり高い。ちなみに、賃料とは別に月額利用料というのが約25万円必要で、水・光熱費は別途。食事代も別途。もはや、どうでもいいや、という方も多いだろう。

 その分、立地や建物、サービスの内容は申し分ない。

 建設地は、京王井の頭線の浜田山駅から徒歩9分。閑静な一戸建て住宅エリアに建ち、敷地内外の緑が豊富。善福寺緑地まで徒歩7分と潤いがある。

 地下1階地上3階建ての建物は、自然石や大判タイルをふんだんにつかった超高級マンションの趣。少なくとも、「高齢者のための住まい」には見えない。

 建物内では、自室の浴室とは別に、2つの大浴場があり、それぞれ檜風呂と石風呂を備える。大浴場はタオル、バスタオルが用意されているので、着替えだけ持って行けばよい。

檜の浴槽を備えた大浴場のひとつ。自室の浴室は掃除が面倒なので、こちらを使う人が多いはずだ。マスコミ公開された際に筆者撮影
檜の浴槽を備えた大浴場のひとつ。自室の浴室は掃除が面倒なので、こちらを使う人が多いはずだ。マスコミ公開された際に筆者撮影

 最新機器を備えたフィットネスルームではトレーナーによるパーソナルトレーニングも受けられる(予約制で有償)。ほかに、シアタールーム、アトリエ、ビリヤード場、自動麻雀卓を備えたゲームルームなどが備えられる。

 さらに、資生堂美容室と提携した美容室があるし、送迎シャトルバスを活用して、日本橋エリアなどに買い物ツアーに出かけることもできる。

寝たきりになったときには、介護用住戸に移ることが可能

 毎日の食事として用意されるのは、朝食500円、昼食850円、夕食1300円など。この値段は常識の範囲内だが、レストランスペースは優雅だ。ガラス越しに庭を望む、ホテルのレストランのようで、来客と食事をするための個室もある。メニューはもちろん栄養バランスが管理されている。

 レストランで優雅に食事し、大浴場でお風呂に入り、お洒落も楽しむ、と自立した生活を営み、介護が必要になった際に入室できる介護用住戸も8戸も用意されている。大学病院との連携で、24時間常駐の看護スタッフがいるし、同じ建物内にクリニックもある。さらに、訪問介護事業所があるので、必要に応じて介護用住戸に移り、最後まで不安なく暮らせるわけだ。

 まさに、至れり尽くせりの施設・サービス内容になっており、住戸数は70戸。一般居室が62戸で介護施設が8戸の構成となり、介護施設だけの入居はできないので、実質62戸だけの生活空間となる。

館内の廊下はゆったりした広さで、ガラス窓の外には、樹木で覆われた庭の風情を楽しむことができる。マスコミ公開された際に筆者撮影
館内の廊下はゆったりした広さで、ガラス窓の外には、樹木で覆われた庭の風情を楽しむことができる。マスコミ公開された際に筆者撮影

 家賃水準からいって、「パークウェルステイト浜田山」は、限られた人だけの終の住まいということになるだろう。

 一般的な高級賃貸マンションの場合、家賃を経費計上できる個人事業主や士業の人たちに好まれる。家賃が高くても、経費で落とせるからよし、とする人たちだ。しかし、サ高住の場合、家賃を経費計上することはできないことになっている。

 その意味でも、本当にゆとりのある人たちだけの施設といえる。

 「そんなところ、誰が住むんだ」といいたくなるが、「そんなところ」を待ち望んでいた人が日本にも存在する。高齢化が進む日本では、「雲上サ高住」も少しくらいは必要なのだろう。

 「パークウェルステイト浜田山」はわずか62戸の規模。驚くべき賃料だが、関心を持つ人は多く、短期間に入居者が決まってしまいそうだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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