若い女性は栄養不足で健康リスクが増えている?
厚生労働省から「平成27年国民健康・栄養調査」の結果の概要が11月14日に公表されました。
国民健康・栄養調査は国民の身体状況と栄養素摂取や生活習慣を把握し、健康増進に役立てることを目的に、身体状況、栄養摂取、生活習慣の3項目について毎年実施されているものです。
この調査結果は、報道でもいくつか採り上げられたのですが、少し気になる内容のものがありましたので言及してみます。
若い女性では体格の指標であるBMIが低い人が他の年代に比べても多く、栄養調査の結果も必要量を下回っていることが分かったので、この年代の女性は食生活の見直しが必要である、という内容の記事でした。
たしかに、若い女性の痩身傾向はここしばらく続いていて、過度な痩身願望から必要以上に食事を控えてしまうことが一番の原因と考えられています。食事を控えすぎてしまうと、エネルギーが足りずに痩せるだけでなく、健康に生活するために必要な微量栄養素も不足するなどの問題が指摘されています。また、体脂肪率を落としすぎると月経が止まってしまうこともあり、これが将来の不妊にもつながるケースがあり、減量目的のダイエットには大きな危険がともなうことはもっと知られて良いと思っております。
このように私も同意見であり、記事の指摘している内容自体には異論はありません。問題と考えるのは国民健康・栄養調査の結果からはそのような分析はできないことを、さもそのような結果がでたように報告していることです。
当該記事より引用
20代と30代の女性は、痩せている人の割合がほかの世代よりも高く、エネルギーの摂取量が健康の維持に必要とされる量を下回っていることが厚生労働省の調査でわかりました。
この記事だけを読むと、多くの人が若い女性は痩せているのは、他の世代よりもエネルギー摂取量が少ないのだろうなと考えるのではないでしょうか?
実際に、若い女性のエネルギー摂取量は日本人がどれぐらい栄養を摂れば良いのかという指標となる食事摂取基準で示された値よりも少ないという結果はでております。しかし、それが若い女性の世代だけでないとしたらどうでしょうか。次の表をご覧下さい。
これは平成27年の国民健康栄養調査で報告されたエネルギー摂取量について、若い女性だけでなく、他の世代も並べてみたものです。必要なエネルギー量に対する割合で見ると、一番痩せている人の割合が高い20-29歳の世代よりも40-49歳の女性のエネルギー摂取割合が少ないことが分かります。
つまり、国民健康・栄養調査の結果だけでは若い女性ばかりが栄養状態が悪いとはいえない、という事を意味します。調査結果を素直に解釈してしまいますと、40-49歳女性のエネルギー摂取量は少ないので若い女性以上にもっと食べなければならないということになってしまいそうですが、そんなことはありませんよね。
種明かしをしますと、これは国民健康・栄養調査という調査の限界で、実は女性だけでなく男性も含めエネルギー必要量を満たしていないという結果になっているのです。栄養調査は食事記録を対象となった人に細かくつけてもらうのですが、かなりの労力になるため、食事を普段よりも簡便にしたり、食材の抜け落ちがあったりというような理由で、結果が過小にでる傾向が報告されています。私たち栄養士にとっては常識なのですが、一般の人はそのことを知らないで、ある程度妥当な数字だという前提で調査結果を読んでしまうことでしょう。
若い女性のやせの問題を議論するためには、国民健康・栄養調査の結果だけで云々するのは不適当です。この件に限らず、世の中の様々な調査や統計には、背景を知っていないとわからないような偏りや限界があります。マスメディアの方には、専門家による分析やレクチャーを元に記事にしていただければと思います。
【今回のまとめ】
・国民健康・栄養調査の栄養素等摂取量は過小な値がでる傾向があります
・この調査に限らず、各種調査には特徴や限界があるので注意が必要です
・1つの結果だけで何かをいえることはあまりありません
今回の記事の目的の1つは、この栄養調査は過小な値が出やすい傾向があることを示すことでした。次回はこの傾向を頭に入れた上で日本人の食塩摂取量を考えて見たいと思っております。