アマゾン、コスト削減も倉庫ロボットへの投資は続行 AIで商品を瞬時に認識、仕分け
米アマゾン・ドット・コムは創業以来最大規模のレイオフ(一時解雇)に踏み切り、コスト削減を図っている。だが、重点分野への投資は今後も変わらず続けるようだ。同社が特に力を入れているのが、物流施設の自動化を支えるロボット技術だ。
米東部の開発・製造拠点で最新ロボットアーム披露
米アマゾンは2022年11月、世界18の国・地域から報道陣を招き、米東部マサチューセッツ州ボストン市郊外のロボット開発・製造拠点を公開した。この日、初めて公開したのは、物流施設で商品の仕分けを行う最新のロボットアーム「Sparrow(スパロー)」だ。
AI(人工知能)を活用し、異なる商品の形や色などを瞬時に認識。アームの先端で吸い上げて、仕分け用の箱の中にそっと置く。それが終わると再び大きなうなり音を立てて元の商品箱の位置に素早く旋回。別の商品を吸い上げて、今度は別の仕分け箱に入れる。
米ウォール・ストリート・ジャーナルによると商品は、プラスチック製の円筒形ボトルやDVDのケースなどさまざま。ロボットはこれらを個別に認識している。
アマゾンはこれまで倉庫業務の自動化を進めるため、商品をこん包した段ボール箱などを、荷かごに仕分ける「Robin(ロビン)」や「Cardinal(カーディナル)」といったロボットを開発、導入してきた。だが、こん包箱ではなく、商品そのものを認識して仕分けるロボットはこれまでになかった。
アマゾンによれば、最新のロボットアームであるSparrowは、同社総在庫の約65%に相当する数百万点の商品を取り扱うことができる。アマゾンのグローバルロボティクス&テクノロジー担当副社長のジョセフ・クインリバン氏は、「Sparrowはテクノロジーへの挑戦とテクノロジー開発における大きな飛躍だ」と述べた。
物流の自動化進める2つの理由
アマゾンは12年に倉庫向け搬送ロボットを手がける米キバ・システムズを7億7500万ドル(当時の為替レートで約650億円)で買収し、物流業務の自動化に力を入れ始めた。21年には前述したロボット開発・製造拠点(延べ面積約3万2500平方メートル)を開設。また、22年9月には物流施設内ロボットシステムなどを開発するベルギーのクロースターマンズを買収すると明らかにした。
同社がこうして物流の自動化を進めるのには、2つの理由がある。1つはコスト削減だ。特に今回披露した商品仕分けロボットのSparrowは、大幅な人件費低減につながる技術だとみられている。
ウォール・ストリート・ジャーナルは専門家の話として、商品のピッキング作業にかかる人件費は、倉庫の全人件費の約半分を占めると報じている。米国の市場調査会社インタラクト・アナリシスのアナリストは「商品ピッキングのロボットアームを使用できるようになれば、倉庫の自動化に大きなブレークスルーがもたらされる」と述べている。
もう1つの理由は、労働環境の改善だ。アマゾンのような企業の倉庫で働く従業員は、反復ストレス障害や筋骨格障害を発症するリスクがあると指摘されている。そのためアマゾンでは、労働災害低減のための安全プログラムを導入し作業スケジュールを管理している。
アマゾンのクインリバン副社長は、「Sparrowは安全手順の次のステップとなることを目的としている」とし、「私たちが直面している反復動作の課題において、物流ネットワークを変革させる一助となる」と説明した。
コスト削減の対象外
アマゾンはコスト削減の一環として全社的に事業規模を縮小している。だが、ウォール・ストリート・ジャーナルは、「Sparrowのような最先端ロボットは、アマゾンで拡大が続く事業の1つのようだ」と報じている。
また、Sparrowが将来、倉庫従業員に取って代わることはないとクインリバン副社長は話している。「むしろ、ロボットを管理・操作するための役割が増える」(同氏)。アマゾンでは今後も多くの最新技術を導入していく。最近は、そのための新たな職種を700種以上追加したと同氏は説明している。
- (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年11月22日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)