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「ソン・フンミン神話に隠れて」と児童虐待疑惑かけられた父とサッカー教室。何があったのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

韓国代表キャプテンのソン・フンミン(トッテナム)に“イメージ失墜”の危機が訪れている。といっても、本人の不祥事ではなく、実の父親ソン・ウンジョン氏が物議を醸している。

現役時代に代表経験もあるソン・ウンジョン氏は、ソン・フンミンを小学校、中学とでサッカー部に入れず自ら指導し、現在の成功に導いた人物として有名だ。

過去には息子がK-POPアイドルとのデート現場をパパラッチされた際、「女性と会うよりも選手生活に忠実になれ」と雷を落としたこともあるなど、非常に厳格な父親としても知られている。

(参考記事:【写真】韓国代表の“美女パートナー”を一挙紹介。ソン・フンミンの恋人は人気アイドル!?

そんなソン・ウンジョン氏は現在、韓国国内でサッカースクール「SONフットボールアカデミー」を運営し、自らも監督として指導を行っているのだが、このアカデミーで“児童虐待疑惑”が浮上し、保護者とドロ沼の争いが勃発している。

合意金は最低5億ウォン?強請っているように見えるが…

6月28日に公開された録音記録によると、ソン・ウンジョン氏を告訴した保護者A氏は今年4月、ソン・ウンジョン氏を代理する弁護士と会った際、最低5億ウォン(日本円=約5835万円)の合意金を要求したという。

A氏はソン・ウンジョン氏の弁護士に「私も弁護士と話しているじゃないか」とし、「“20億ウォン(約2億3338万円)でも良い。少なくとも5億ウォン以下にはしないでください”と話した。本当だ。世間に知らせず、円満に合意するとなれば、今はお金だけではないだろうか。少しだけ受け取るつもりはない。5億ウォン以上は受け取るべきだと思う」と伝えた。

そして、「ソン・ウンジョン監督とソン・フンユンも関わっている。合意するにはお金が重要だが、イメージ失墜と考えれば5億ウォンの価値でも足りない」と、合意金を設定した背景を話した。ソン・フンユン氏はソン・フンミンの実兄で、SONフットボールアカデミーのコーチを務めている。

録音記録だけを聞くと、A氏がソン・ウンジョン氏やソン・フンミンの大衆的なイメージを利用し、過度な示談金を要求しているように見える。A氏のほうが明らかに強請っているように感じるのは、筆者だけではないだろう。

ただ、録音記録が公開された後、A氏の弁護人は釈明した。

「あたかも本人に過ちがなく、告訴人側に巨額の合意金を要求する人間のように言及しているが、これは2次加害だ。ソン監督は何の謝罪もせず、連絡もまったくない状態で、弁護士を通じて処罰不願書作成、言論情報提供禁止、サッカー協会への懲戒要請禁止を合意条件として提示した。被害者側は怒りの表現で感情的に話しただけで、真剣に、具体的に合意金に関して話したわけではなかった」と。

こうしたこともあって、ソン・ウンジョン氏とSONフットボールアカデミーへの視線はいまだ厳しい状態だ。

コーチの兄も暴言・暴行か

そもそも、ソン・ウンジョン氏とSONフットボールアカデミーのコーチ2人が児童福祉法上の児童虐待の疑いで告訴されたのは今年3月のことだった。現在は検察に送致され、引き続き調査が進められている状況だ。

A氏の息子は、被害者支援施設の仁川(インチョン)東部ヘバラギセンターを通じて、ソン・ウンジョン氏、ソン・フンユン氏など含むコーチ陣が、アカデミー所属のユース選手に継続的・反復的に暴言・暴行を加えたと陳述。体罰により、全治2週間の傷を負ったことも主張したという。

告訴の事実が明らかになると、ソン・ウンジョン氏はすぐに立場文を発表。

「最近、アカデミーの練習中にあった乱暴な表現と、体力トレーニング中になされた体罰(うつ伏せの状態にさせ、コーナーフラッグで太もも付近を殴る行為)に関して、現在、捜査が進行中だ」としたうえで、「告訴人の主張事実は真実と異なる部分が多い。アカデミー側は事実関係を歪曲することも隠すこともなく、加減なく明らかにし、捜査に積極的に協力している」と反論した。

ただ、「心の傷を受けた子どもとその家族の方々に深い謝罪の意を伝え、このような議論を起こすことになった点について、国民の皆様にお詫び申し上げる」と、謝罪の言葉も添えていた。

にもかかわらず、ソン・ウンジョン氏と保護者とで主張がお互い異なるため、騒動がすぐに収まる見通しはない。

問題が長引けば長引くほど、息子であるソン・フンミンのイメージに大きなダメージが及ぶ可能性があるだけに、ソン・ウンジョン氏としてもやるせないだろう。

ソン・ウンジョン氏に育てられたソン・フンミンは、今や韓国サッカー界を代表するスター選手となり、一般的な芸能人やアイドル以上の人気と地位を得た。その影響力はピッチ外に及び、ファッションや飲食など多彩な分野の広告モデルとしても活動している。

ただ、今回のソン・ウンジョン氏と保護者の争いにどのような結論が下されたとしても、ソン・フンミンのイメージに少なからず傷がつくことになるだろう。

市民団体が共同声明を発表

実際、7月1日には、韓国国内の市民団体である文化連帯代案体育会、民弁(民主社会のための弁護士の会)文化芸術スポーツ委員会、スポーツ人権研究所、体育市民連帯が「SONフットボールアカデミー児童虐待事件、厳重な捜査と再発防止が必要だ」という共同声明を発表した。

声明では次のような指摘が伝えられた。

「SONフットボールアカデミーの指導者たちは釈明文を通じて、コーチと選手の間で先着順のランで遅れたら一発叩くことで合意したと主張する一方、“子どもたちに対する愛が前提になっていない言動と行動は決してなかった”と伝えた。これは今まで繰り返されたスポーツ界の人権侵害事件における加害者たちの弁解と大きく変わらない。むしろ、彼らの人権感受性が非常に不足していることを証明するだけだ」

「成功した選手になるために黙々と練習する児童たちと、彼らの首輪を握っている指導者は決して同等な地位にない。なぜ彼らが体罰をめぐって同等な立場で合意などが可能なのか」

「多くのスポーツ暴力において、指導者たちは“愛”と“訓育”を言い訳に暴力を行使する」

そして、「“ソン・フンミン神話”に隠れて、選手として成功するために多くの児童・青少年と保護者たちがスポーツ暴力を黙々と我慢しているかもしれない。児童が大小の暴力に耐えなければならない文化とシステムは、今回の機会を通じて明確に変わらなければならない」と、息子の名前を持ち出して“改革”を訴えた。

また、SONフットボールアカデミーに被害児童の保護及び支援のための対策を用意すること、関係当局にSONフットボールアカデミー児童虐待事件に対して厳重に捜査することを要求。韓国サッカー協会(KFA)及びスポーツ倫理センターには、私設サッカーアカデミー内のスポーツ暴力に対する厳正な調査の実施を促していた。

市民団体たちは、今回の問題をめぐって7月4日に緊急討論会を開催する予定だという。

また、2日には春川(チュンチョン)地検がソン・ウンジョン氏、ソン・フンユン氏らコーチ2人の計3人に対する召喚調査を行った。日増しに加熱するソン・フンミンの“家族トラブル”は、まだ収拾する気配がない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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