東京に帰還のイタリア紳士「お互いに良い思い出を共有しましょう」
味スタ、会見場にて
記者会見場に登壇したイタリア紳士は「どうも、お久しぶりです」と切り出して会場の笑いを誘った。昨年までFC東京を率いていたマッシモ・フィッカデンティは、5月13日のJ1リーグ戦で鳥栖の監督として東京・味の素スタジアムへ“帰還”を果たした。
「2年間、私はここで仕事をしました。どういうことをやったかは皆さんが知っていると思いますので、そこは触れませんけれどね。人それぞれ道を選んでいく中で、自分も別の道を選ぶことになりました。この2年間というのは良い結果を出せるところまでいけましたし、多くの選手の成長に携わることもできました」と切り出したフィッカデンティ監督は、「FC東京というチームと自分がよく知っている選手たちの関係、絆というのは残っていると思います」とコメント。その上で「私にとって今日はちょっと特別な日なのですけれど、でもここに座って記者の皆さんを見ていると、むしろ皆さんのほうが硬いように見えますよ」と言って、再び会見場の笑いを誘ってみせた。
ある種の懐かしさと共に
明治安田生命J1リーグ第1ステージ第12節。鳥栖とFC東京の一戦は何とも言いがたい内容でのスコアレスドロー。「凡戦」と形容してもいい流れだったと思うが、懐かしのFC東京に挑んだフィッカデンティ監督は「お互いスペースをつぶし合ってやり合った、バランスの取れた試合だった」と断言する。0-0を「美しい」と捉えるのはイタリア人監督気質だと言うが、こうした感想もまたFC東京のサポーターからすると「懐かしい」と感じられるかもしれない。
その「懐かしい」という思いは選手も同じだったようで、会見を後にしたフィッカデンティ監督がミックスゾーンの脇に現れると、途端に石川直宏、平山相太、森重真人ら選手たちに囲まれた。最後に徳永悠平が遅れて現れると笑いながらおどけてみせていたが、その嬉しそうな表情から彼が持っている「東京で過ごしたとても良い時間」の記憶をうかがうことができた。
「ホントにホントに強い絆というのを彼らと持っていることを感じています。ここに帰ってくるにあたって、私の中には感謝の気持ちしかありません」。結果を残しながら放逐されたなどという恨み節を出さないのは、まさにプロフェッショナル監督の態度と言うべきなのかもしれないが、案外に本音の部分もありそうだ。「自分の人生の一部が東京ガスサッカー部から(FC東京へと)続く大きなくくりの中で『良い歴史』の一つとして残っていくわけです。チームの役員についてもスタッフの方についてもそうです。サッカーの世界というのは別れというのは付いてきますので、お互いに良い思い出を共有すべきだと思っています」と言ったフィッカデンティ監督は「ティフォージ(サポーター)の方もそうでしょう。自分の愛するクラブを応援するのですから、今日の試合で私を応援したりはしないと思います。ただ、FC東京のティフォージが自分に対してどう接してくれていたのかということは一生変わらないものですよね。そこはハッキリと言っておきたいと思います」と、サポーターに向けての思いを静かに伝えた。
鳥栖が「鹿島や磐田のように」なるために
もちろん、フィッカデンティ監督は「ただ、いまは鳥栖でも同じような、いやそれ以上のチームを作ろうとして、その仕事に集中しています」と、現在率いているチームへの思いを表明することを忘れていなかった。
「東京と比べればすごく小さな街に移動したわけですけれど、いままで日本サッカーの歴史の中でも鹿島や磐田が証明したように、あまり大きくない街であっても、しっかりとプログラムを立ててやるべきことをやっていけば、歴史を作れるんです」と歴史的視点から鳥栖の可能性に触れつつ、「しっかりしたアイディアを持って、我慢するところは我慢して、時間を掛けて作っていければ鳥栖で良いチームを作れると思っています。簡単ではないと思いますが、一日一日必ずそういう方向に行けるようにやっていきたいと思います」と結んで、懐かしの東京、懐かしのスタジアムを後にした。