まるで戦場、住宅が穴だらけ-千葉県南部の台風被害の凄まじさ、鋸南町と館山市を取材
「まるで、空爆されたかのようだ…」思わず、そんな言葉が筆者の口をついてでた。凄まじいばかりの破壊…家々の壁や屋根には大小の穴が空き、瓦などの飛来物がいくつも突き刺さっている。物置小屋や倉庫などは、もはや原形を留めないまでに壊されているものがいくつも見られた。住民の方々の自家用車も、車体のあちこちがへこみ、窓ガラスが粉砕されている。台風15号により甚大な被害を受けた千葉県。とりわけ被害が大きかった同県南部の鋸南町、館山市を取材した。
○凄まじい暴風被害
鋸南町の南部、海に面した岩井袋。小さな漁港を持ち、釣りの名所として知られる集落は、今回の台風で壊滅的と言うべき被害を受けた。どの家々も屋根や壁に穴が空き、瓦を剥がされている。無傷な家はないと言っても過言ではないだろう。こうした被害は、暴風による直接のダメージの他、飛来物が衝突したことにより損傷したもののようだ。ある住民の男性が「ほら、見てごらん。壁に突き刺さっている」と指差す。見ると、本当に瓦が深々と突き刺さっていた。どれ程の勢いで飛んできたのかと背筋が冷たくなる。別の男性は、自宅玄関前で呆然として座り込んでいた。「屋根や壁の穴から、雨風が入り込んで、家の中が水浸し。さっき業者に見てもらったけど『全壊』扱いだって。年金暮らしで、家を直したり建て替えたりするお金はない。これからどうしたらいいのか…」。
鋸南町北部の保田も住宅地の被害が大きい。ある住民の女性は「瓦屋根の家は軒並み、屋根が飛ばされてしまった」と嘆く。別の住民の女性も「壁に穴があいて家の中が水浸し。どこからか飛んできたトタン板も、私の家の前や庭に落ちてきて、片付けに困っている」と言う。鋸南町役場では雨漏りを防ぐためのブルーシートと風で飛ばされないよう押さえる土のう等を配っているが、一人あたりの枚数は制限せざるを得ない状況だと言う。「おかげさまで、水や食料品がたくさん届いており、十分な量を確保できました。ご支援下さった皆様に御礼申し上げます。ただ、ブルーシートや土のうはまだまだ不足しており、引き続きご支援お願いします」(内田正司副町長)。
*鋸南町にはふるさと納税での支援を行える。以下リンク参照↓
https://www.furusato-tax.jp/saigai/detail/676
○漁業や観光にもダメージ
台風15号は鋸南町の産業にも大きな打撃を与えた。保田港は、ブリやカマス、イワシ、アジ、イカ類などの豊富な海の幸を水揚げしており、保田漁業協同組合の直営食堂「ばんや」はリーズナブルな価格から県外からのリピーターも多い人気の観光スポットであった。同組合の加藤周平事務局長は「今年8月の初旬に、急潮(沿岸部で突発的に発生する強い流れ)で定置網に被害があったばかりなのに、今回の台風で弱り目に祟り目です」と話す。「『ばんや』も屋根が飛ばされて、定置網も破れてしまい、大変な状況です」(同)。暴風被害に加え、停電が続いていることも深刻だ。「(いけすの)海水ポンプが動きませんし、製氷機で氷をつくることもできません」(同)。つまり、漁が再開できても、結局、仕事にならない状況なのだ。「復旧に努めていますが、我々の力では限界もあります。もしご支援いただける方がいらっしゃいましたら、ご協力たまわりたいと思います」(同)。
○館山市も被害深刻「市の財政だけでは対応できない」
鋸南町の取材の後、筆者はさらに南下、館山市に入った。日程の関係から、被災した市民の方々に個人的に話をお聞きすることはできなかったものの、市役所の職員の方々から、お話を伺うことができた。否、彼ら・彼女らもまた被災者だ。自身も大変な中、身を粉にして働いている。ある職員の方は「台風15号被害への対応は長期戦になります」と語った。「市内をご覧になってご理解いただいたかと思いますが、とにかく、住宅被害が非常に多いのです。それに加え、停電も広範囲で起きていますし、水をポンプで組み上げる必要のある山本、畑といった標高の高い地域では、断水まで起きてしまっています。この暑さの中で、家が壊れ、電気も水もないとなると、本当に生きるか死ぬかの状況です。農業や漁業など、市の産業のダメージも大変なものです。野菜のためのビニールハウスは滅茶苦茶に壊され、農地にガラス片など飛来物がばらまかれてしまっています。ですから、県外の市民や企業の皆様からのご支援は本当に有り難いです」。
どのような物資が必要かと聞くと、水や食料などの他、館山市でも需要が高いのが、ブルーシートと土のう、ロープなど、雨風を凌ぐための物資だ。館山市は既に1万枚以上、住民に配布しているが、その数倍は必要だと言う。市の財政にも大きな負担がかかっている。1枚2000円ほどのブルーシートを必要とする人々に配るだけでも、数億円かかる見込みだ。「館山市の財政だけでは、とても台風被害へ対応しきれないことは確実ではないかと思います」(館山市職員)。国が激甚災害に指定すると、復旧事業の補助金が上積みされる。台風15号による被害についても、激甚災害指定の申請が行われると見られるが、「今は被害状況の全貌すら掴みきれていません。必死に情報を収集・集約しているところです」(館山市職員)とのことだ。
*館山市への支援送付先やボランティア参加は、以下リンク参照。市役所に電話が殺到すると、それだけでマンパワーを割かれることになるので、まずはリンク先で確認することが重要だ。
http://www.fukushi-tateyama.or.jp/ibentoosirase.html
○問合せ・連絡先
館山市社会福祉協議会
〒294-0045 館山市北条402番地
TEL:0470-23-5068 FAX:0470-22-8805
○温暖化進行による気象災害の深刻化が現実のものに
今回の鋸南町と館山市の取材は駆け足で見て回っただけのものであるが、台風15号の被害が尋常でないことが、一見してわかった。被災者の方々は口々に「こんな凄まじい台風は初めて」「台風がこんな恐ろしいものとは知らなかった」と語る。地球温暖化の進行とともに台風が強大化していくことは、環境省など国がまとめている報告書の中でも言及されている。今回の台風15号が温暖化に起因するものであるかは、気象庁の発表を待つところであるが、全体的な傾向として、温暖化の進行による気象災害の深刻化は、既に現実のものとなってきていると観るべきで、被害状況の確認のサポートや、速やかな自衛隊や緊急消防援助隊の派遣、激甚災害指定のスピード化がますます求められる。いずれにせよ、千葉県のみならず、国として台風15号被害に取り組む姿勢が必要だろう。
(了)