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松山英樹、無念の棄権。3連覇は夢と化したが、「時間はある!」とR・ファウラーもエール!

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
左手痛が治らず、2日目の朝、数球打って棄権。苦渋の決断だった(写真/舩越園子)

 米アリゾナ州のTPCスコッツデールで開催されているフェニックス・オープンは松山英樹が2016年と2017年に2連覇を遂げた大会である。今年も優勝すれば、ゴルフ界のキングと呼ばれたアーノルド・パーマー(故人)が1961年から1963年に達成して以来、実に55年ぶりの3連覇となる、、、、はずだった。

 だが、松山は2日目の朝、スタートすらできぬまま、途中棄権を決意した。過去4度の出場は4位、2位、優勝、優勝と抜群の相性を誇ってきたコースだが、今年は悔しさを噛み締めながら早々に去っていく結果になった。

【棄権の決意】

 左手首周辺に激しい痛みが走ったのは、初日のラウンド序盤だった。10番からスタートした松山は4ホール目の13番(パー5)のティショットを大きく左に曲げたのだが、その瞬間、左手首周辺に激しい痛みを覚えたという。

 

 それでも、そのホールでバーディーを奪うところはさすがだったが、14番ティに向かう前に飯田トレーナーを呼び寄せ、左手にマッサージを受けた。

初日のラウンド中、何度も飯田トレーナーがマッサージなど治療を施し、松山はなんとか18ホールを2アンダーで終えた(写真/舩越園子)
初日のラウンド中、何度も飯田トレーナーがマッサージなど治療を施し、松山はなんとか18ホールを2アンダーで終えた(写真/舩越園子)

 その後も、しばしば飯田トレーナーが近寄り、治療を受けた。そうやって松山はなんとか18ホールを2アンダーで回り終えたが、ショットへの影響は「あります。痛いです。でも痛くても我慢して打つしかないので」と歯を食い縛ってプレーしていたことを明かしていた。

 2日目のスタートは午後12時2分。その1時間半ほど前の午前10時30分、松山はチームの面々と一緒にコース入りし、まずパット練習、そして練習場へ移動。

 恐る恐る球を打ち始めたが、ほんの数球ですぐにやめ、飯田トレーナーの方を振り返った。再び左手首や左親指の付け根付近をマッサージ。左肩や左腕など周辺にも飯田トレーナーは手を伸ばし、あれこれ治療を試みた。

 そして松山はもう1度、クラブを握り、1、2球だけ打ったが、やはり恐る恐るしか振れず、弱々しい球しか打てなかった。打っては手を止め、考えていた松山の胸の中には、いろんな思いが交錯していたのだろう。なかなか決断できないでいた。だが、時計の針が11時30分を回ったころ、ついにクラブをバッグにしまい、グローブを外して歩き出した。

 棄権を決意したことは、明らかだった。 

【一生ゴルフができない怖さがある】

 今年の予選2日間は、過去2大会のプレーオフで松山に惜敗したリッキー・ファウラー(2016年)、ウエブ・シンプソン(2017年)と同組だった。

ウォーミングアップ中だったウエブ・シンプソンに歩み寄り、棄権することを告げた松山。このあとリッキー・ファウラーにも挨拶。そういうところは、とても律儀だ(写真/舩越園子)
ウォーミングアップ中だったウエブ・シンプソンに歩み寄り、棄権することを告げた松山。このあとリッキー・ファウラーにも挨拶。そういうところは、とても律儀だ(写真/舩越園子)

 

 棄権を決めた松山はウォーミングアップ中だったファウラーとシンプソンを探して棄権の意志を伝え、律儀に挨拶すると、クラブハウス方向へ。必要な手続き等を済ませ、「ディフェンディング・チャンピオン」と記された専用駐車スペースへやってきた。

 

 これまでにも左手首周辺に痛みを感じたことは何度かあった。だが、今回は「違う痛み。初めての痛み。表現できないぐらい痛い。続けても意味がないぐらい痛い」。

 日頃から「痛い」とか「苦しい」といった言葉をあまり口にしない松山だけに、いろんな言葉で痛みを表現する目の前の松山が、どれほど痛みを感じているかが想像された。

「無理してやろうと思ったらできるのかもしれないけど、やってしまったら、たぶん一生、ゴルフができないんじゃないかっていう怖さがある。それぐらい痛いので止めた方が賢明かなと思った。昨日の時点でスイングもおかしくなりかけていたし、今日、何球か打ったけど、もうスイングできないので、影響あると思って、止めた」

