マイナス109.4℃ 28号は観測史上もっとも「冷たい」台風
俳人正岡子規は、鋭い観察眼と表現力で、四季の雲を次のように表しました。
「春雲はわたの如く、夏雲は岩の如く、秋雲は砂の如く、冬雲は鉛の如く」
冬のこの時期、日本海側の空に現れる、背の低い、どす黒い雪雲は、鉛のような重たい印象を受けます。
背の高い夏の雲
反対に、夏の雲は空高く延びています。子規が表現した、雲のてっぺんが岩のように、ぼこぼこした雲もあれば、それより空高く成長して、雲頂がまっ平らに広がっている雲もあります。
こうした背の高い雲の集合体が台風で、その雲の高さは16キロメートルを超えることもあるのです。
一般に、空高いところにある雲ほど温度が低くなります。つまり雲の中では、てっぺんが基本的には一番冷たいわけですが、とりわけ台風の雲頂は、温度が低くなっています。雲頂高度が高いほど温度は低くなり、大雨のポテンシャルも高まります。
史上もっとも”冷たい”台風
この度、台風の雲頂温度の最低気温の記録が更新された可能性が出ています。
アメリカ気象会社ウェザーアンダーグラウンドの記事によると、台風28号の雲頂温度が30日(土)にマイナス109.4℃になっていたことが、衛星画像の解析で分かったそうです。この温度というのは、これまでに発生したどの台風、ハリケーン、サイクロンのそれよりも低い可能性があると、グアム大学のマーク・ランダ―氏が指摘しています。
今までの記録とされているのは、1990年にオーストラリア沖で発生したサイクロン・ヒルダで、このときの雲頂はマイナス102.2℃まで気温が下がりました。
世界の観測史上もっとも強い熱帯性の嵐として記録されている2015年のハリケーン・パトリシアでも、雲頂温度はマイナス90℃台でしたので、28号の記録がどれだけすごいのかがわかります。
台風28号とは…
この記録を作った台風28号とは、どのような台風だったのでしょう。
28号は、先月26日にグアムの東の海上で発生しました。2日(月)夜に中心気圧950hPa、最大風速45m/sの「非常に強い」勢力で、フィリピン北部ビコル地方に上陸しました。フィリピンでは、56m/sの突風や、24時間で224ミリの雨が観測されました。倒木、建物の倒壊、洪水などにより、少なくとも17名が死亡したと伝えられています。
このマイナス109.4℃という雲頂温度が観測されたのは、28号が海上に位置していた30日(土)午後のことでした。海上なので、その時の降水量は観測されていませんが、相当な雨量であったことが推測されます。