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【保湿剤とステロイド剤の塗る順番と間隔】アトピー性皮膚炎の正しいスキンケア方法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【保湿剤とステロイド剤の適切な塗布順と間隔】

アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド剤や非ステロイド系外用剤(ステロイドを含まない塗り薬)、保湿剤が使われます。しかし、これらをどのような順番で、どのくらいの間隔をあけて塗るべきかについては、明確なガイドラインがありません。

実は、塗布する順番によって薬の吸収や効果、分布が変わってきます。特にアトピー性皮膚炎の患者さんは、皮膚のバリア機能(外からの刺激から身を守る働き)が低下しているため、薬が全身に吸収されやすくなっています。また、子供は体表面積に対する体重の割合が高いため、もともと全身吸収率が高くなります。そのため、小児皮膚科では塗布順の重要性がより高まります。

ステロイド剤は、産毛の向きに沿って塗ることが大切です。これにより、毛穴にクリームや軟膏がたまるのを防ぐことができます。毛穴に薬剤がたまってしまうと、そこに細菌が繁殖し、肌トラブルの原因になることがあるからです。

適量を塗布し、皮膚がツヤツヤに見える程度が目安です。大人の人差し指の先端から第一関節までの長さ分を1 finger tip unit (FTU) と呼び、これが両手のひらの大きさの範囲に薄く塗る量とされています。

【塗布順や間隔に関する様々な見解】

塗布順や間隔については、様々な意見があります。保湿剤を先に塗るべきだという意見もあれば、ステロイド剤を先に塗るべきだという意見もあります。また、2つの塗布の間隔については、10分から60分までの幅があります。

ステロイド剤と保湿剤のどちらを先に塗るかは、それぞれの剤型(クリーム、軟膏、ローションなど)の特性によっても変わってきます。例えば、ステロイド剤が油性成分を多く含む場合、水性成分を多く含む保湿剤では溶けにくくなります。逆に、保湿剤が油性成分を多く含む場合は、油性成分を多く含むステロイド剤を溶かしやすくなるのです。

アトピー性皮膚炎の患者さんは、皮膚のバリア機能が低下しているため、薬の浸透性が約2倍になることが知られています。そのため、ステロイド剤の使用には注意が必要です。一方で、保湿剤を使うことで皮膚のバリア機能を回復させ、水分の蒸発を防ぐことができます。保湿剤は角質層からステロイド剤を放出し、より深部への浸透を助ける働きもあります。

現状では、ステロイド剤を先に塗布するという意見が多数を占めているようです。ただし、皮膚の乾燥を防ぐために保湿剤を先に塗ることで、ステロイド剤の塗りすぎを防げるというメリットもあります。塗布の間隔については、外用の手間を考えると、特に気にしなくても良いのではないかと個人的には考えています。最終的には、主治医と相談しながら、自分に合った方法を見つけることが大切です。

【皮膚の特性に合わせた使い分けが重要】

年齢によって皮膚の特性が異なるため、それに合わせた使い分けが大切です。例えば、2歳未満の乳幼児は表皮(皮膚の最も外側の層)が薄く、水分量が多いため、保湿剤の必要性が高まります。一方で、薬の必要量は少なくて済みます。乳幼児の皮膚は、大人に比べてpH(酸性度)が高く、細胞の新陳代謝が活発であるという特徴もあります。

高齢者の場合は、表皮が薄くなり、血管が減少するため、低力価(効き目が弱い)の薬剤が好まれます。また、手間がかかるため、ステロイド剤と保湿剤が予め混ぜ合わされた製剤を処方することもあります。ただし、高齢者に強力なステロイド剤を長期的に使用すると、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まることが知られています。

アトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚疾患の治療では、保湿剤とステロイド剤の適切な使い方が欠かせません。塗布順や間隔、年齢に応じた使い分けについて、主治医とよく相談しながら、自分に合ったスキンケアを見つけていくことが大切です。

参考文献:

・Voegeli D (2017) Topical steroids and emollients in atopic eczema—which should be applied first? Pract Nurs 28(1):14–20. https://doi.org/10.12968/pnur.2017.28.1.14

・Surber C, Robertis J, Reinau D (2022) Topical corticosteroid or emollient product: which to apply first? J Eur Acad Dermatol Venereol. https://doi.org/10.1111/jdv.18797

・Oranges T, Dini V, Romanelli M (2015) Skin physiology of the neonate and infant: clinical implications. Adv Wound Care 4(10):587–595. https://doi.org/10.1089/wound.2015.0642

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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