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フワちゃん騒動に通じるネットの薄い悪意に警鐘。中島健人の『しょせん他人事ですから』が映すリアル

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「しょせん他人事ですから」製作委員会

軽い投稿がもたらした計り知れない代償

 Xでの不適切な投稿が批判を浴びているフワちゃんが、芸能活動休止を発表した。やす子の「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆優勝でーす」とのポストを引用して「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と書き、すぐ削除したものの、スクリーンショットが拡散して大炎上となっていた。

 フワちゃんの釈明によれば、人と話していたときに、やす子の投稿を目にして「これにアンチコメントが付くなら」と書いた画面を、操作を誤ってポストしてしまったとのこと。

 やす子本人にも直接謝罪したそうだが、『オールナイトニッポン0(ZERO)』を降板、「Google Pixel」のCM動画が非公開など、多大なダメージを受けることになった。

 問題の投稿が誤爆であったにせよ、おそらくフワちゃん自身は軽いネタのつもりで、世間の反応を見誤っていたように感じる。しかし、その安易さの代償は計り知れない。

一般人でも加害者になり報いを受けることも

 現代のネット社会では、彼女のような有名人のみならず、一般人でも悪意は薄いまま加害者になり得るし、報いを受けることもある。そんな警鐘をエンタメの中で鳴らしているのが、ドラマ『しょせん他人事ですから』(テレビ東京ほか)だ。

 原作・左藤真通、作画・富士屋カツヒトで、弁護士の清水陽平が監修した累計210万部突破のリーガル漫画をドラマ化。「しょせん他人事」がモットーの変わり者の弁護士・保田理を、Sexy Zoneを卒業した中島健人が演じている。

 法廷で「異議あり!」と言ったりするようなシーンは皆無で、ネットでの炎上や誹謗中傷などSNSトラブルをテーマに、書面の手続きから解決を図る過程をリアルに描く。保田はノリが軽く、相談者を怒らせたりもするが、本音での仕事ぶりには筋が通っている。

 ネット絡みの問題解決に当たり、初めから「金がかかり、時間がかかり、労力がかかる。精神が削られる。賠償額はせいぜい費用とトントン」と、訴える側も辛い現実を率直に伝えていたりもした。

(C)「しょせん他人事ですから」製作委員会
(C)「しょせん他人事ですから」製作委員会

情報開示請求、内容証明から民事裁判へ

 1話では、主婦ブロガーの桐原こずえ(志田未来)がネットで「ホス狂い」「貢ぐために風俗嬢をやっている」などと根も葉もないことを書かれ、コメント欄が炎上。電話番号まで晒されていた。

 依頼を受けた保田が情報開示請求をしたところ、大元の書き込みをしていたのが、同じマンションに住む主婦の木下優里香(足立梨花)だと判明した。内容証明で謝罪と慰謝料を要求し、夫にバレないように済ませようとする木下を相手取って民事裁判を起こした。

 しかし、木下は「私が何をしたって言うのよ。ちょっと書き込んだだけじゃない」と苛立つばかりで、反省は見せない。慰謝料100万円の分割払いと直接謝罪との和解案に応じたものの、「子育てとかストレスがひどくて、桐原さんがブログとかうまくいってるのが悔しくて」などと、涙しながらも自己弁護に終始していた。

慰謝料の不払いに動産執行で家族にもバレて

 さらに分割での慰謝料の支払いも、振り込んだのは最初の2ヵ月だけ。木下は「たかがネットの書き込み。バックレてOKだった」とうそぶいていたが、保田は和解調書の「支払いを一度でも遅滞した場合、期限の利益を失う」との一文に基づき、動産執行に乗り出す。

 裁判所の執行官と共に木下家に出向き、生活必需品を除く財産を強制的に差し押さえ。木下は近所のママ友たちに「逮捕?」などと騒がれ、夫にも隠していたすべてを知られることに。夫が残る慰謝料95万円をATMで下ろし、その場で一括で支払って決着となった。

 ドラマのストーリーとしてはスッキリしたが、事務所のパラリーガルの加賀見灯(白石聖)が「少し木下さんが気の毒に思えてしまいました。あそこまで大事になるんだなって……」と言ったのも、またわかる気がした。

 軽い気持ちでネットに書き込んだことが高くつく。フワちゃんもそうだったが、どこでも実際にありえる話だろう。

虚偽の動画を拡散した全員を特定する依頼

 2話では人気の兄妹アーティスト・ヌーヌーが、中学生時代にいじめをしていたという動画がネットで流れ、「暴力兄妹」「犯罪者は消えろ」などと炎上していた。実際はその動画は本人たちと無関係の別人で、いじめは事実無根。兄のリオ(野村周平)は保田に、「拡散した全員を特定して吊るし上げる」と依頼してきた。

 保田は100アカウントに絞ることを提案。2~3千万円はかかることも告げたうえで、情報開示請求に乗り出した。リオも会見を開いて、戦うことを宣言する。

 何の気なく書き込みをしていた人たちに、動揺が広がる。プロバイダーからの開示に対する意見照会書が職場に届いた1人が、広告代理店の部長の中山健太郎(小出伸也)。娘が熱中しているヌーヌーのいじめとされる動画を目にして、悪影響を与えると、会社のパソコンから、中傷コメントを付けて拡散を繰り返したのだった。

つぶやいた先に大勢の人がいる実感がないままに

 彼は日ごろから、匿名アカウントでセクシー女優へのリプをたびたび送っていた。愉快犯的な青年が、リオの会見を受けて謝罪する人たちなどの投稿をパソコンで眺めていて、そのアカウントにも目を留める。

 写真に写り込んだ名刺や書類を拡大して、名前と会社を特定。「ヌーヌーを誹謗中傷した中山健太郎さん」とのスレッドでネットに晒され、職場にも「クビにしたほうがいい」などといたずら電話が殺到した。

 中山は「俺、そんなに悪いことしたか? ちょっとつぶやいただけだろ……」と立ち尽くすが、娘になじられ妻に蔑まれ、会社を退職することになった。

 保田は言う。

「悪口を世間話でつぶやくのとネットでつぶやくのは大違いだけど、そんな実感、みんなない。ネット上はその先に大勢がいるし、本人だっているかもしれない。なのに、そのことに全然思い至らない。ただのつぶやきと思ってた人間が、どんどん追い詰められていく。それだけの話だよ」

(C)「しょせん他人事ですから」製作委員会
(C)「しょせん他人事ですから」製作委員会

SNSでの問題が相次ぐ中で刺さるもの

 この『しょせん他人事ですから』自体は、原作に合わせ茶髪にした中島健人が爽快な演技を見せて、コミカルな味わいもあり、肩肘張らずに楽しめるドラマだ。その中に、タイトルと裏腹に他人事とも片付けられないリアルさが垣間見える。

 勧善懲悪で言えば“悪”の側の「ちょっと書き込んだだけ」からの悲劇。フワちゃんの騒動や、事情は全然違うが「男性の体臭が苦手」という投稿から所属事務所に契約を解除された女性フリーアナウンサーの件もあり、なおさら刺さる言葉も多い。今クールの連続ドラマの中で、より注目していきたい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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