原作発行部数にみる、実写版『鋼の錬金術師』への期待度
間もなく12月。例年どおり、お正月映画の話題作が続々と公開されるが、日本映画で注目を集めるのが12/1公開の『鋼の錬金術師』である。
原作の知名度がバツグンであり、その初めての実写化ということで、否が応でも期待が高まる。これまでも人気コミックの実写化では、過剰なまでに公開前に話題が沸騰してきた。原作ファンの希望どおりの実写になっているのか? あくまでも原作は原作。原作から離れて実写として新たな傑作が生まれるのか? 期待が高いあまりに、完成した実写版が必要以上に叩かれるケースも多かったし、そうなると原作がつかんだ栄光に傷をつける可能性もある。
人気コミックの実写化は、大ヒットのポテンシャルを秘めながら、危険な賭け、諸刃の刃。では『鋼の錬金術師』(以下、ハガレン)の原作売り上げは、これまでの実写化作品に比べてどうなのだろう。
ハガレンの発行部数総計は約7000万部で、これはコミック歴代の第18位(以下、発行部数は漫画全巻ドットコムを参照)。
上位の作品には、1位の「ワンピース ONE PIECE」(3億6000万部)、2位の「名探偵コナン」(2億部)を筆頭に、「ゴルゴ13」「ドラゴンボール」「こち亀」「ナルト」「ドラえもん」「サザエさん」など錚々たる作品が並ぶ。ハガレンの18位は大したことがないように見えるが、「ジョジョの奇妙な冒険」が9位、「進撃の巨人」が22位なので、近年の実写化作品の中では特筆すべき発行部数なのである。
劇場版の前のドラマ版でヒットを確約
では、こうした大人気コミックを実写化した近年の映画の成績はどうか。これは、かなりバラつきがある。発行部数(歴代順位)→映画の興収(2部作、3部作は+で表記)を比較すると…
ジョジョの奇妙な冒険 1億部(9位)→7〜9億円(最終は未確定)
進撃の巨人 6300万部(22位)→32.5億円(+16.8億円)
るろうに剣心 5800万部(23位)→30.1億円(+52.2億円+43.5億円)
銀魂 ぎんたま 5000万部(29位)→38億円
のだめカンタービレ 3700万部(53位)→41億円(+37.2億円)
20世紀少年 3600万部(54位)→39.5億円(+30.1億円+44.1億円)
デスノート DEATH NOTE 2650万部(69位)→28.5億円(+52億円+22億円)※スピンオフは含まず
ROOKIES ルーキーズ 2000万部(87位)→85.5億円
「ジョジョ」は別にして、全体に30億円のレベルには達している。累計部数が多ければ、ある程度の成功は保証されており、「のだめ」「ルーキーズ」のように、実写映画の前にドラマ版が人気を集めていれば、さらにヒットを見込める。「進撃の巨人」は数字こそまあまあだが、他作に比べて実写化への期待が高かったことと、完成作が賛否両論だったことで、後編の落ち具合が顕著だった。
ハガレンは、実写ドラマの過程を経ていないので、「ジョジョ」や「進撃」のパターンになる危険もはらんでいる。
アクションの映像化、キャスティングの成否
その他、成功と失敗の例を挙げると
成功例:
NANA ナナ 4300万部→40.3億円(+12.3億円)
GANTZ 2000万部→34.5億円(+28.2億円)
暗殺教室 1800万部→27.7億円(+35.1億円)
やや残念例:
宇宙兄弟 1900万部→15.7億円
寄生獣 1300万部→20.2億円(+15億円)
失敗例:
釣りキチ三平 3800万部→興収未発表
テラフォーマーズ 1400万部→7.8億円
実写の向き/不向きに加え、キャストがどれだけ魅力的かも成功のカギとなっていそう。さらに実写化が難しそうな、コミックならではの表現やアクションを、CGを駆使していかに映像にするか。上記の成功/失敗を見ると、その点もひじょうにハードルが高いと感じる。
ハガレンの場合、キャストがどこまでハマっているか、そしてマジック的なレベルのアクションがどこまで実写で興奮させるか。そのあたりで観客をいかに惹きつけるかが、ヒットの要因になるはずである。
とにもかくにも、上記に挙げた例の中で、ハガレンは「ジョジョ」に次ぐ売り上げを誇る作品である。今回の成否は、今後の人気コミックの実写化作品に何らかの影響を与えるのは間違いないだろう。