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現在の姿が話題に上るメグ・ライアン。全盛期、ロマコメ女王としての輝きが色褪せることはない

斉藤博昭映画ジャーナリスト
1989年『恋人たちの予感』の頃のメグ・ライアン(写真:REX/アフロ)

昨年、『トップガン マーヴェリック』に大満足した人は多かったが、前作からのファンの中には、残念な声を上げる人もいた。「あの人たちは、なんで出演しなかったのか?」。

その一人は、前作でマーヴェリックの恋の相手だった教官のチャーリーを演じたケリー・マクギリス。そしてもう一人は、マーヴェリックの親友グースの妻キャロルを演じたメグ・ライアン。マーヴェリックにとって前作でのグースの死はその後の人生のトラウマにもなっており、キャロルの存在も大きかったはず。しかし『トップガン マーヴェリック』には前作のキャロルの映像がちらっと使われるのみだった。

現在のメグ・ライアンを観たかった……という人も多いが、そういえばここ数年、彼女の姿が映画やメディアに出る機会がすっかり減っていた。

そこへ突然、拡散されたのが今のメグ・ライアンの画像で、これがあちこちで話題の的になっている。5/4(現地時間)、NYで開かれたApple TV+のドキュメンタリー映画『STILL:マイケル・J・フォックス ストーリー』の上映会にメグが出席。マイケルとその妻とともに写真に収まったのだが、以前のイメージとすっかり変わってしまった外見に、さまざまな反応が寄せられることに。

「何があった? もう誰かわからん」

「認識不能」

「ちょっとショック」

など、その多くは残念な声。

一方で

「現在61歳なのだから、こんなものだ」

と一部には擁護する声もある。

2021年あたりにも、メットガラやアカデミー映画博物館開館のイベントなど、公の場に登場していたメグ・ライアンだが、そこまで大きく騒がれるほどではなかった。

2021年、アカデミー映画博物館開館のイベントで
2021年、アカデミー映画博物館開館のイベントで写真:ロイター/アフロ

こうして反響が大きいのも、そのイメージがあまりにも広く定着していたから。全盛期のメグの人気と魅力は、やや大げさに言えば映画史に刻まれるほど無敵であった。

1981年の『ベストフレンズ』で映画デビューしたメグは、1986年の『トップガン』で注目されると、後に夫となるデニス・クエイドと共演した『インナースペース』など話題作が続き、1989年の『恋人たちの予感』が、彼女を唯一無二のスターに押し上げた。

NYマンハッタンのロマンティックな風景をバックに、男女の友情が成立するかどうかという共感度満点の『恋人たちの予感』は、劇中でメグが演じるサリーが、デリカテッセンの食事中にエクスタシーの瞬間を表現するシーンが大きな話題になったりして、日本でも正月映画として大ヒットを記録。ここからメグの快進撃が始まった。

日本では劇場未公開だったが、翌1990年の『ジョー、満月の島へ行く』のヒロインとしてトム・ハンクスと共演。そのハンクスと再共演の『めぐり逢えたら』(1993年)では、すれ違いが続いていた主人公2人が、最後にNYエンパイアステートビルの屋上でロマンティックに対面。ハンクスとは『ユー・ガット・メール』(1998年)でも共演し、ネットでのメールが一般的になりつつあった時代、新しい出会いのドラマとして、またも大人気となった。

『ユー・ガット・メール』のメグ・ライアン
『ユー・ガット・メール』のメグ・ライアン写真:Shutterstock/アフロ

その他にも、花嫁と老人の心が入れ替わる『キスへのプレリュード』(1992年)、婚約者を取り戻すためにパリへ向かう『フレンチ・キス』(1995年)、外科医と天国の天使の恋を切なく描いた『シティ・オブ・エンジェル』(1998年)など、メグ・ライアンの主演作は1980年代末から90年代、ひとつのジャンルとして多くの人を魅了し続けた。『星に想いを』『電話で抱きしめて』など、邦題も「それらしく」命名されていた。

ロマンティック・コメディという言葉は、それ以前から存在していたが、メグ・ライアンの主演作によって一般化されたと言っていい。ゆえに彼女には「ロマコメの女王」という称号が与えられた。

ジュリア・ロバーツやニコール・キッドマン、ジョディ・フォスターなど同世代のスターと比べても、メグ・ライアンは何歳になっても「キュート」な印象で好感度をキープ。男女問わず愛される映画スターだったのである。

しかし得意のロマコメ主演作も、ヒュー・ジャックマンと共演し、時空を超えたロマンスが展開される『ニューヨークの恋人』あたりで終わりを告げる。同作の公開が2001年。メグ・ライアンは40歳だった。

その後も映画やドラマに出演していたメグだが、残念ながら話題作には恵まれず、仕事が激減。2015年を最後に出演作はなくなり、最近はナレーションを務めたものがあるくらい。「あの人は今どこに」的な存在になってしまった。彼女にふさわしい役はなかったのだろうかと切ない気分にもなる。

ただ今後は、8年ぶりの映画主演作も待機している。しかもメグ自身が監督を務めており、共演は「X-ファイル」などのデヴィッド・ドゥカヴニー。雪で飛行機がストップした空港で元夫婦が久しぶりに再会する、大人のロマンティック・コメディだ。ちょっぴり期待したいところだが……。

長いブランクが空いて、現在の姿が世界に広がったメグ・ライアン。全盛期の輝きを知っている人は複雑な心境かもしれないが、今も色褪せることのない当時の珠玉作を思い返しながら、彼女の俳優としての復活を待ちたい。

『ニューヨークの恋人』の来日キャンペーンより
『ニューヨークの恋人』の来日キャンペーンより写真:ロイター/アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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