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夏場の食中毒は正しい知識で予防しよう<後編>~予防の3原則が通用しない食中毒に気をつけて~

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

前回の記事では腸炎ビブリオ食中毒激減の理由を解説しました。腸炎ビブリオを含め、細菌性食中毒全体の報告数は少なくなっておりますが、黄色で示した食中毒はあまり減少していないことがわかります。

 うまく予防できている食中毒とそうでない食中毒では何が違うのでしょうか。今回は細菌性食中毒予防の3原則に着目し、予防が難しい食中毒の特徴とその対策について解説します。

■食中毒予防の3原則とは

【つけない】

 食中毒の原因になる有害な微生物を食品に付着させない、洗い落とすことで予防します。食中毒細菌がいなければ食中毒は起こりません。基本的でありとても有効な食中毒予防法です。

【ふやさない】

 つけないことは大事ですが、食べ物から完全に細菌を除去することは困難です。食中毒細菌が食品の中で増殖すると食中毒を起こすリスクが高くなります。細菌は温度と栄養と水分の条件が整うとあっという間に増殖してしまいます。調理した食品はすぐに食べてしまうか、時間を置く時は低温で保存するなど食べ物の中で細菌を増やさないことで食中毒を予防する方法です。

【やっつける】

 多くの食中毒細菌は熱に弱いので、食べる前に十分な加熱をし、細菌をやっつけてしまうことで食中毒を予防します。やっつけた後には「つけない」ようにすることが大切です。

 食中毒予防の3原則は、細菌性食中毒に対しどれも有効であることが前提となっていますが、細菌の種類によっては3原則がそのまま通用しないものがあり、今でも患者数の多い食中毒にはこのタイプが多いと考えられるのです。

■食中毒細菌と3原則の有効性

 食中毒細菌に対する3原則の有効性を以下のように○△×で評価しました。

○とても有効 △有効だが注意点あり ×効果は限定的

 3項目全てが○の細菌による食中毒は比較的予防がしやすいと評価されます。この項目にあてはめて評価すると、前回の記事で解説した腸炎ビブリオは3項目全てが○であり、基本の予防策が通用する細菌であったことが激減できた理由といえるでしょう。

サルモネラ属菌

【つけない】○ 

【ふやさない】○

【やっつける】○

 汚染された食品を摂取してから12~48時間の潜伏期間の後、下痢、腹痛、嘔吐などの急性胃腸炎と発熱を起こします。

 獣鶏肉や卵に付着していることが多いので、これらを触った後にはしっかり手洗いをすることが大事です。35~43度のやや高い温度で増殖しやすいので夏場は調理した食べ物は常温で放置しないようにしましょう。高温に弱いので加熱調理で予防することができます。サルモネラ属菌については、食品の中で菌が繁殖していても、十分な再加熱を行うことで食中毒を予防することができます。細菌性胃腸炎と診断された人はサルモネラに感染している可能性があります。糞便中に細菌が排出されますので、トイレに行った後はしっかりとした手洗いをしましょう。できれば、胃腸症状のある人は調理に携わらない方が良いでしょう。

ブドウ球菌

【つけない】○

【ふやさない】○

【やっつける】△

 食品中で大量に増殖した黄色ブドウ球菌が産生した毒素であるエンテロトキシンが原因であるため、3時間程度の短い潜伏期間で発症します。吐き気や、嘔吐、下痢が主な症状です。

 黄色ブドウ球菌の保菌率は40パーセント程度と考えられ、特に傷口や鼻腔に生息しているため、手洗いが不十分であったり、化膿した傷のある手で食品に触れることで汚染の原因になります。食べ物の中では30~37度で特に増殖しやすく、食塩濃度が高い食品でも繁殖が可能であるため、つくり置きをした料理での食中毒が多く、日本ではおにぎりによる事故が多く発生しています。

 毒素のエンテロトキシンは熱でも壊れないため、食品中に毒素ができたら「やっつける」では防ぐことができません。お弁当をつくる時には十分な手洗いと、素手で触らない、低い温度で保管する(夏場は特に注意)ことが大事です。

