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【短評】劇場版アニメ『i☆Ris the Movie - Full Energy !! -』

前田久アニメライター
2024年5月18日(土)舞台挨拶@新宿バルト9、17時10分の回(筆者撮影)

劇場版アニメ『i☆Ris the Movie - Full Energy!! -』は、2012年にデビューした声優アイドルユニット・i☆Ris(茜屋日海夏、久保田未夢、芹澤優、山北早紀、若井友希(順不同))の活動10周年を記念して制作された、「i☆Risの、i☆Risによる、ファンのための劇場版アニメ」(公式サイトより引用)だ。

監督は博史池畠、脚本は福田裕子、キャラクターデザインは植田和幸。アニメーション制作はStudio五組。手堅い座組で、実際、できあがった内容もそつがない。肩の凝らないエンターテインメント作品に仕上がっている。

i☆Ris本人をモデルとする美少女キャラクターたちが、画面に可憐に存在する。演出意図として、明確にギャグ顔に崩すことが要求されるシーンを除いて。これがちょっとすごい。時折挟まれる「アイドルとしてこれはありなのか?」というレベルの変顔のカットは、ただかわいくて大人しいだけじゃない、ユニークな立ち位置をi☆Risというアイドルが長いキャリアで確立してきたからこそできる表現だろう。「ピンチに陥った異世界に召喚された主人公たちが、歌の力で世界を救う」という女児向けアニメの劇場版を思わせる展開を採用しつつ、本当の女児向けでは出せない度数の高そうな“ポーション”がたびたび登場する、ジャンル定型のほどよい破り具合もなかなかに好ましい。

……さて、以上は比較的フラットな紹介。ここから先は少々、偏った話をする。

i☆Risは声優アイドルである。今作の歌唱シーンは当然本人たちによるものだし、登場するCGアニメによるライブシーンでも、モーションを本人たちが演じている。そうした本人たちの持ち味を活かすのであれば、ラストはこうなってくれたらいいのにな……と、期待していたら、まさにそのとおりの流れになった。ストーリーとも無理なく繋がっていて、ラストのこの爽快感は実に得難いものだった。先にも述べた通り「そつがない」作品ではあるのだが、率直なことをいえば、それはわざわざ劇場に足を運び、それなりの時間と金額を費やして観る作品としては少々食い足りない部分があるという話でもある。だが、アニメと現実の境目について何かにつけて考えてしまう身としては、このラストだけで元は取れたような気がした(数年間、関東圏のツアーを全通するくらいi☆Risにハマっていた……からではないと思いたい)。欲を言えば、冒頭をラストと逆の流れでやれていたらもっと……と思うのだが、それはないものねだりというものか。

今作はあくまでも「i☆Risの、i☆Risによる、ファンのための劇場版アニメ」ではある。だが、声優アイドルとアニメの関係について、つい深掘りしてしまったことのある(私のようなタイプの)人にとって、ただのファンムービーにとどまらない、どこか思考の呼び水になるような側面がある一作だ。

【本文中、敬称略】

公式サイト:https://iris.dive2ent.com/movie/

アニメライター

1982年生まれ。ライター。通称"前Q"。アニメーション関連のインタビュー、作品紹介、コラム等を各種媒体で手掛ける。主な寄稿先は「月刊ニュータイプ」(KADOKAWA)。作品の公式サイト、パッケージ付属ブックレット、劇場パンフレットなどの仕事も多数。著作に『オトナアニメCOLLECTIONあかほりさとる全書~“外道"が歩んだメディアミックスの25年~』(洋泉社、オトナアニメ編集部との共編著)、原稿構成を担当した本に『声優をプロデュース。』(納谷僚介著、星海社新書)がある。https://twitter.com/maeQ

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