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王者レアル・マドリーはネイマール擁するパリSGの軍門に下るのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
流血しながらも、プレーを望むクリスティアーノ・ロナウド(写真:ロイター/アフロ)

 欧州王者、レアル・マドリーが極度の不振に陥っている。

 1月25日、スペイン国王杯準々決勝では、レガニェスに本拠地サンティアゴ・ベルナベウで1-2と敗れる失態を演じ、大会から姿を消すことになった。さらに2月4日、ラ・リーガ22節でもレバンテに勝ちきれず、首位バルサとは19ポイント差。連覇はもはや風前の灯火となっている。

 点が取れないし、失点を防げない。

 その苦境の中、UEFAチャンピオンズリーグ三連覇を懸けて対戦するのが、今や強大な存在となったパリ・サンジェルマンだ。

 パリSGはネイマール、エムバペ、ダニ・アウベスらを500億円以上の投資で"爆買い"。ディ・マリアがベンチに座らざるを得ないほどで、とてつもない財力がチームパワーになっている。グループリーグは圧倒的な強さで勝ち抜け、国内リーグは首位を突っ走り、死角はないようにも映る。

 事実、下馬評はパリSG有利だ。

 では、マドリーはパリSGの軍門に下ってしまうのだろうか?

不振の理由

 ジダン監督が率いるマドリーが、調子を落としているのは間違いない。

 その理由は二つ語られている。

 一つは、常勝軍団としての慢心だろう。かつて、CLを連覇したチームはなかったが、その偉業を成し遂げた。昨シーズンはラ・リーガをも制し、すべてを勝ち取った、という気の緩みが出ても不思議ではない。それはほんのわずかなもので、本人も自覚していないはずだが、そのわずかな差で彼らは相手を倒してきたのだ。

 もう一つは、モラタ、ぺぺ、ハメスという主力クラスの放出による戦力ダウンだろう。モラタは終盤の投入で貴重な勝ち点を稼ぎ、ぺぺは守備の安定に大きく貢献していた。ところが、彼らに代わるような有力選手は獲得していない。若手選手とは契約したが、即戦力とは言えなかった。

 盤石の強さは消えた。

 しかし、マドリーは地力のあるチームである。

マドリーは死んでいない

 なにより、マドリーには勝ち続けてきた強さがある。勝ち方を知っている。負けそうな試合で、踏みとどまり、盛り返せる。

 戦力も申し分ない。C・ロナウド、ベンゼマ、モドリッチ、クロース、セルヒオ・ラモス、マルセロ、ケイロル・ナバスらは各ポジションで世界最高を争う。イスコ、アセンシオ、ルーカス・バスケスは切り札になり得る。1レグはカルバハルが出場停止の状況だが、代役ナチョは集団を下支えする勤勉さと機転が利く「最高のチームプレーヤー」で、ネイマール封じを担う。そして、復活したガレス・ベイルのスピードとパワーは決戦を左右しそうな気配がある。

 実は昨シーズンと比較し、マドリーが極端に悪い戦いをしているわけではない。同じようにポゼッションは高いし、シュートも数多く入っている。それが成績に結びついていないのは、キワのところで失点を許し、シュートが入らない、わずかな差にある。

勝負の鍵はC・ロナウド

 やはり、得点力(決定力)の低下が深刻だ。

 まず、やり玉に挙がったのはベンゼマ。ラ・リーガはわずか2得点、戦犯の一人になっている。「モラタのほうが良かった」という意見は多いが、もう一人、フランスのリヨンにレンタルしたマリアーノまでが14得点と活躍しているだけに、物足りないのだ。

 しかし、最も危惧されているのは、C・ロナウドだろう。

 決定率は昨シーズンから70%近くダウン。ラ・リーガにおけるシュート本数は減っていないものの、外しまくっている。急激な身体的な衰えを指摘する人たちも少なくない。

「20才だった頃にできたことで、今はモウできないことがあるのを知っている。しかし俺は野心を失っていない。さらに上達するために、過去ではない、今に集中している」

 そう語るC・ロナウドは劇的なゴールを決められるのか。今シーズンもCLでは最多の9ゴールを記録。やはり、ポルトガル人ストライカーが勝負の鍵を握るのは間違いない。大舞台での役者ぶりは、選ばれし者だけのものだ。

ハインケスの実感

 そもそもスペイン国王杯、ラ・リーガでの不振は、CLでは関係ない。マドリーはパリSGをひれ伏させる力がある。勝者だけが見てきた風景があって、それは際どい戦いになればなるほど有利に働くはずだ。

「マドリーはたしかに不調だろう」

 かつてマドリーを率い、欧州の頂点に立った指揮官、ユップ・ハインケスは語っている。

「モラタ、ぺぺ、ハメスという3人の選手が移籍してしまった。若手に託したが、穴は埋められていない。若手とベテランの融合が必要なのだろう。CLを連覇し、ラ・リーガでも王者になって、空腹を満たしてしまった部分もあるはずだ。しかし、マドリーを軽んじるべきではない。彼らはパリSGよりも、経験がある。ずっとずっとね。おそらく、パリSGを倒すだろう」

 最後のコメントは、元マドリー指揮官としてのリップサービスかも知れない。しかし、それは経験則とも言える。ハインケス時代も、ラ・リーガでは不調で4位に終わっていたのだ。

 もしパリSGに負ければ、ジダン監督は解任され、チーム大改編される可能性が高い。常勝軍団は"手負い"で力を発揮する。

「我々は同じ船に乗っている。全員がまだまだできる、ということを弁えている。すべてはピッチでどう生きるか、で決まる」

 決戦に向けた"船長"ジダンの言葉である。 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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