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異例の「BTSホワイトハウス招待」で考える、ファンを導くアーティストの力。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(写真:REX/アフロ)

5月31日にホワイトハウスで実施されたBTSによる記者会見や、バイデン大統領との写真は、世界中で大きな話題になりました。

日本人の視点からすると、総理大臣をオリンピックメダリストが表敬訪問するような良くある光景の1つに見えたかもしれませんが、実はホワイトハウスのオーバルオフィスと呼ばれる大統領執務室は、基本的に外交官や政府要人しか入れない場所。

海外の、しかもアジア系のアーティストが招かれるのは異例中の異例と呼べる出来事だそうです。

参考:異例だった「BTSホワイトハウス訪問」の深い意味

もちろん、穿った見方をすれば、11月にひかえた米国中間選挙にむけたバイデン大統領の人気取りという見方もできますし、ひょっとしたらバイデン大統領の孫がBTSのファンで、孫のためのサービスではないかという想像をする方も少なくないはずです。

ただ、今回BTSが異例中の異例とも言えるホワイトハウスからの招待を受けることになったのは、BTSが単なる人気アーティストではなく、ファンと一緒に社会を良くしようとしている新世代のアーティストというのが最大の背景のようです。

積極的な社会問題への声明

従来、日本のアーティストやタレントにおいては、政治的な話題や社会的な問題にはあまり言及しないのが普通というイメージを持っている方が多いでしょう。

ただ、BTSは積極的に社会問題に対してメッセージを出してきたことで有名なグループです。例えば、昨年アメリカで起きたアジア系の人々へのヘイトクライムには、ツイッター上で声明文を出したことが大きくメディアでも取り上げられました。

参考:BTSがアジア系へのヘイトクライムに抗議の声明「共に立ち上がります」

また、2020年に米国でブラックライブズマター運動(BLM運動)が注目された際には、所属事務所とともに100万ドルを寄付。

その後のインタビューで「僕たちは、いつだってより良い世の中にするためにできることをやりたい、それが韓国でもほかの場所でも。」と、グループのスタンスも明確にされているのです。

参考:BTS、BLM運動に約1億円を寄付した理由を語る「偏見は許容されるべきではない」

BTSには、こうした社会活動家としての面もあることが今回のホワイトハウス招待につながったのは間違いないでしょう。

写真:ロイター/アフロ

だからこそBTSも、普段はカラフルに染めている自分達の髪の色を全員黒く染めて、アーティストとしての一面を封印してまでホワイトハウスの会見に臨んだものと思われます。

ファンであるARMYを寄付活動に導く

もちろん、こうした社会的な問題に対して意見を表明したり、寄付を行うことを実施しているアーティストやタレントは、世界的にも増えているのは間違いありません。

ただ、BTSが明確に抜きんでているのは、こうした自分達の「良い世の中にするためにできることをやる」というスタンスを明確にファンであるARMYにも伝え続け、ARMYの方々もBTSの思いを汲んで世界を良くするための活動を実際に行っている点でしょう。

象徴的なのは、前述のBLM運動にBTSが100万ドルの寄付を行った際に、ARMYが声を掛け合って同額の寄付金を集めたケースでしょう。

参考:BTSのBlack Lives Matterへ1億円寄付を受けて、ファンも同額の寄付金を集める

こうした100万ドルの寄付活動が、ARMYから自発的に出てくるという話には、驚かれる方も少なくないはずですが、これも日頃からBTSがARMYに対して自分達の思いを伝え続けているからだそうです。

今回の会見でも、メンバーがARMYへの感謝を口にしているのが非常に印象的でした。

写真:REX/アフロ

例えば、BTSは自分達の誕生日にARMYに対して、自分達へプレゼントを贈るのではなく、そのエネルギーを社会に良いことに使ってほしいと伝えているというのが象徴的な逸話と言えます。

実際に、メンバーの一人のVの昨年の誕生日には、ARMYによる寄付活動が大規模に展開され、中国のファンクラブはVの本名を冠した「テヒョン希望小学校」の設立をはじめ、歴代最大規模の社会貢献プロジェクトを展開。

韓国のファンクラブはNGO「セーブ・ザ・チルドレン」と連携し、低所得家庭の子どもたち向けのキャンペーンを展開したとのこと。

参考:BTS・Vファンが発揮する好影響、“推しの誕生日”の寄付活動でファンダム文化を先導

実は、BTSは日々の発言を通じて、ARMYの中に寄付文化を醸成することに成功しているわけです。

1年に1日だけではない寄付文化

日本では、まだまだアーティストやタレントが、政治的な発言をすると批判をされる風潮が残っている印象がありますが、こうしたBTSを中心とした社会活動家的な面を持つアーティストが増えることは、確実に日本のアーティストやタレントにも大きな影響を与えることになるはずです。

なんといってもBTSには日本にもたくさんのARMYがいますから、このARMYの文化に触れた日本人が、他の日本のアーティストにも同様の活動を提案する機会も増えるでしょう。

振り返ってみると、日本テレビが毎年実施している24時間テレビは、毎年ジャニーズのグループがメインパーソナリティを務める形で、ジャニーズのファンを寄付に導いているともいえます。

24時間テレビのように1年に1日だけ寄付活動を行うというのは、放送波の枠があるテレビならではの企画だと言えます。

BTSのように自らのSNSというメディアを持っていれば、BLM運動のような社会問題が起こったタイミングで寄付を募ることもできますし、自分達の誕生日を寄付をする記念日に変えることも可能な時代になっているわけです。

日本でもアーティストの社会貢献活動が増加中

実際に、日本でも既にさまざまな社会貢献に取り組んでいるアーティストが増えています。

例えば「ももクロ」こと、ももいろクローバーZは2017年から全国の自治体からオファーを募る形で、通常のアーティストがツアーを行わないような地域でのライブを開催。ももクロのファンが地域を訪れることで、地域が元気になるような取り組みに注力されているようです。

参考:ももクロが3年ぶり開催「春の一大事」で“笑顔のバトン”を福島へ、年内の大型ライブ続々決定

また、株式会社TOKIOを設立したTOKIOのメンバーは、福島県の西郷村の約8万平方メートルの土地を取得し、TOKIO-BAという新しいプロジェクトにファンを巻き込み福島県の復興を模索されています。

参考:TOKIOが土地購入「福島県西郷村」は人口増加エリアで低い高齢化率、新幹線も停まる凄い村

BTSやももクロ、TOKIOのように、自分達のファンを世の中を良い場所にするための活動に導くアーティストやタレントが増えることは、間違いなく社会に大きなインパクトをもたらしてくれるはず。

写真:REX/アフロ

BTSのホワイトハウス招待は異例中の異例の出来事だったかもしれませんが、今後こうしたBTSの活動に続くアーティストやタレントが増えて、こうした光景が異例ではない時代がくることを期待したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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