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「薬機法」改正へ SNSやネットなどの誇大広告に課徴金も

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

薬機法に課徴金制度が加わる

電通によると、ネット広告費は2020年で2兆円を超えており、これはテレビ・新聞などの「マスコミ4媒体広告費」に匹敵する金額です(1)。

コロナ禍に入って、ネット広告に活路を見出す企業が誇大な広告をしているのを見かけます。免疫力アップや除菌効果をうたう商品は、明らかな誇大広告にもかかわらず売れ行きを伸ばしています。ここで言う「誇大広告」とは、事実に反する虚偽の表現や誇張した表現によって消費者に誤った認識をさせるおそれのある広告のことを指します。

しかし、このたび「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、薬機法)の一部改正により、2021年8月1日からあらたに課徴金制度が加わることになります(2)(表1)。

これは、虚偽や誇大広告をおこなった企業に対して、該当商品の売上額の4.5%を課徴金とするというものです。これまで、虚偽・誇大広告(薬機法66条)に違反した罰金は、個人・事業者ともに最高200万円でしたが、それが売上額に応じて実質上限が撤廃されることになります。

表1. 改正薬機法の概要(筆者作成)
表1. 改正薬機法の概要(筆者作成)

これに関して、景品表示法とオーバーラップする部分があるのですが、景品表示法で「すいません、知りませんでした」で済んでいた案件も、改正薬機法が適用されると罪に問われることがあるため、「知らない」では済まされなくなります。

薬機法は「すべての人」が対象であるため、個人のアフィリエイターやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のインフルエンサーの投稿も対象になります。企業からPR広告を依頼されて薬機法に違反した投稿をおこなった場合も、罪に問われる可能性がありますが、基本的には商品を販売している業者を対象としているので、あまり怖がらなくてもよいかもしれません。

■一般健康食品の不適切な広告例

  • 「これを飲めば肥満が治ります」
  • 「おなかをキレイにします」
  • 「毎日食べると免疫力がアップします」
  • 「これを塗ると、保湿により細胞が活性化されます」

■化粧品・医薬部外品の不適切な広告例

  • 「皮脂の酸化を防ぎます」
  • 「このシャンプーで髪質が変わります」
  • 「シミ・そばかすが消えます」
  • 「これを使えば、肌が美白になります」

その他、たとえば二酸化塩素による空間除菌も広告としてうたうことはNGです。この成分は薬機法上の消毒薬として認められていないため、法的には「雑品(雑貨)」に該当します。ゆえに、特定の菌やウイルスについての効果を表示することはできません。

もちろん、「自分はこういう使い方をしている」「この商品はこういう部分がよかった」などの投稿は、広告の範疇でなければ問題ありません。

「健康食品」の医薬品的効能効果も規制対象

気を付けないといけないのは、「健康食品」です。健康食品は薬機法上の定義がなく、一般食品と同じ扱いになっています。しかし、広告規制に関しては、たとえばサプリメントについても、医薬品的な効能効果を謳ってしまうと規制の対象となります。薬機法違反で逮捕された上、課徴金の納付まで命じられる可能性もあります。

健康食品には、以下のような分類があります(表2)。特定保健用食品(トクホ)はみなさんご存知のように「悪玉コレステロールの吸収をおさえる」などの効能効果をうたうことが可能です。しかし、一般健康食品についてはそれが認められていません。

表2. 健康食品(筆者作成)
表2. 健康食品(筆者作成)

一般健康食品が医薬品的効果効能をうたってしまうと、薬機法違反になります。たとえば、「疲労回復」「虚弱体質の人に」「体質改善」「血圧が気になる方に」「脂肪燃焼」など、保健機能食品のような効能効果をうたうと明確な違反になります。

テレビでよく放送されている、「この●●を飲んだら、次の日から疲れがウソのように取れました!最高です! ※個人の感想です」も一般健康食品なら、一発NGになります。

ちなみに、化粧品や健康器具についても、健康食品と同じ扱いです。薬機法の規制対象外ではありますが、医薬品と誤認させるような機能表示、効能効果をうたうとアウトです。

法改正に期待

ネット上の健康がかかわるモノ・商品については、玉石混交です。これが大きな変革になればよいのですが、遵法意識が少し高まるだけで、実態はあまり変わらない可能性もあります。

とはいえ、これまでは規制を受けずに黙認されてきた違法行為も、今後は摘発が増えてくるかもしれません。

上手に広告表現を工夫して、トリックアートのように法違反を上手に回避しているケースはまだまだたくさんありますが、法改正により、健康不安につけこんだ悪徳商品が駆逐されることを医師として願っています。

(参考)

(1) 株式会社電通. 2020年 日本の広告費. (URL:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0225-010340.html

(2) 課徴金制度の導入について(URL: https://www.mhlw.go.jp/content/000609186.pdf)

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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