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名将グアルディオラが語った勝負論。シティでの名采配の原型とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
CLマドリー戦で采配を振るマンチェスター・シティのグアルディオラ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

グアルディオラとのインタビュー

 2007-08シーズン、筆者はジョゼップ・グアルディオラへのインタビューに成功している。

 当時、グアルディオラはFCバルセロナのセカンドチーム、バルサBを率いていた。すでに「インタビューは一切受け付けない」という姿勢を明確に打ち出し、そこは今と変わらない。その代わり、記者会見ではどんな質問も受けるスタンスだった。

 筆者が運よく話を聞けたのは、グアルディオラと親しい記者の口利きとタイミングのおかげ(バルサB監督時代でそこまで重圧はなく、たまたま期限が良かったか)だった。信頼関係の連鎖で実現したと言える。ベンチに座って心行くまで話を、とはいかなかったが、いくつかの質問に独占で答えてもらい、(スポーツ誌「Number」の取材で)写真撮影までさせてもらった。

 その時、一つのやりとりを今も覚えている。現役時代のグアルディオラに凛とした立ち姿が似て、パスの出し方の鮮やかさも瓜二つだった選手について訊ねた時だ。

「自分と同じような選手は要らない。ピッチに立った時、プレーを革新させるような選手が必要なんだ」

 グアルディオラはにべもなく言った。当たり障りのない、ポジティブな答えを予期していた。それだけに、いきなり斬りつけられた気分だった。想定内の選手など必要ない。ピッチで戦術を動かし、革新させられる、そういう選手を彼は求め、鍛えていた。そして事実、当時は猫背で大して評判が良くなかったセルヒオ・ブスケッツを同じポジションに抜擢し、大きな成功を得たのだ。

 2月26日、グアルディオラがマンチェスター・シティの指揮官として、レアル・マドリーを相手に見せた采配は、まさにその信念が感じられた。

シティの選手にも、戦い方を伝えなかった

 マンチェスター・シティが、敵地サンティアゴ・ベルナベウで名将ジネディーヌ・ジダン監督が率いるマドリーにどう挑むのか――。実は試合直前まで、麾下選手たちでさえ知らなかった。

「ペップ(グアルディオラ)とは4年ほど一緒に過ごしてきたけど、今回は一番、驚かされたよ。チーム内でもいくつかサプライズがあって。実は試合が始まる前まで、どのようにプレーするか、選手は知らなかった」

 そう述懐しているのは、マドリー戦、変則的な4-4-2の2トップの一角でプレーしたMFケビン・デブライネだった。

「戦い方の変更はうまくいったと思う。最初の15分は悪い時間帯で苦しんだけど、選手たちは嵐を過ごすという覚悟をしていたから。後半にとてもよくなって、ともに戦うことができた」

 シティは、セルヒオ・アグエロをトップにした4-3-3で戦うことが主流である。デブライネは中盤インサイドハーフが主戦場だが、この日はトップに位置。そしてアグエロの控えであるガブリエウ・ジェズスは左アウトサイドへ回った。そしてダビド・シルバをベンチに置き、ダブルボランチでロドリ、ギュンドアンを組ませた。

 まるで、チームにカオスを与えるようなシステムだった。

ピッチに立った選手のプレー革新

 グアルディオラは戦い方を一変させている。いつもは、徹底的にボールを握る。相手をパス回しで翻弄し、高いラインを敷き、リスクを冒しても守備組織を砕く。しかし、マドリー戦は裏に蹴りこむ機会が少なくなかった。象徴的だったのは、普段はボールをつなぐGKエデルソンが、マンマークを受けたとはいえ、躊躇わずにロングボールを選択しているのだ。

 ポゼッションに固執せず、リスクを最小限にしつつ、分厚くした中盤での攻防でジワリと優位に立つ。選手が神出鬼没に動き(例えばデブルイネが下がったり流れたり、ジェズスが中に入ったり、ギュンドアンが高い位置を取ったり)、ボールの動かしどころをつかむ。守備ではMFとDFの間への侵入を許さず、攻め手を一つひとつ断って、次第に攻める時間を増やしていった。

 選手たちが、戦術に適応したのだ。

 60分、シティは自陣でオタメンディのパスが強すぎ、ロドリのコントロールが乱れたところ、カウンターを鮮やかに叩き込まれている。痛恨の失点だった。しかし、彼らはリズムをつかみかけていた。

リージョのグアルディオラ評

 ピッチで戦術をアップデートしたシティの選手は、リードを許してから攻撃を激化させる。相手がラインを下げたのもあったか。パス回しがスピードアップし、押し込む。

 そこで、グアルディオラは満を持して左サイドにラヒーム・スターリングを投入した。走力で勝る選手を入れ、相手のサイドバックと対峙させ、局面で優位を与える。この交代策が仕上げになった。

 79分、スターリングはすでに足を使っていたマドリーのディフェンスを、奈落の底に落とした。左サイドを蹂躙。左に回ったデブルイネのクロスに、ファーポストでフリーになったジェズスが頭で合わせ、まず同点弾を決めた。そして3分後には、スターリングがダニエル・カルバハルにスピード勝負を仕掛け、あっけなくPKを取り、これをデブルイネが冷静に沈めたのだ。

「グアルディオラがすごいのは奇策ではない。普段のトレーニングの質が圧倒的に高いんだよ。だからこそ、試合で選手が臨機応変に戦える。勝てるチームを作れるんだ」

 グアルディオラのもう一人の師匠であるファン・マヌエル・リージョの評価である。

 シティは1-2で鮮やかに逆転勝利を収めた。

グアルディオラの深淵

「試合前にすべての戦略を決めることはできない。サッカーは相手があるスポーツだから、二度と同じプレーは繰り返されないからね」

 かつてグアルディオラの恩師であるクライフはそう言って、サッカーの真実に迫った。

「私は選手の時も、監督になった時も、まず5分程度は相手を見極めつつ、最もいい陣形を模索した。私の最大の才能は、選手として試合の流れを読み、指揮官としてチームを動かせることにあった」

 臨機応変の境地か。

 その遺志を継ぐグアルディオラも、勝負の向き合い方が真摯で情熱的で、なにより選手の可能性を信じている。それゆえ、チームを革新させられるのだ。

「勝利せずに選手を成長させる、その意味が私にはわからない」

 グアルディオラは筆者に、当時はっきりと言った。彼はその言葉を証明するように、そのシーズン、4部でバルサBを優勝させ、3部に昇格させた。そして2008-09シーズンからトップチームを率い、最強時代を作り、リオネル・メッシを異次元に導いた。

 時代は巡って、グアルディオラはシティでも伝説を作ろうとしている。

 3月17日、シティはマドリーを本拠地に迎え、ベスト8入りをかけて2レグを戦う。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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