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【最新研究】AIを活用したアトピー性皮膚炎の個別化治療の可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【AIが切り拓く、アトピー性皮膚炎の個別化治療の未来】

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下と免疫系の異常が複雑に絡み合う慢性炎症性皮膚疾患です。近年、病態の理解が進み、様々な病型・表現型が存在することが明らかになってきました。しかし、臨床の現場では未だに画一的な治療アプローチが主流で、個々の患者さんに最適な治療法を選択するには至っていないのが現状です。

こうした中、人工知能(AI)を活用して、アトピー性皮膚炎の個別化治療を推進しようとする試みが注目を集めています。Ashizakiらの研究では、dupilumab(デュピルマブ)治療を受けた患者さんを、顔面紅斑の重症度と経過に基づいて3つのグループに分類しました。さらに、治療前のデータをもとにAIモデルを構築したところ、早期寛解群と遷延性紅斑群を高い精度で予測できることが示されました。

【顔面紅斑に悩む患者さんに朗報!AIが予測する治療効果と副作用リスク】

デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の炎症の中心的な役割を担うTh2型免疫応答を抑制する生物学的製剤です。多くの患者さんに有効ですが、一部で顔面紅斑の遷延化が問題となっています。この副作用は、デュピルマブによるTh2型サイトカインの抑制により、Th22型免疫応答が相対的に亢進することが原因と考えられています。

Ashizakiらの研究は、治療前のデータからAIモデルを用いて、デュピルマブ治療後の顔面紅斑の経過を予測できる可能性を示しました。この知見は、治療法の選択において患者さんと医療者が適切な意思決定を行う上で、大いに役立つものと期待されます。例えば、遷延性の顔面紅斑を懸念する患者さんは、AIによる予測結果を参考に、他の治療オプションを検討することができるでしょう。

【医療ビッグデータとAIの融合が拓く、テーラーメイド治療の可能性】

AIは膨大な量の複雑なデータを解析し、臨床的に意義のある患者サブグループを同定する能力を秘めています。Ashizakiらの研究はまだ小規模ですが、AIの可能性を示す好例と言えます。今後、より大規模な医療ビッグデータを活用し、AIモデルを継続的に改良していくことで、アトピー性皮膚炎の様々な病型・表現型に対する個別化治療の実現が期待されます。

AIを上手く活用することで、その夢に一歩近づけるかもしれません。テーラーメイド医療の実現に向けて、AIの進歩から目が離せません。

参考文献:

Duarte B. Leveraging artificial intelligence to pursue treatment personalization in atopic dermatitis. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2024;38:2207–2208. https://doi.org/10.1111/jdv.20361

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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