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日本代表の野口竜司、アイルランド代表に負けて言われた「自分で…」を振り返る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
東海大学ではキャプテンを務める。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

 今春の4~6月におこなわれたラグビー日本代表のテストマッチ(国際真剣勝負)全7試合に先発した東海大学の野口竜司が、7月、単独取材に応じている。

 昨春に代表デビューした野口は、昨秋着任のジェイミー・ジョセフヘッドコーチに落ち着いたプレーぶりを買われた。ベストメンバーの揃った今年6月のツアーでも、グラウンド最後尾のフルバックとして先発し続けた。身長177センチ、体重86キロと決して大柄ではないものの、判断力やランニング時のボディバランスで魅した。

 インタビューでは、2連敗に終わった6月の対アイルランド代表2連戦時の事細かなエピソードも明かしている。

 以下、一問一答の一部(編集箇所あり)。

――6月のツアーの課題、収穫について教えてください。

「多かったのは、収穫の方だったと思います。試合に出させていただいて、自分の持ち味を活かさせてくれるチームメイトがいたことで動けた部分があった。(攻撃時は)それまで周りを使おうと考えていたんですけど、周りを使い過ぎるよりも自分で持っていくことも大事だと気付いた。前までだとウイングまで回していたところでも、自分がキャリーすればサポートも(自身に)寄りやすい。前までであれば自分がパスをした後にサポートが遅れてしまっていた…というところでも、自分でキャリーすればブレイクダウン(接点)も前に作れたりする。それを試合、練習を通して気づけたのが、自分としての収穫です。あとは、ターンオーバーボールへの反応(攻守逆転後の攻撃参加など)が自分のなかで早くなっているなと感じました」

――2015年のワールドカップイングランド大会で日本代表のキャプテンを務めたリーチ マイケル選手は、野口選手が最後尾で相手のキックをカバーする際の「運動量」に舌を巻いていました。

「前までだと端から端まで(相手の動きを)追いかけた分、カバーが遅れていた部分が多くて。ただ、ARC(若手主体で臨んだ春のアジア・ラグビーチャンピオンシップ)でアキさん(山田章仁、イングランド大会に出たウイング)と一緒にやった時に、『しこまでカバーしなくていい』と聞いた。動く幅を狭くした分、(キックの落下地点へ)早く動くことができた。

 相手がボールを端まで持って行っていた時に、自分がどこまで追いかけるか。前までは、無駄というわけではないですが、大きくカバーし過ぎちゃう時があって。その瞬間に逆側へ振られた時、自分が追い付けなかったりもしていた。そのうえ、自分が追い付けていなかったということを感じてもいなかった。むしろ、『しっかりカバーをしないとキツい』と思ってしまっていたんです。ただ今回のARCからは、動く幅を狭くして(蹴られた瞬間の)反応スピードを意識してやるようになった。反応スピードでカバーできることが知れたのでよかった」

――相手のキックを難なく捕球していたのは、「運動量」だけでなく「予測」や「反応」のたまものでもあるのですね。リーチ選手や山田選手を含めたイングランド大会組への印象を、改めて言葉にすると。

「余裕を持っている方がたくさんいる。試合中もどんどん声をかけてくれて、自分(野口自身)ができていないところの指摘、もっとこうして欲しいといった要求がある。それによって自分のできていなかった部分に気づけますし、成長させてもらっている実感が湧きました。ボールキャリー、ディデンスのところではアキさんに色々と教えてもらいました。バックスリー(ウイングとフルバック)でコミュニケーションを取る部分では、(福岡)堅樹さんと一緒にやるなかでカバーのタイミング、(相手の攻撃に備えて)後ろへ下がった時に掛け合う声のことを意識できるようになりました」

――東海大学の先輩でもある、マイケル選手とは。

「すごく優しい方。僕も人見知りなんで、初めて会った時は全然、話せなかったんです。ただ、フミさん(田中史朗、スクラムハーフ)とリーチさんは仲がいい。フミさんは食事終わってからも(食堂に)ずっと残って僕らと話をしてくれていて、そこにリーチさんが来た時に皆で話すようになって。ルーマニア代表戦の後は、ご飯に連れて行ってもらったりもしました」