【あとあと響いてくる】

 「一生、ゴルフができないんじゃないかという怖さがある」と言った松山の言葉には、現実味が溢れていた。

 米ツアーの周囲を見渡せば、まさに故障で苦しむ選手があっちにもこっちにもいる。

 タイガー・ウッズは先週のファーマーズ・インシュアランス・オープンで1年ぶりに米ツアーに復帰したばかり。これまで膝や腰の故障に何度も何度も悩まされ、手術、リハビリ、戦線離脱、そして復帰を繰り返してきたことは、みなさんもご存じの通りだ。

 そのウッズの最大の好敵手と見られてきたフィル・ミケルソンは、現在47歳だが、持病と化した関節炎は30歳代から悪化。2013年のフェニックス・オープンと全英オープンは、その痛みをこらえながら勝利を挙げたが、以後は優勝から遠ざかっている。

 先週のファーマーズ・インシュアランス・オープンで優勝したジェイソン・デイも長い間、腰痛に悩まされ、大会前週にも激しい痛みが腰から足まで広がってMRI検査を受けたばかり。開幕前日のプロアマ戦は大事を取って棄権した。

「あのときは、もう2度と試合に出られない体になったのかと思ったほどだった」

 幸いにもデイの痛みは収まり、ほぼ2年ぶりに勝利を挙げることができた。だが、かつての世界ナンバー1がここ2年近くも勝てなかった最大の原因は腰痛、つまり故障だった。

 現在の世界ナンバー1、ダスティン・ジョンソンが昨春の無敵の絶好調ぶりにブレーキをかけ、勝利を狙っていたマスターズでスタートすらできずに棄権する結果になったのは、階段から転落し、腰を強打したことが原因。腰の回復後もなかなか勝利を挙げられず、今年1月のセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズで復活優勝を遂げるまでには9か月の歳月を要した。

 そういう実例を米ツアーでつぶさに見ているからこそ、松山は3連覇に挑むことができない悔しさをこらえながらも、冷静に、そして賢明に、棄権という決断を下した。

「プレーしたかった。プレーしてダメなら納得いきますけど、できないのは一番辛い。でも大事を取ってというより、プレーできないところまで行っている。やったところで結果は知れているし、あとあと響いてくるので。それなら、休めばすぐプレーできるところで止めておいたほうがいい」

 それは、苦渋の決断だった。

過去4度、4位、2位、優勝、優勝と相性抜群のコースだが、今年は早々に去っていくことになった(写真/舩越園子)
過去4度、4位、2位、優勝、優勝と相性抜群のコースだが、今年は早々に去っていくことになった(写真/舩越園子)

【時間はある!】

 これから、どうするつもりなのか――。棄権を決めた直後でも、松山は動揺を見せることなく、冷静に先を見据えていた。

 痛みは左手首のあたりに感じているが、その根本原因がどこの何なのかは、松山本人にも飯田トレーナーにも、今はまだわからない。

「まず原因を調べます。僕はいつも痛みが出たときに調べても何も(異常が)出てこないので、検査して意味があるのかどうか。チームで考えて、日本に帰るか、こっちで検査を受けるか判断します」

 当初の予定では、次戦は2月15日からのジェネシス・オープン、1週おいてメキシコ選手権、さらに1週おいてアーノルド・パーマー招待、そしてマスターズと続くはずだった。

「来週(ジェネシス・オープン)から出られれば最高だけど、無理する必要はない。リビエラも迷っているし、メキシコもスキップするかもしれない。ベイヒルぐらいから出られたらな」

 焦りを見せないのは、自身に「焦る必要はないぞ」と無理やり言い聞かせているのか、それとも世界の五指に数えられるトッププレーヤーの余裕と貫禄なのか。

 いや、そんな余裕は誰にもあるはずはない。トッププレーヤーとて苦境に陥ったら、踏みとどまり、這い上がるしかない。今、松山は、そんな状態にある。

 だが、たとえ無理をしているにせよ、棄権直後にも保つことのできたあの冷静さが彼自身を正しい方向へ導いてくれる。

そう信じる以外に、できることはない。

単独首位に立ち、注目を集めたファウラーだが、松山への温かい思いやりをこのあと語ってくれた(写真/舩越園子)
単独首位に立ち、注目を集めたファウラーだが、松山への温かい思いやりをこのあと語ってくれた(写真/舩越園子)

 リッキー・ファウラーは2年前の惜敗後、松山に「またやろうな」と声をかけた。今年もファウラーは好調で、2日目は首位タイ。

「せっかく首位だけど、松山選手はいなくなってしまったことは残念ですか?」と尋ねると、ファウラーはこう言った。

「もちろん、とても残念。でも、時間はある。僕とヒデキが優勝争いするチャンスは、これからまだまだたくさんある」

 ファウラーも「焦る必要はない」と、エールを送っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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