amadanaが総合クリエイティブ商社へ 元パルコ柴田氏、鷹の爪・TGCのDLE椎木社長が経営参画
スタイリッシュなエレクトロニクスブランドを手がけるamadana(アマダナ:東京都渋谷区、熊本浩志社長)がグループを再編する。オシャレ家電メーカーのイメージが強いが、2014年には中国家電大手のハイアールグループで日本と東南アジアを統括するハイアールアジアインターナショナルと業務提携し、熊本社長がチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)に就任してヒット商品を生み出した。2017年からはビックカメラのプライベートブランド(PB=自主企画)のデザイン監修を務め、タグにだけブランド名を入れ本体はアノニマス性(匿名性、無名性)を追求した製品群を提供し話題を呼ぶなど、コンサルティング事業でも手腕を発揮してきた。今回の再編で、コンセプトメイクからパートナリング、施策の実行まで、事業そのものをデザインし、モノにとどまらずコトをプロデュースするための体制を強化する。地方創生にも乗り出す。目指すは「総合クリエイティブ商社」(熊本社長)だ。
グループのクリエイティビティを向上させるために、パルコや三越伊勢丹ホールディングスで要職を務め、独立して今春Long Distance Love合同会社を設立した柴田廣次氏をCCOに抜擢。ソニー出身で「秘密結社 鷹の爪」を仕掛けたり、東京ガールズコレクション(TGC)を買収するなど、知的財産権(IP)ビジネスを手掛けるディー・エル・イー(DLE)の椎木隆太社長がCGO(チーフ・グロース・オフィサー)に就任。共に執行役員に就く。
アマダナ総研を設立、地方創生やライフスタイル領域でソリューションを提供
DLEとは今年2月に資本業務提携し、DLEがamadanaの実施する第三者割当増資を引き受けることを決定。3月には合弁会社としてアマダナ総合研究所を設立(資本金3000万円、DLE70%、amadana30%)。代表取締役社長に熊本amadana社長、代表取締役会長に椎木DLE社長が就くなど、再編の準備を進めてきた。
熊本社長は今回のグループ再編について、「人々の価値観が変わる中で、業界も業種も国境も、川上もメーカーも小売りも壁がなくなる中で、スタートトゥデイの『ZOZO(ゾゾ)』やアマゾンの『キンドル』『アマゾンエコー』など、多くの人々がモノづくりに参入してきている。また、メーカーはより顧客接点を持つ方向に向かうだろう。タテも横も垣根がなくなる中で、僕らの価値がどこにあるのかを改めて考えた。『一緒に企業の課題解決をしてほしい』と言われることが増えたり、家電やモノを作るだけでなく、住宅やホテルや自動車まで手掛けるなど事業領域が広がる中で、モノづくりは海外にシフトし、日本ではコトの部分に集中してビジネスを行っていこうと考えた。グループ全体のクリエイティビティを高めるために柴田氏をCCOに、成長を促進するために椎木氏をCGOに起用した」と説明する。
今回のグループ再編で、本体のamadanaの傘下に置くのは3社になる。一つが前述したアマダナ総合研究所だ。「amadana」ブランドをIP(インテレクチュアル・プロパティ= 知的財産)として活用した、統合的な企画・デザインにより、ライフスタイル領域と地方創生領域を中心にソリューションを提供していく。地方の特産品のパッケージデザインやネーミングを含めたブランディングや、古民家のリノベーションなどを通じて、街全体のブランディングにも貢献したい考え。
キーファクターの一つになりそうなのが、音楽だ。2015年にユニバーサルミュージックとともに「Amadana Music(アマダナ ミュージック)」ブランドを立ち上げ、アナログレコードプレイヤーなどを発売してきた。今後は、ホテルの開発や、新しい集いの場や地方創生にも欠かせないナイトライフ向けのエンターテインメント・コンテンツなど、音楽を切り口にした仕掛けも投入していく。
