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日本で一番きれいな虫その⑦=金色のミニチュアUFO、ジンガサハムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
極小UFOのようなジンガサハムシの成虫(左)と幼少期からの脱皮殻を尻に付けた幼虫

 「ニューヨーク8番街の奇跡」という米国のSFコメディー映画には、宇宙からやってきた極小のUFO型生命体が登場する。あの生命体のモデルは絶対ジンガサハムシ、カメノコハムシの仲間だ(と昆虫記者は勝手に思い込んでいる)。

 このハムシの仲間の中で一番輝いているのが、シンプルな名前の「ジンガサハムシ」だ。ジンガサハムシはまさに、金色のミニチュアUFO。昔の日本ではUFOなどという異国の言葉は知られていなかったので、「陣笠」という古風な名が付けられてしまったが、今改名できるならUFOハムシと名付けたい。

 UFOそのものが生きていて、目があり、手足があり、空を飛ぶという「8番街の奇跡」の生命体のモデルは、ジンガサハムシの仲間以外に考えられない。

交尾中のジンガサハムシのカップル。下のは黒色型。
交尾中のジンガサハムシのカップル。下のは黒色型。

正面から見たジンガサハムシ。UFOに足が生えたような姿だ。
正面から見たジンガサハムシ。UFOに足が生えたような姿だ。

ジンガサハムシの蛹。相変わらず幼少期からの脱皮殻を背負っている。
ジンガサハムシの蛹。相変わらず幼少期からの脱皮殻を背負っている。

 ジンガサハムシの食草は、どこにでもある雑草のヒルガオだ。「ヒルガオの葉に丸い食べ跡がたくさんあれば、ジンガサハムシの成虫か幼虫がいる」というのが、これまでの常識だった。だからこのハムシを探すのは、東京周辺の昆虫記者のテリトリーでも比較的容易だった。

 だが最近になって状況が一変した。同じヒルガオ科の植物を餌にするライバルのハムシが突如出現したからだ。日本では沖縄あたりに生息していたヨツモンカメノコハムシという一回り大きなハムシが、温暖化の影響もあってか、ついに関東にも進出し、このところ急激に勢力を拡大している。

 ジンガサハムシは一気に劣勢となり、最近では東京近郊のヒルガオの茂みはヨツモンカメノコハムシだらけになった。

南方から一気に侵略してきたヨツモンカメノコハムシ。
南方から一気に侵略してきたヨツモンカメノコハムシ。

ヨツモンカメノコハムシの幼虫。背を覆っているのは糞を固めた傘のようなもの。
ヨツモンカメノコハムシの幼虫。背を覆っているのは糞を固めた傘のようなもの。

ヨツモンカメノコハムシに食い荒らされたヒルガオ。
ヨツモンカメノコハムシに食い荒らされたヒルガオ。

アサガオと違って昼も咲いているヒルガオの花。
アサガオと違って昼も咲いているヒルガオの花。

 ジンガサハムシの成虫はキラキラ系の個体が多い(ただし黒が基調のもいる)のだが、ヨツモンカメノコハムシの成虫は地味系だ。ジンガサの幼虫は、幼少の頃からの脱皮殻を尻の先に積み上げていて非常に可愛いが、ヨツモンの幼虫が尻の先に付けているのは、糞を固めた傘のようなものだ。

 成虫、幼虫ともジンガサハムシの方がずっと美しく、可愛いこともあって、判官びいきの昆虫記者はつい、「ジンガサ頑張れ!」と叫んでしまう。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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