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かつての本田圭佑と同じ悩み…豊田陽平が乗り越えるべき壁

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
ウルグアイ戦前日のザックジャパン。豊田と本田は最後列左に並ぶ

■フリーなのにパスが来ない

「僕には時間が必要なんです」

低く絞り出すように、本田圭佑は同じ言葉を繰り返していた。 

今からちょうど4年前の09年9月。岡田ジャパン時代のオランダ遠征でのことだ。

正確に言えば本田が話していたのは、日本語ではなく英語だった。本田はオランダ人記者から取材を受け、" I need time."  "I need time to be trusted." と、それこそ何度も言っていた。

当時オランダのVVVフェンロに所属していた本田は、日本代表ではまだ確固たる居場所をつかんでいなかったが、オランダリーグでは飛ぶ鳥を落とすような勢いでゴールを量産していた。

リーグ開幕から4戦連発、計5ゴールという実績をひっさげての代表合流。地元紙は、南アフリカワールドカップ出場を世界最速で決めた日本とオランダの親善試合を前に、本田の特集記事を大きなカラー写真付きで1面に掲載した。期待も注目も大きかった。

■「シュートさえ打てなかった」

ところが、オランダ戦での本田は散々な出来に終わった。試合に出場したのは後半開始から。4-2-3-1の左サイドハーフに入ったが、50分に訪れた最初の好機でコントロールミスを犯してボールを失い、スタンドの嘆息を誘う。

途中からはトップ下でもプレーしたが周囲との連携が悪く、攻撃でも守備でも機能しない。日本は後半だけで3失点。0-0で折り返したあたりでは期待を持たせていたが、終わってみれば0-3の完敗だった。明らかに“急ブレーキ”となった本田は、「ゴールを入れると言っていたのに、シュートさえ打てなかった」としょんぼりするしかなかった。

本田の落胆ぶりがひしひしと伝わってきたのには理由がある。単純にミスが多かっただけではなく、フリーになっても、欲しいというゼスチャーを見せてもパスが来ないという場面がやけに目立ったからだ。

ゴール正面右の位置で直接FKを得たシーンでは、ボールを置いた中村俊輔(当時エスパニョール)と丁々発止のやりとり。腰に手を当てながら「俺が蹴る、と5、6回は言ったけど」(本田)、蹴ったのは中村だった。

冒頭にある「時間が必要なんです」という言葉は、この試合の翌日に発せられたものだ。「パスが来ないことについては、これが俺の実力だと自覚しないといけない。俊輔さんがFKを譲らないのは当然だと思う。俺もVVVでは譲らないから」。金髪の23歳は殊勝だった。

■クロスボールが来ない

13年8月14日、宮城スタジアムでのウルグアイ戦は豊田陽平にとって、キャリア3試合目となる日本代表戦だった。

国内組だけで出た7月の東アジアカップで篩(ふるい)にかけられて生き残ったサバイバル戦士の1人。ウルグアイという世界トップクラスの強豪を相手とする試合で、“コンフェデ組”と呼ばれる常連組と新戦力がいかに融合し、誰が生き残っていくかが注目の的となる中、豊田に関してはもう一つ、星稜高校と名古屋グランパス時代の1つ後輩である本田とのコンビネーションにも関心が寄せられた。

名古屋時代の豊田を知る吉田麻也が「昔より明るくなって、自信にあふれているように見えます」と語ったように、チーム内でも期待されていることを窺わせていた。

結果から言えば、不完全燃焼だった。

豊田は64分に柿谷曜一朗と交代でピッチに立ち、1トップの位置に入ったが、そのときすでにスコアは1-4。日本はウルグアイに大きくリードを許していた。そのため、チーム全体の前への推進力が乏しいという割引材料があったのも確かだが、それにしても豊田が「存在感」を見せられず、「スイッチ」にもなれなかったというのは、現実だ。

「難しい状況だったが、何とかしたかった」と意欲を燃やしていたが、いかんせんボールが来なかった。所属のサガン鳥栖で最も得意としているのは、高さと強さを生かしてクロスボールに頭を合わせるプレーだが、肝心のクロスが上がってこないのでは良さを出す場面を作れない。

試合後、豊田は唇を噛みしめながら言った。

「数日間の合宿ではまだまだ信頼を得られない。ボールが入ってこなかった」

■本田とのホットラインも不発

本田とのコンビネーションプレーも見られなかった。69分にはゴール前に流れて良いポジションを取ったものの、本田はパスを選択せずに自らシュートを打つことを選択した。豊田はこのシーンについて、こう語る。

「あそこではパスを出してくれてもよかったけど、彼(本田)がその方がチャンスがあると思ったのかもしれない。信頼を得ない限り、ポッと入ってでは、パスを出しにくいのかなと思う」

そして、さらに続けた。

「外国人じゃないのでコミュニケーションは取れるはずだけど、信頼感は少ないと思う。もっともっと信頼を得ていかないといけないが、頼ってもらうにはやっぱり時間がかかる」

必要なのは信頼感だけではない。まずは自分のプレーの特徴を仲間に理解してもらうことが不可欠だ。

「東アジアカップのときは(チーム全員が)Jリーグの選手だったので、僕のストロングポイントであるゴール前での迫力、というのを分かってもらえていたけど、今回はまだ自分の特徴を生かしてもらえなかった」

Jリーグではシュート58本(8月23日現在リーグ4位タイ、1試合平均2.8本)で14得点(同3位タイ)を挙げているストライカーがウルグアイ戦で残した数字は、約30分間のプレータイムで「シュート0、得点0」だった。

■必要なのは信頼されるためのプレータイムを手にすること

思い起こすのは、自信に水を差された感のあったオランダ戦の後、本田が所属チームで必死にあがき続けたことだ。翌10年2月にCSKAモスクワへの移籍を果たすと、そこでブレーク。代表戦ではどこか意欲が空回りしがちだった本田だが、CSKAで得た自信と信頼は徐々に代表にもスライドしていき、しかるべき地位を築いていくことにつながった。10年6月のワールドカップ本大会での活躍は説明するまでもない。

ワールドカップ予選を勝ち抜きながら結束していったチームに新たに加わっていく選手には、短期間で信頼を得なければならないという高いハードルが課せられている。少ない時間の中で、いかにして自分の特長を認識してもらい、理解してもらい、信頼してもらえるか。ザッケローニ監督へアピールするためには、まずはチームメートにアピールすることが必要だ。

ウルグアイ戦後の豊田の口調には、パスが来なかったという現実をしっかり受け止めながら、この先何が必要なのかを悟ったというような響きがあった。それは09年に本田が見せた姿と相重なるものだった。

今やるべきことは鳥栖でハイパフォーマンスを継続し、ゴールを決め続けること。そして、さらなる自信をつけてザックジャパンのメンバーに選ばれ続けること。全力ダッシュでの挑戦は続く。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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