もうすぐドラフト・その8[社会人編]……近藤均
史上3人目の男になった。
王子・近藤均。今年の都市対抗初戦で、直球主体にカーブとカットボールが冴えてセガサミーを4安打10三振、1対0で完封すると、Hondaとの2回戦は6安打されたが、
「捕手からの返球を早くし、テンポよく投げれば打者も打ちにくい」
と、4併殺に切って取った。日本生命との準決勝も、緊迫の投手戦は0対0のまま延長戦にもつれ込んだ。その時点で、27回連続無失点。過去85回の長い都市対抗の歴史のなかで、3試合連続完封は2人しかいない。つまり近藤のゼロ行進は、実質、それに並ぶというわけだ。
「ジンクスを、破りたいんです」
この大会期間中に、そう話しかけられた。社会人野球雑誌の、春季キャンプ取材。各チームの注目選手として、王子では近藤をとりあげた。「だけどウチでは、あそこに載った選手は例年、結果がよくないんです」(近藤)。破りたいジンクスとは、そのことだ。
福知山成美高から関西大を経て入社したが1、2年目と思うような投球ができなかった。昨年の都市対抗予選で敗れ、代表を逃すと、「このままでは登板機会はない」と、厳しく奮起を促された。最速147キロという力任せで、メリハリがなかったからだ。だが、先輩の助言で力を抜くコツを覚えると、そこからは急カーブで洗練されていく。
「がむしゃらに全力で投げるより、リリースだけに力を入れる。そのほうがむしろタマにキレが出て、打者が詰まってくれるんです」
もっと早く気づけよ、と本人は自嘲するが、それからは日本選手権最終予選でJR東海を完封するなど、目に見えて結果が出始めた。カーブとカットボールでカウントを稼ぐかと思えば、ズバッと強気にインコース。すっかり、ピッチングのツボをつかんだようだった。
チーム内ジンクスを破れ!
そして今季は、「ダメだったら引退する」くらいの覚悟で、稲場勇樹監督に背番号19を背負うことを直訴。13年に阪神入りしたエース・山本翔也の番号で、そのまま空き番になっていたものだ。すると決意のほどを示すかのように、トレーニングを上乗せした近藤の体は一回り大きくなり、2次予選では4試合で3完投。うち2試合が完封で、そして「試合前、吐き気がしたほど」の重圧の都市対抗本番も連続無失点……。日本生命との準決勝10回も、ゼロに抑えた。だが、11回裏。一死三塁から決勝打を浴び、29イニング目に"1"が入る。ゼロ行進が途切れ、近藤の涙とともに、王子の都市対抗も終わった。
イニングの頭の近藤は、しゃがみながらプレートをさわり、頭上を見やり、抑えることを誓う。関大時代に肩を痛めてくじけていたとき、中学時代の友人が励ましてくれた。だからこそ、野球を続けられたという思いがある。若くして病魔に倒れ、世を去った彼への、「お前の分まで」という誓いだ。涙のあとの、近藤。
「心と技術がかみ合い、本当のエースになれたと思います」
部屋にある彼と2人で撮った写真にも、そう告げたことだろう。ちなみに、3試合連続完封を達成した過去2人は、いずれもプロ入りしている(西村一孔、佐々木吉郎)。すでに近藤が、王子のジンクスを破っていることはいうまでもない。