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名古屋が大学で日本一?~地方会場入試実施回数トップの理由

石渡嶺司大学ジャーナリスト

なぜか名古屋が今、熱い

※写真は先日の三島取材で遭遇した金物屋さんに並んでいた風鈴(石渡のコラムによくありがちですが、写真と本文は全く関係ありません)

先日、ある国立大の教員とお茶を飲んだ時のことです。

「今、名古屋が熱い」

と言われるので、そりゃ夏だからでしょう、と小学生並みの感想を言いそうになったのですが、

「国公立大、それも理工系が名古屋で地方会場入試を実施するようになっている」

とのこと。

へえ、と思いつつ、駿台予備学校の資料を読むと確かに増えていることが判明しました。

1学部1日程を1回としてカウント(つまり、前期・後期それぞれ会場設定がある場合は2回としてカウント)していくと、

東京:文系 26回 理系 19回 合計45回

名古屋:文系 13回 理系 30回 合計43回

という結果でした。

文系・理系合わせると東京がトップ。

ただし、東京で実施した文系学部のうち、来年の2015年度入試において、小樽商科大(商学部、商学部夜間)は東京会場廃止を決定。

一方、富山大経済学部は名古屋会場実施を決定。

※代々木ゼミナール国公立大学変更点参照・2014年8月20日現在

この2校の動き(東京がマイナス2、名古屋がプラス1)を計算に入れると、2014年8月20日現在、2015年度入試では名古屋が国公立大の地方入試会場実施回数でトップとなります。

特に文系・理系別だと名古屋が東京を大きく引き離しています。

では、なぜ、名古屋が注目されているのでしょうか。

名古屋は理工系大学が少ない?

推測その1:名古屋周辺も含めて理工系の国公立大学が少ない

少ないでしょうかね?それなりにありそうな気もします。

名古屋から通える範囲として三重、岐阜も含んだ場合、該当する国公立大学は以下の5校です。

名古屋大学 工学部740人、理学部270人 

名古屋工業大学 工学部910人

名古屋市立大学 芸術工学部100人

三重大学 工学部400人

岐阜大学 工学部510人

定員合計2930人

そこそこ枠はありそうです。

一方の東京。首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)を通学範囲とした場合、該当する国公立大学は以下の11校です。

東京大学 理学部280人 工学部938人

お茶の水女子大学 理学部125人

電気通信大学 情報理工学部690人

東京海洋大学 海洋工学部175人

東京工業大学 理学部185人 工学部733人 生命理工学部150人

東京農工大学 工学部521人

首都大学東京 都市環境学部200人 システムデザイン学部270人 都市教養学部(理工系)260人

埼玉大学 理学部210人 工学部440人

千葉大学 理学部210人 工学部630人

横浜国立大学 理工学部745人

横浜市立大学 国際総合科学部(理学系/推定)80人

定員合計6839人

大学数・定員数ともに、愛知・中京圏に比べ首都圏は2.2倍程度。

しかし、これだけだと多いか少ないか、わかりません。

志望者にとっての倍率が名古屋の方が高い

推定その2:理工系志望の高校生にとっての倍率は名古屋の方が高い

大学の定員数だけではわかりづらいです。

そこで今年3月卒業者数に、大学進学率(現役生のみ、48.0%)、理工系への潜在的な志望者の割合(32.45%)を掛けて算出してみました。

※理工系志望者の割合の根拠は学校基本調査「関係学科・専攻分野別学12.9%」のうちの半数を理工系として計算。

東京都 98535人→推定志望者数 15347人

愛知県 61326人→推定志望者数 9552人

推定志望者数を通学範囲内の国公立大学定員で割ると、単純な倍率が出るはず。

東京都:推定志望者数15347人÷定員6839人=2.24倍

愛知県:推定志望者数9552人÷定員数2930人=3.26倍

愛知の方が倍率は高く、入りづらい、ということになります。しかし、東京大や名古屋大など難関大にそう簡単に入れるか、という疑問ももちろんあります。

そこで、代々木ゼミナールの偏差値で61以上の大学を除外して、再計算してみました。

東京都:推定志望者数15347人÷定員1855人=8.27倍

愛知県:推定志望者数9552人÷定員1010人=9.45倍

やはり愛知県の方が入りづらい、という結果になりました。

倍率が高い、ということはその分だけ、地方の国公立大は地方会場入試を実施しても受験生が集まる見込みあり、ということになります。

名古屋が単に閉鎖的なだけ?

推測その3:愛知モンロー主義と国公立志望が合わさった結果

愛知県に限らず、どの地域でも高校生は国公立志望に変化しています。

その理由は省略するとして。

愛知県の高校生も、国公立を志望するのですが、理工系で手頃な偏差値の大学は少数。

そこに地方国公立大が地方会場入試を名古屋で実施すればどうでしょうか?

