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注目! グーグルがソチ五輪に合わせてLGBTキャンペーン

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 今日のグーグル画面に注目

今朝起きて、パソコンを起ち上げ、グーグルのページを開いた人は画面に「あれ?」と気がつかれたと思う。

グーグルのロゴは、六色のオリンピック競技者のカタチをとり、レインボー・カラーに彩られていた。

そして画期的なのは、このメッセージ。

「スポーツを行うことは人権の一つである。すべての個人はいかなる種類の差別もなく、オリンピック精神によりスポーツを行う機会を与えられなければならず、それには、友情、連帯そしてフェアプレーの精神に基づく相互理解が求められる。」 ~オリンピック憲章より

出典:Google

スポーツを行うにあたっては、差別なく、人権が保障されること、そんなメッセージをグーグルは世界に向けて発表したのだ。

朝から少し感動してしまった。

さて、グーグルの真意はどこにあるのか。

それは、ソチ五輪に向けて同性愛者の人権を抑圧するロシア政府の政策に反対する姿勢を鮮明にし、オリンピックに出場する同性愛者の選手たちを励まそうというものである。

レインボーカラーは、LGBTの権利の象徴(ちなみに、Lはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシャル、Tはトランスジェンダーです)。

ロシアでは昨年、未成年者の間で同性愛に関する宣伝をすることを禁止し刑罰に処す、という法律を制定、国際的な批判を受けている。

ロシアでは、ゲイの人々は差別と暴力にさらされているのだ。

BBC電子版によると、BBCのインタビューに対しソチの市長は

「(ソチがある)カフカス地域ではそんなこと(同性愛を公言すること)は許されない。それにソチにはゲイはいない」

出典:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140127-00000026-asahi-int

と答えたという。

ソチにゲイはいない? こんな市長では、カミングアウトは不可能であり、いかに同性愛者が抑圧されているのかがわかる。

■ LGBTの権利擁護に国際的企業も動き出す。

世界には、同性愛そのものに過酷な罰を処す国も少なくないが、ちょうど五輪を迎えたロシアの実態は見過ごすことが出来ず、一躍、LGBTの権利の象徴的なムーブメントとなった。

LGBTの権利は、欧米諸国の有力な後押しを得て、国際的にも大変影響力のある人権キャンペーンとなりつつある。国連も近年、LGBTに対する差別に反対する決議を採択するようになっている。

こうしたなか、ロシアの同性愛差別に対する批判が国際的に高まり、主要欧米諸国の首脳は開会式出席を見合わさざるを得なくなった。ムーブメントが世界のリーダーを動かしたのだ。

そしてグーグルのような国際的企業が人権問題で声をあげた、というのはとても新しく画期的である。

企業の社会的責任というと、途上国支援・環境問題の取り組みや寄付などが中心になりがちだが、世界的に深刻な人権問題に対して企業が声をあげることはそんなに多くなかった。

世界的企業が、このようにおしゃれなかたちでメッセージを送り、消費者に働きかけ、意識を喚起し、世界の世論を動かす側に立ってくれたら、とても素晴らしい。

五輪を契機に、その国の人権問題への関心が高まり、国際的なキャンペーンが展開されることが増えてきたが、今回は世界的な企業までそうしたキャンペーンに本格的に参加する時代の本格的到来といえそうだ。

ソチ五輪の大口スポンサーであるAT&Tも明確にロシアにおける同性愛を批判する明確なステートメントを公表した。

ソチの大口スポンサーはAT&T以外に、コカ・コーラ、マクドナルド、オメガ、サムソン、ビザ、そしてパナソニック。

いずれも、五輪にお金を出すだけで、同性愛者への差別と弾圧には批判をせずに沈黙を守るのか、それとも明確なステートメントを公表するのかが問われている。

パナソニックは、ソチ五輪のトップ・スポンサーと自認し、公式サプライヤーにもなっており、どんな態度を示すのか注目したい。

パナソニックのソチ五輪との関連はこちら。

http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/2014/01/jn140124-1/jn140124-1.html

http://www.lapita.jp/2013/05/post-48.html

これからは、人権問題や弱者への差別についてはっきりと意思表示をすることが、企業の社会的責任の重要な役割として位置づけられ、企業のブランディングにとっても重要な時代がくるのではないだろうか。日本企業にも是非考えてほしい。

■ 日本の対応は? 私たちは?

そんななか、日本の対応はどうだろう。欧米の首脳が参加を見合わせる中、日本と中国の首脳が出席し、首脳会談も開催するという。安倍首相は「人権外交」を掲げているが、欧米の人権感覚との隔たりはやはり大きい。果たして首脳会談で、LGBTの人権問題について何か言及するのか、見ておきたい。

日本におけるLGBTの権利はどうだろう。

日本には、反同性愛法などは存在せず、同性愛者への法律上の差別や弾圧はそれほど多くないかもしれない。

しかしながら、LGBTの人々がカミングアウトできない人々の無理解と、意識の上での差別・偏見・無理解、そしてLGBTの人々の実情に配慮しない無関心など、問題は多い。日本において多様なセクシュアリティはまだまだ受け入れられていないのだ。

同性婚などの議論もまだまだ、法整備は遅れている。

さて、私たちヒューマンライツ・ナウも、2月12日に「Love and Human Rights 愛は国境を越えて」と題して、LGBTと女性の権利に関するパーティーを開催する。

http://hrn.or.jp/activity/event/post-250/index.php

愛を理由に差別されたり、愛という名のもとに暴力や人権侵害を受けないように、と言うことがテーマである。

このパーティーには、社会貢献に積極的に取り組む企業Lush Japanの方を御招きして、

「愛でつながろう~ ロシアの反同性愛法に反対します」キャンペーンと、誰にでもできるアクションについてご紹介していただく予定だ。

http://www.lushjapan.com/contents/believeinlove/

みんなに呼び掛けていただくアクションは、LGBT(性的少数者)のシンボルである「ピンクトライアングル」を、twitterやfacebookでシェアして、「反同性愛法反対」の意思表示をし、いろんなかたちの愛をサポートしよう、というものである。

誰でもできるアクションに参加すること、そんなところから日本の中でも、私たちの「愛」に対するステレオタイプな意識を変えていけるといいと思う。是非参加していただけると嬉しい。

■ 東京オリンピックでも問われる人権

ところで、ソチ五輪にこのようなアクティブな人権キャンペーンが展開されている現在の事態、私たちはよく見ておく必要がある。

オリンピックでは、しばしばホスト国が世界的スタンダードでの人権が実現しているのか、が問われ、世界の人権団体による活発なキャンペーンが展開され、それがオリンピックを取り巻く世論やカラーを変える役割を果たしてきた。

女性差別、LGBTの権利にとどまらず、ヘイトスピーチ、人権にかかわる歴史認識等、日本・東京の人権を取り巻く状況は、益々懸念される状況が広がっている。そんな事態がさらに進まないように、と願わずにはいられない。

東京でのオリンピックでは、諸外国の首脳が開会式出席を見合わせたり、スポンサーから批判声明が出されるような残念な事態にならないで、一点の曇りもなく世界から歓迎されて、オリンピックを開催できると嬉しい。

そのための課題はとても多いが、是非がんばっていきましょう。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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