二つ目は、「amadana」の海外事業部門と製造部門を管轄するamadanaインターナショナルだ。2002年にリアル・フリートとして創業し、2003年にスタートし、2014年からは社名にも採用した「amadana」は、デザイン家電を中心としたモノづくりのメーカー・ブランドのとして知られてきた。2008年にスマートフォンをドコモとNECと協業で発売したところ、大ヒット。異業種から声が掛かることが増え、商材も広がりを見せた。その後、スマホが行き渡り競合も増える中で、ハードそのものよりもアプリやコンテンツなどソフトが重要な時代になってきた。そこでコトに注力する一方で、メーカー機能については、モノづくりの拠点であるアジアに移転。香港に本社を、深センにオフィスを置き、海外におけるクリエイティブ業務の受託や、電気製品の企画・デザイン・販売などを行っていく。
三つ目が、コンサルティング事業や共創プロジェクトなどを担う、広義のデザインファームamidus(アミダス)だ。2015年に創業し、大和ハウスグループのデザインアークが30%を出資していた。今年に入り、三菱UFJフィナンシャルグループのシンクタンク、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと戦略的パートナーシップを締結。今後は最適なビジネスプロセスの提案やクライアントの事業開発の支援により力を入れていく。グループ再編にあたり、業務の効率化や相互補完の観点から、amadanaの100%子会社化にする予定だ。
「クリエイティブ休暇」制度で「休み方改革」、良いアウトプットのためのインプットを促進、実質的に20%の昇給に
実はamadanaは、「働き方改革」ならぬ、「休み方改革」でも先進的な取り組みをしている。4月から「クリエイティブ休暇」制度として、実質週休3日制を試験導入。「良いアウトプットのためのインプットデーとして活用してもらうのが狙いだ。知的労働をし、右脳と左脳をつなげて成果物として世に出すための『休み方改革』であり、より良い生き方を創造してもらうことを願っている」と熊本社長。
ちなみに熊本社長は、社会人軟式野球クラブチーム「東京バンバータ」の代表兼監督を務め、高松宮杯で優勝したり、その他大会でも全国制覇をするなど、仕事と同じくらい本気で野球に取り組んでいる。オンもオフもなく、仕事と人生を全力で楽しむ。アマゾンのジェフ・ベゾス社長が提唱する前から、「ワーク・ライフ・ハーモニー」「公私混同」を実践している人物でもある。
「クリエイティブ休暇」には、「好きなものばかりをインプットするのではなく、今まで踏み込めなかったことに挑戦したり、つながっていなかった人とつながるなど、『価値観のバイリンガル化』を図ってほしい」との想いも込めている。週5日勤務が週4日勤務になれば、勤労の対価としては実質的に20%の昇給と見ることもできる。インプット・アウトプットの好循環や、ワーク・ライフ・ハーモニーが、業績にどう反映されるのか、成果を注視したい。
「“好き”の周波数でつながった経済力こそ最強」説を唱える
これらは、「価値観や好きなものでのつながり」がこれからの時代のカギになるという確信から生まれた施策であるといえる。「CCOに就任する柴田さんとの出会いは、23年前になる。2人とも音楽が好きで、僕が名古屋商科大学時代にDJをしていたときに、名古屋パルコの課長として赴任してきた柴田さんと音楽の場を通じて知り合った。今の時代、機能ではなく、価値観や好きなものでつながった経済力のほうが、資本力よりも強い気がする。『同じ周波数でつながっている人とのつながりこそが最強』という時代ではないか。そして、同じ周波数の人々を有機的につなげる能力がますます重要になってくる。椎木さんや柴田さんともそういうふうに引き寄せられ、集まってきた。これからもチューニングをあわせながら、バックグラウンドの違うリソースを持った会社を作り、有機的に増殖させていきたい」と意気込む。
地方創生やホテル事業などでは、まさに、リアルに“好き”でつながるコミュニティや、価値観や周波数が合う人々が集まる場所をつくることが、継続し発展するための物心両面での拠り所になる。グッド・ミュージック(良い音楽)はその求心力の一つになりそうだ。