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【新型コロナ】鳴り物入りでオープンの英ナイチンゲール病院、ひっそりと閉鎖へ 緊急時に対応できるのか

小林恭子ジャーナリスト
ロンドンのエクセル展覧会センターを改装して建設された、ナイチンゲール病院(写真:ロイター/アフロ)

 28日、英国の新型コロナウイルスの新規感染者数が初めて4万人を超えた。一日当たりの報告数としては最多である。累計感染者数は約230万人、死者数は約7万1000人である(ちなみに、英国の人口は日本の約半分)。

 英国の人口(約6700万人)の5分の4が住むイングランド地方では、国営の国民医療サービス(NHS)が運営する病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で治療を受けている人は2万人以上となり、COVID-19のピークとなった今年4月当時の数字をしのぐ。

 現在、イングランド地方ではロンドンを含む南東部、東部が「ティア4」という最も厳しい警告ゾーンに指定されており、ほぼロックダウンに近い状態となっている。ほかの地方(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)も同様の状況にある。

 年末年始の休暇期間終了後、来月上旬からは学校が再開予定だが、果たして再開するべきかどうかの議論が続いているところだ。

特設のナイチンゲール病院、一部完全閉鎖へ

 感染がさらに急拡大するとみられる中、先のピーク時に次々と開設されたナイチンゲール病院のほとんどが休眠状態で、最も注目を浴びたロンドンの施設はひっそりと閉鎖に動いていることが保守系新聞デイリー・テレグラフの調べ(12月29日付)で分かった。

 新型コロナの感染が増加した今年春、政府は医療体制の崩壊を最も恐れた。「NHSを救おう、命を救おう」が合言葉となり、人工呼吸器がついた病床確保のためもあって、複数の医療施設を各地に急きょ設置。「ナイチンゲール病院」という呼称を付けた。

 7カ所に置かれたナイチンゲール病院の設置費用は2億200万ポンド(約307億円)に上った(テレグラフ紙が情報の自由法を使って、この情報を取得)。

 4月上旬には開設式典が行われ、ハンコック保健・社会福祉相が出席。チャールズ皇太子も自主隔離していたスコットランドからビデオで姿を見せた。

 しかし、その後、各施設がほとんど使われなかったことが報道されるようになった。

 ロンドンのナイチンゲール病院の場合、病床4000が準備されたが、治療を受けた人は54人。稼働していたのは4月3日から5月15日までだった。イングランド地方中部バーミンガム、北部ハロゲート、サンダーランドに設置されたナイチンゲール病院で治療された患者は一人もいなかった(残りの病院は北部ワシントン、マンチェスター、西部ブリストル、エクセターに置かれた)。

 テレグラフの調べによると、ロンドンのナイチンゲール病院ではすでにベッドや人工呼吸器が取り去られ、ほかの医療関連機材なども完全に撤去される見込みだ。

 バーミンガムとサンダーランドの特設病院は空になっており、「待機中」。エクセターとハロゲートは「特設予後診断センター」と模様替え(エクスターの病院がCOVID-19患者の治療を開始したのは、11月中旬から)。ブリストルの病院は通常のNHS施設の1つとなった。

 NHSの医療施設「ユニバーシティ・ホスピタルズ・バーミンガム」の臨床指導者イアン・シャープ氏はテレグラフ紙に対し、近辺の病院の医療職員は通常の医療サービスの対応に追われており、特設病院に人を派遣する事態の発生を「恐れている」と語る。

 また、英集中治療医学会のアリソン・ピタード博士は「形のあるものはすぐに作れる。しかし、仕事をこなす職員を育成するには何年もかかる。特に集中治療の医療現場ではそう言える」。

 ほかの医療専門家らもCOVID-19感染者の急増で、病院が対応に追われる状況を懸念する。

 英国では、例年冬場に需要が増大し、医療現場が悲鳴を上げる。「いざ」となったら、NHSが十分な対応ができるのか。不安は広がるばかりだ。

ワクチンの実施状況は

 イングランド地方南東部・東部の厳しい行動制限は30日に見直しとなる予定だが、制限が緩くなることはない模様だ。

 唯一の明るい話題が、ワクチン接種の拡大だ。

 今月上旬から米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンの接種が開始された。現在までに約60万人が第1回目の接種を終了している(このワクチンは一人2回の接種が必要)。英アストラゼネカとオックスフォード大学開発のワクチンが実施の承認を得るのもあと数日と言われている。

 ワクチンの接種順位を英国ではニーズと年齢層によって、9つのグループに分けている。以下はその順位と推定の人数だ。

 (1)ケア施設にいる高齢者、ケア職員(約100万人)

 (2)80歳以上の高齢者、医療職員、ソーシャルケア職員(約356万人)

 (3)75歳以上(約232万人)

 (4)70歳以上(約330万人)

 (5)65歳以上(約336万人)

 (6)16歳から64歳までで重大な病気につながる症状を抱えている人(不明)

 (7)60歳以上(約375万人)

 (8)55歳以上(約440万人)

 (9)50歳以上(約460万人)

 英国ではワクチン接種はNHSが行う形で中央集権化している。接種ができる人にNHSが連絡する。

 高齢者よりもNHSの職員、教師、スーパーマーケットのスタッフ、警察官などをより優先するべきではないかという声も出ている。

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ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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