病原大腸菌(O157などの腸管出血性大腸菌を含む)

【つけない】△

【ふやさない】×

【やっつける】○

 大腸菌の中で下痢を引き起こすものがあり、それらをまとめて病原大腸菌と呼んでいます。なかでもベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌は血便を引き起こし、重症例では腎障害を発症することもあります。他の食中毒に比べ死亡率が高く注意が必要です。

 健康な牛の腸内に生息しており、食肉や内臓肉などは汚染率が高いようです。また、生野菜にも付着していることもあります。内臓肉では表面だけでなく内部にも菌が存在し、非常に少ない菌数(10数個から)で発症した例もあるため、つけないの効果が限定的であり、増やさないが通用しないため、病原大腸菌が付着している可能性があるものは生で食べないことが最大の予防法になります。。

 最大の予防策は「中心までしっかり加熱(中心温度75度以上、1分間以上かそれと同等以上の加熱)」することです。野菜のように生で食べる場合には、飲用適(水道水など)の水で十分に洗い流すことや、決められた濃度の塩素で消毒を行うようにします。

 食品中で増えなくても危険なこの食中毒が夏場に多いとされるのは、野外で肉を焼くようなイベントが多くなることが関係しているのではないかと筆者は考えています。生の肉取り分けるトングと、加熱用のトングをきっちり分けるなどの再付着防止のための「つけない」を守ることが大事です。

カンピロバクター

【つけない】△

【ふやさない】×

【やっつける】○

 潜伏期間は2~7日と比較的長く、下痢、腹痛、嘔吐と37~38度の発熱が主な症状です。発症後に神経障害であるギラン・バレー症候群を起こすことがあります。

 動物の腸管内で生活している細菌であり、特に鶏肉の保菌率が高いことが知られています。病原大腸菌と同じくように少ない菌量でも食中毒を起こすことがあるため、増やさないが通用しません。酸素の割合が少ない環境が増殖に適しており、食品や料理の中で増えることはほとんどありません。鶏肉から他の食品に広がることを防ぐことと、十分な加熱が大切です。新鮮でも古くても、鶏肉を生で食べることは避けてほしいと思います。→ 参考記事

ウエルシュ菌

【つけない】△

【ふやさない】○

【やっつける】△

 潜伏期間は6~18時間と短く、下痢や腹痛が主症状です。発症後1~2日で回復することが多いですが、高齢者では脱水による重症化リスクもあります。

 動物の腸管内、土壌、下水など、自然界の様々な場所に存在しているため、ウエルシュ菌がついている前提で調理作業をするのが良いでしょう。高温で加熱すると芽胞という状態に変化し熱に耐え、温度が下がると再び増殖を開始します。43~45度と比較的高温を好み、酸素が少ない環境で繁殖します。大量につくったカレーや煮込み料理を常温で放置すると、温度がゆっくりと低下するため、ウエルシュ菌にとって繁殖しやすい温度帯が維持され食中毒を起こす量まで増加します。その日に食べない場合には、鍋ごとシンクで冷たい水につけ、酸素を含ませるようにかき混ぜながら冷やすことでほとんどウエルシュ菌の増殖を抑えることができます。また、一度増えてしまったとしても、食べる前に(ぐつぐつと沸騰させるぐらい)十分な再加熱することで予防することができます。

 家庭ではあまり起こらない食中毒ですが、夏場に煮込み料理を多めにつくって鍋ごと出しっぱなしにした場合には、発生する危険はあると考えてください。大量調理で必要な手間を惜しむと起こる食中毒といえるでしょう。

■今回のまとめ

 食中毒全体で見ると総数は減少していますが、それでも減らすことのできない食中毒は対処が難しいものが残っていると考えられます。この食中毒の中には死亡率の高い腸管出血性大腸菌も含まれており、食中毒予防の3原則のうち「増やさない」が通用しないという特徴があります。

 それぞれの食中毒細菌の特徴を理解し、効果的な対策を選択し、食中毒予防の役にたてていただければと思います。「増やさない」が通用しない食中毒には、「つけない」、「やっつける」を徹底した対策が有効です。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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