――試合やツアー中のことについても伺います。6月17日のアイルランド代表戦では22-50と大敗しました(静岡・エコパスタジアム)。

「チームとしてはディフェンスでよくない部分が出た。(24日の東京・味の素スタジアムでの再戦に向けた練習では)その確認と、そのなかでの激しさを意識してやりました。戦術は大きく変わらなかったですけど、蹴った後のディフェンスは激しくいこう…と。激しさ、気持ちの部分でよくないと言われました」

――精神面の指摘は、えてして選手が同意しにくいものです。

「自分はやっているというイメージを持っている選手も、できていないと感じた選手もいたと思います。でも、終わったことは終わったことで、次にどう(力を)出すかという話になりました。17日の試合が終わって、次の日。東京へ移動する前に、ジェイミーさんから『どうやったら改善されるか、自分たちで考えてこい』と言われた。東京へ着いてから、選手はグループごとに話をして、次に集まった時に皆で意思統一しました。

 1戦目では、キックへのチェイスはよかったんですけど、1人がチェイスしてターンオーバーを決めても、その後の(接点で)人がいなくて…(再度ボールを奪われる)ということがあった。キックを蹴った先でターンオーバーチャンスがあった時も、向こう側に(キックの落下地点での接点を)固められて、タッチに蹴られたシーンもあった。『ボールに対して全員が反応して動け』というのは、コーチ陣からも指摘がありました。ダブルタックル、前に出てのプレッシャーは、改善できました」

――その試合は結局、13-35で落とすこととなります。ご自身にも攻撃時、複数のタックラーに抱えあげられてボールを奪われるシーンがありました。

「あの場面は…。前に出ようとしたときに上体が浮いて、そのままボールが絡まれた。自分としては、(コンタクトの瞬間に)1歩、低くなってもっと(相手の懐へ)潜れば、と。それか、それとも半身ずらして(ステップで相手の胸元から逃れて)味方のサポートを待つか…。または味方のいるところ(サポートが多く集まりそうなところ)へ走るか…。そういうイメージで準備はしていたんですけど、アイルランド代表のチェイスが速く、面(防御網)も揃っていた。相手のプレッシャーがきついなかでもオプションを持ってプレーできればよかったと思います。あの試合では課題も明確になりました。悔しい部分があるなか、もっとこうしなきゃならないと気付けた部分、変えられる部分があると実感できました。そこは、プラスに捉えて次に活かそうと思いました」

――謙虚で、前向きです。

「いや…そうですね。どうなのかわからないですけど…。でも、できないと思ったらできないと思うので、どうやったらできるかを考える。誰かができてできないということは、ほとんどないと思うので。どうやったらそのテクニックを自分の身体、自分に合ったスタイルのなかで身につけけられるか…。そこについては、チャレンジしていきたいと思います」

 できることを増やす。そのために考える。純度の高い向上心で、日本代表のジャージィを掴んだ。目下取り組んでいるのは、体重の増加。きれを保ったままでの3キロアップを目指している。

 今後は東海大学でのラストシーズンと同時に、卒業後の進路も注目される。

 複数の取材を総合すると、プロ志向の持ち主である野口は、複数の国内強豪クラブからの誘いを受けている模様だ。日本代表と連携を図るサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦)へも、参画が求められそうだ。

――サンウルブズ。いかがですか。

「代表により近づくということと、海外の選手と試合をするということは、自分にとってもプラスになると思います。その場面(海外勢との対戦)が多いほど、そこに慣れられるというか、照準を合わせられる。もっと高いレベルの感覚を味わえたら、自分のなかでそれ以上のものを求めるようにもなっていくと思う。ですので、機会があればチャレンジしたいと思います。もし呼んでいただけたら、頑張りたいなと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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