ジャニーズ性加害問題 注目される「広告主」の今後の対応
ジャニー喜多川氏の性加害問題に対して、再発防止特別チームの調査報告書が公開され、大きな波紋が拡がっています。
5月のジャニーズ事務所代表のジュリー氏の謝罪動画では「疑惑」と扱われていた性加害ですが、報告書では被害者が少なくとも数百人規模にのぼる実際におきた事件であることを明言。
また、ジャニー氏の性加害だけでなく、姉のメリー氏の徹底的な隠蔽や、当時取締役だったジュリー氏が取締役の責任を全うしていなかったことを指摘し、ジュリー氏の辞任を提言。
さらには、この問題に対して沈黙を貫いたメディアの責任まで明言するという、非常に踏み込んだ内容になりました。
この指摘に対して、大手メディアは一斉に声明を発表。また、ジャニーズ事務所側も会見を9月7日に開くことを発表したようです。
参考:ジャニーズ性加害問題 NHKと民放キー局の声明そろう マスメディアに対する指摘「重く受け止め」言葉並ぶ【各局全文】
既に、このジャニー氏の性加害問題は、故人であるジャニー氏による過去最悪の性犯罪という側面だけでなく、日本の芸能界やメディア業界の構造問題としても世界から注目される問題になってしまっています。
ある意味、名指しで問題の一因として指摘された大手メディアが、今後どのように対応していくのかは一つの大きな注目点と言えます。
ただ実は、この問題においては、注目すべき存在がもう一ついます。
それがジャニーズ事務所の所属タレントに対するスポンサーとなる「広告主」です。
ジャニーズ事務所に利益を提供しつづけて良いのか?
3月にBBCがジャニー氏の性加害問題を報道してから今日に至るまで、ジャニーズ事務所所属タレントの起用方針を大きくは変更していない大手メディア同様に、多くの広告主も所属タレントを起用した広告を展開し続けています。
もちろん、あくまで今回の性加害問題の元凶はジャニー氏であり、その問題の責任を負うべきは問題を隠蔽したり放置していた事務所側にあり、所属タレントは問題とは無関係であったり被害者とも言える存在ですから、今回の調査報告書の公開をもって広告起用を停止する判断を行うべきかどうかは議論があるポイントと言えます。
そういう意味で、おそらく多くの広告主は、9月7日に実施されると発表されているジャニーズ事務所側の会見を待ち、その内容をもって判断を行う方針であると考えられます。
ただ、広告主は、薬物使用や不倫などの不祥事を起こしたタレントのCM放送は、疑惑の段階であっても即座に停止するのが一般的です。
それに対して、ここまで大規模な性加害問題を隠蔽していたことが明確になったジャニーズ事務所に対して、多額の契約金を支払う広告契約を継続し続けているということに違和感を感じる方は少なくないはずです。
実際に「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の平本淳也代表は、東洋経済の取材に対して、マクドナルドや日産自動車などの社名を挙げて、「今の事務所に利益を提供し続けることは、被害者を冒涜していませんか?」とスポンサー企業への問題提起をされているのです。
参考:「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が直言!「マクドナルドや日産などのスポンサー企業も当事者意識を」
対策が発表されるまでの期間も広告を継続するのか
ジャニーズ事務所が、今回の問題に対する対策などを発表するとされる会見を開く予定の9月7日まで、まだ1週間あります。
現時点では事務所側が、どのような対応をするかが一切見えてこないことを考えると、会見前にジャニーズ所属タレントのCMを一旦中断するという判断を行う広告主が出てきてもおかしくない状況と言えるでしょう。
特に、東京五輪開催直前に、大会開催や運営に関わる混乱を踏まえてトヨタ自動車が国内のテレビCM放映を見送ると発表したことが、他のスポンサー企業の行動にも影響をあたえたように、今回の問題に対しても、どこかのスポンサー企業が動けば多くの企業が追随する可能性もあります。
広告業界の関係者に聞いた話によると、4月に入ってからジャニーズ事務所との新規の契約を保留しているケースも出てきているようですから、少なくとも今回の発表を受けて様子見になる広告主は更に増える可能性があります。
一方で、広告主からすると、ファンの多いジャニーズの所属タレントとの既存の契約を性急に停止したり、広告出稿を取りやめたりすれば、逆にファンからの批判を受けてしまうリスクもあります。
非常に難しい判断を迫られているのは間違いないと言えるでしょう。
広告主だからこそできること
ただ、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が提言しているように、広告主は実はこの問題に対して能動的に行動することを選択することも可能です。
本来、広告主はタレントにテレビCMなどに出演してもらうことにより、自社の製品やサービスをより多くの人に知ってもらったり好きになってもらうために、スポンサーをしている立場です。
今回、再発防止特別チームが明確に問題の原因として指摘した大手メディアのように、ジャニーズ所属タレントに出演してもらわなければ既存のテレビ番組が立ちゆかなくなってしまうというレベルの、深いもたれ合いの関係にあるわけではありません。
当然、今出演中のタレントを切り替えれば既存ファンにそっぽを向かれるリスクはありますが、同じレベルのファンの多いタレントを起用することで、ある程度のカバーは可能です。
だからこそ、広告主はジャニーズ事務所に対して、所属タレントや被害者に対する対応や補償を強く要求することが可能なはずなのです。
今回の問題に対して、タレントをいかに守るかという視点で、ファンを巻き込んだ活動を考えることも可能でしょう。
それだけではなく、今回のような芸能事務所の経営者による所属タレントに対する犯罪行為や、犯罪行為の隠蔽や放置が二度と起きないように、スポンサー契約を行う芸能事務所に対する倫理基準や契約内容を厳しく見直すことで、日本の芸能界におけるタレントの地位を守る立場として行動することもできるはずです。
最悪の時期もタイガー・ウッズを支え続けたナイキ
個人的に非常に印象に残っているのが、ナイキが、タイガー・ウッズを不倫問題や薬物影響下の逮捕など、最悪の騒動を起こしたときも支え続け、奇跡の復活を後押ししていたという話です。
参考:奇跡の復活、タイガー・ウッズを支えたナイキの「信じる力」
もちろん、アスリートとタレントは違いますし、契約や問題の構造も全く違いますが、自らのブランドに貢献してくれた「恩人」に対する対応として、一つの理想と言えるはずです。
現在もジャニーズ所属タレントは、一人で複数社契約しているケースも少なくありませんし、事務所全体では契約社数は100社を超えるとも言われていますので、その影響力は非常に大きいと言えます。
当然、広告主にとっては現在の状況で声をあげること自体がリスクと感じている企業の方が多いと思われますが、問題の大きさや、これまで広告主がジャニーズ事務所に投資し続けてきた金額を考えると、実はこの問題に対して沈黙を続けることもリスクになり得る状況であると考えた方がよいはずです。
今回の騒動を通じて、ファンや視聴者は間違いなく、広告主が自社の契約タレントをどのように扱うのか、今回の問題に対してどのように対応するのかを見ています。
ネットにおいては嫌われ者として扱われがちな「広告」ですが、今回のような問題においてどのように広告主が行動するかが、今後の日本における「広告」の印象にも影響を与えるはずです。
広告主の方々が、被害者はもちろん、タレントやファンの方々にとって、今取るべき行動を選択されることに注目したいと思います。