わざわざ大学所在地まで行かなくても受験できるのが地方会場入試のメリットです。

名古屋での実施大学のうち、理工系では大阪府立大学・工学域(偏差値66)を除けば、すべて偏差値60未満。

愛知県の受験生からすれば、入りやすい大学であり、わざわざ大学所在地まで行かなくてもいい、というメリットがあります。

加えて、愛知県の県民性として愛知モンロー主義(名古屋モンロー主義とも三河モンロー主義とも)が挙げられます。

よく言えば地元大好き、悪く言えば閉鎖主義。

こうした都市で地方会場入試を実施すればそれなりに受験生は集まる、ということが推測されます。

首都圏・関西圏以外でありがちな事情も

推測その4:適当な併願私大が少ない

ま、これは東京・首都圏、関西圏以外だとよくある話です。

国公立志望でも早慶から関関同立、マーチクラス、理工系だと東京理科大、芝浦工業大など適当な併願校が存在します。

ちなみに代々木ゼミナールの偏差値だと、

早慶:66~69

関関同立:59~66

マーチクラス:58~63

東京理科大:61~64

芝浦工業大58

といったところ。

ほかにも首都圏は理工系学部だと工学院大、東京電機大、日本大理工学部、北里大など併願校がいくらでも存在します。

その点、愛知県はどうでしょうか。

偏差値63の豊田工業大は国公立志望者の併願校になり得ます。

ただ、定員80人と超少人数校なので、併願校の受け皿になるには規模が小さすぎます。

では、ほかの私大はどうでしょうか。

名城大理工学部:57

南山大理工学部:56

中京大工学部:54

愛知工業大工学部:51

中部大工学部:50

大同大工学部:46

愛知工科大工学部:42

国公立大の滑り止め校にはなり得ても、併願校として考えるのはやや厳しいところです。

そこに偏差値で手頃な地方国公立大が地方会場入試を実施すれば受験者がある程度、見込めます。

優良メーカーの就職も影響?

推測その5:技術系就職が絶好調

閉鎖的な名古屋で地方会場入試を実施すれば受験生が集まる、ということであれば文系・理系は関係なく増えているはず。

しかし、名古屋での地方入試は理系30回(東京19回)に対して、文系は13回(東京は26回)。

それも大学数は国際教養大学、高崎経済大学、福井県立大学、都留文科大学、奈良県立大学の5校のみ。

※2015年度入試から富山大学経済学部も実施

なんでここまで理工系が多いのか、考えていくとぶち当たるのが技術職就職です。

名古屋、愛知、中京圏と言えば無借金経営の優良メーカーが多いことで有名です。

こうしたメーカーの技術職採用すべてが中京圏出身者にバイアスを掛けている、とまでは言いません。

常識的に考えれば、中京圏以外の大学からも幅広く人材を求めているはず。

しかし、メーカーはどこもそうですが、地元以外の知名度はそれほど高くありません。

そこに愛知出身の地方国公立大出身者が地元に戻りたい、という思いもあって、こぞって志望。相当数が就職でき、それが回りまわって、

「地方国公立大でも地元で就職できる」

という評判につながっている、というのも考えられそうです。

まあ、単に総合職採用に比べて技術職採用が好調、という事情もあるかもしれません。

地方会場入試が絶妙で日本一の近畿大

ここまで、国公立理工系学部がなぜ名古屋で地方会場入試を実施するのか、その推測を列記してみました。

大学にとっての地方会場入試は、うまく行けば受験生を増やすことにつながります。

一方、外れると会場費用や教職員の派遣の手間など負担が大きいだけ、というリスクも伴います。

単に大都市ならどこでもいい、というわけではありません。

その好例が東京です。

2015年度入試でも小樽商科大が撤退、それ以前も文系・理系問わず、東京会場を新設する国公立大もある一夫で撤退する国公立大も相当数ありました。

東京だと首都圏の国公立大や難関私立大と競合し、受験生が集まりにくいからです。

地方会場入試の設定がうまいのは私立大だと近畿大や東京農業大など。

近畿大が受験生日本一になった一因は地方会場の設定にある、とすら思います。

どこがうまいのか、と言えば、近畿大だと29か所で実施しますが、大学本部から電車で30分程度の大阪・梅田でも実施しています。

これは東京農業大も同じで、一般入試1期の受験会場数は16会場。うち大学キャンパス(世田谷、オホーツク)を除くと半数が世田谷キャンパスから30分~1時間圏内である首都圏(大宮、津田沼、松戸、池袋、立川、町田、横浜)。

地方会場入試と言いながら実質は「首都圏入試」なのです。

大学なら会場費はタダ。

それに30分程度なら受験生だって来るはず。

そう考えるのは、入試を実施する側の言い分です。

受験する側からすれば受験間際のストレスを考えればできるだけ移動は避けたいのが本音です。

この受験生心理により添った会場設定が近畿大躍進の一因であり、名古屋での地方入試実施も同様です。

今後も名古屋は日本一?

名古屋での地方入試実施は今後も続くでしょうか。

今は東北、北陸・甲信越の国公立大が中心です。

しかし、受験生集めということでは静岡、関西圏の国公立大なら見込みが立ちます。

中四国・九州の国公立大も同様でしょう。

同様に首都圏の国公立大も地方会場入試を考えるなら名古屋が有力候補となるはず。

今後、しばらくの間、名古屋は「国公立大の地方会場入試実施回数で日本一」を死守する、かもしれません。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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